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青髪君視点
しおりを挟む代々ジルックェンド連合国の王家に使えるフィッツ家に産まれた、妾を産みの親に持つジレスの名を持つオレと、側室から産まれたアンリ。
一族の中では年の近かったアンリは、馴れ馴れしく接してきたがオレは嬉しくは無かった。
明るく真面目で愛嬌のあるアンリは自然と周囲に可愛がられ、王族からの覚えも良かった。王弟殿下より直々に呼ばれ、御子息のファビアン様付きとなった。
そのアンリからの薦めで、年が近いという理由だけでオレもファビアン様へ仕える事となる。
フィッツ家とはいえ妾の子に産まれた時点で、直接王族に仕えることが出来るのは最高の栄誉である。お仕えする主も家格に奢らずお優しく、素晴らしいお人柄であった。
だが、これ以上の栄誉は望めない。アンリならばファビアン様の護衛が必要なくなった将来、望めばフィッツ騎士団の精鋭となれるだろう。
その時オレは、城の衛兵が関の山か。
『お前はもう少し、ネコらしく振る舞いなさい。』
産みの親から言われ続けた言葉。愛想が無い、鍛練ばかりしていて隙が無く、可愛いげが無い。
それが何か悪いのか?オレが目指すのはバルディオス帝国のキャベンディッシュ様。現在の騎士団長第1子であり、学園都市ケラフの騎士科随一の成績を誇る。
ネコでありながら実力を示し、ハレムにも所属せず高潔な御方だ。タチにすがらなくとも生きていけるということを体現なさった。
産みの親に似た青い髪に触れ、櫛で整え項あたりでシンプルな紐で縛っておく。お洒落にも興味は無く、香水や飾り石も避けて生きてきた。
妾ははの様になりたくない。一生をタチに愛されることだけをよすがにしたくない。
*
ファビアン様が通う学園都市ケラフには、中等部からアンリも共に通っている。一学年3組ある騎士科には、王族や貴族の護衛として入学した者が多い。基本的にアンリ、俺、あと交代で数名が授業以外を護衛している。
ジルックェンド連合国王族のファビアン様を何から守ると言えば、勿論タチからだ。貴族科のフェルナンド様はともかく、普通科に居るタチはネコを人間扱いしていない。
特に同学年のD級のタチは危険で、気に入ったネコをハレムに入れては暴行を加えて飽きて捨てるならともかく、飽きた者を玩具の様におぞましい仕打ちをする。
王族とはいえ、何かの間違いでファビアン様とD級が性行為を行った場合、強制的にハレムへ入れられてしまう。だからこそ、ファビアン様を絶対に会わせない様に細心の注意を払う。もし何かあれば、自分の身さえ投げ出そう。
高等部に上がり、新しい年に期待に胸を高鳴らせる。一学年上にはキャベンディッシュ様がいらっしゃるので、合同授業で会えるかもしれない。
進級及び入学式は滞りなく進んでいく。生徒中央会、風紀指導委員会からの挨拶、貴族科・普通科・騎士科の代表挨拶。学園理事からの言葉。
終了後、タチから移動する為ネコは立ち上がらずに席に着いたままだ。何となく、前方から普段以上に熱のこもったざわめきを感じる。タチが移動し姿を見せるのだ、ネコが落ち着けないのは分かる。だが、例年と何かが違う。
段々と距離が近くなるフェルナンド様…と、もう一方。姿を認めた刹那、周囲のさざめき声が耳に入らなくなった。
薄暗い会場内にも関わらず、輝くアッシュブラウンは少し癖があるのか毛先が跳ねており…。それでもそのタチらしい美貌を損なわせず、海を連想するエメラルドの瞳、通った鼻筋、薄く形の良い唇。細身だがすらりと高い背に、タチらしい骨格。フェルナンド様と気さくに話される気安い笑顔。
「…先ほど聞いたのだけど、Ⅱ組に入られるって。」
「へえ、御名前は?」
「ええと、アルフレッド・シュタルト様。出身は存じ上げないけど、S級だって。」
「…S級?!」
「凄い!!S級なんて歴史にも名が残るのでは?」
興奮し騒ぎ立てる同輩達の声が何故か遠く感じる。強がっていた自分がネコだと思い知らされたのだから。
アルフレッド・シュタルト様。
まさか、翌日からファビアン様よりそんな御方の護衛に任じられるとは思わなかった。
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