王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

鳴る鐘

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春宮千里の隣には冬宮直久。斜め後ろに秋道寺明日霞、守山智、後ろには園原美景。目立たず控えるのは夏雪、影として動くのは黒鎖。
対して月宮の隣には桜川恵、控えていた星河は最近何故か姿を消し…月宮派にも歯止めが掛かって来たと思われていた。

月宮が桜川家に行き、顔を売り双方の結束を固めるのだと噂が立ち、その日は明朝である。前日の今日、親交会の準備だとして午後は教室から姿を消していた千里。

「…さてと、盗聴機は無い。明日霞の動きは押さえているから、大丈夫だよ。早速教えてくれるかい?鈴木。」
「…はい。春宮様あ。」

明日霞に捨てられた形となっていた鈴木は、月宮派に加担している。だが、それはあくまで表向きの事だ。現在はこうして、千里と週に一度の密会を行っている。勿論、絶対にバレてならないが。

「…此方の動きですが月宮はあ、明日の11時丁度に桜川邸を訪れ、当主及び子息方と懇談をする予定ですう。滞りなく終えれば、名実と共に桜川様と月宮の結束は固い物となるかと。」

鈴木の固い表情とは異なり、千里はあくまで冷静に「そう」と頷く。
それには、千里に恩を感じる鈴木も疑問であった。

「…どうして、ですかあ?」
「ん?何がかな?」

可愛いらしい鈴木の困惑と疑念の混じる声に、首を傾げる。
僕は、別に変な事を言っていないと思うけれど。

「何で、桜川様を捨て置かれないんですかあ?いくら薬を盛られたからって、あんなの裏切りじゃないですかあ!」

鈴木が許せないのは分かる。家の為に心酔する明日霞を裏切った自分は、スッパリと切り捨てられた。
しかし、自分の不注意で敵に取り込まれた桜川恵は、今でも親交会メンバーから除名すらされない。
その上、千里自らが動いて助けようとしている。

何でかな。
『助けて』と叫んだ恵の悲痛な顔が浮かぶ。
続いて思い出すのは。

「…味方だと言ってくれたんだよ。恵は、何があっても味方だってね。」

僕は、我が儘かもしれない。これだけ思ってくれてる人が居ても、足りない。屈託なく笑う可愛い男の子。

まるで心に隙間が出来たみたいで。…変だな。ただ利用していただけなのに。
そんな千里の横顔に、鈴木は思わず胸中で呟いていた。

(羨ましいなあ…桜川様。)







その夜はただベッドに横になるだけとなった。ただ窓から射し込む月の光が眩しく感じる。カサリと、黒鎖から預かった紙を広げると、ソファーに転がり読み進めていく。

それは、桜川家の内情。桜川家には恵の上に三人の兄が居て、当主は恵よりも長男を重用しているらしい。末子相続であり、兄弟仲はとても良好…表向きは。桜川恵は、初等部より兄達との親交が激減している。

更に読み進めると、見逃せない文を見つけた。それは、黒鎖だからこそ見つけた事実だった。
桜川家長男は、自らが当主となる事を望んでおり、恵が当主に疎まれる様に動いている。実際、少しずつ恵の立場が薄くなっており、次男と三男は長男の味方である。

「恵が家に帰っているのって、見た事無かったな…。」

かわいそうに。ずっと、抱えていたんだろう。
だからこそ、助けてあげたいんだ。僕を、無条件で好いてくれる子。

そのままソファーで眠りにつき、気が付くと昇る朝日に瞼を上げる。

「…雪。」

体に掛かっているタオルケットを剥がし、手早く朝食の用意をする執事を横目に仕度に向かう。

ピシッっと皺一つ無いタイトなスーツに、レッドワインのネクタイ、スーツの胸ポケットに白いハンカチをちら見せ。髪は普段の一つ縛りで、横は耳に掛けて大人っぽく。
千里の親衛隊が見たら、それこそ発狂しただろう決まった姿である。

「おはようございます、我が君。良くお似合いでございます。」
「そうかい?ありがとう。」

夏雪は然り気無くささっと千里のスーツの裾を整え、満足そうに微笑し一歩下がった。

「…さてと、黒鎖。」
「はーい。呼びました~?暫ちゃん参上。」

居る筈の無い人物を呼び掛ければ、当たり前の様に一瞬で姿を現す。そんな姿に、千里も夏雪も驚きも見せない。

「…準備は整った。夏雪は桜川邸へ向かう準備を。黒鎖は美景を呼んで来てくれるかい?」
「畏まりました。」
「はい。隊長さんですねー。」

二人は数秒の後に姿を消した。
…既に、月宮も恵の家へ向かっているぐらいかな。恵自身と共に。

今日の目的を脳内でシミュレーションしている内に、直ぐに美景を連れて黒鎖が戻って来た。

「…お待たせしました。おはようございます、千里君!…っ素敵です。」

一段と輝く千里の姿に、美景もほうっと息を洩らし見とれるが、千里はにこりと笑みを浮かべ、相手の髪を掬い軽く口づける。

「どういたしまして、お姫様。君こそ、月に帰ってしまいそうだと僕の心が乱されているよ。」
「…っせ、千里くん…」

耳まで真っ赤に染める美景は、白いスーツに細身のネクタイで、正に御曹子といった所だろう。

可愛いな。ふふ、今回は美景にも手伝って貰わないとだからね。

夏雪の準備が終わり、外からは見えない窓ガラスの車に乗り込む。メンバーは、千里、美景、伊井歩、夏雪、黒鎖である。

道中、本日の動きを確認する事にした。土曜日である本日は、11時丁度に桜川邸に月宮が着く予定だ。
その数分後に、美景と歩が親交会の書類を渡したいと理由を付けて、桜川邸へ訪問する(名門の二人が揃って行けば、追い払われないだろう)。
三大家の直久では難しいのだ。勿論、極道の明日霞、警察関係の智も。

その対応に紛れ、千里が侵入する。黒鎖と夏雪は月宮や桜川家の者と鉢合わせない様に見張りつつ、同行する。

ここからが重要。千里は恵のみと会うのだ。例え、薬の効果を無くせなくとも、先に恵に呼ばれていたという体を作れば、桜川家も混乱する筈。何故ならば、相手は月宮と同列の春宮だから。

「…さぞかし、桜川家も月宮も困るだろうね。」

千里は意図的に意地悪そうに口角を上げる。一般の者なら少し恐怖を感じる様な物だが、同乗する者はそんな人間は居ない。

ときめく小動物2名、主の新たな表情を知り無表情に喜ぶ者1名、「その顔、めっちゃそそられますね~」と呟く者1名だったりした。




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