98 / 124
二章~親交会・対立~
鳴る鐘
しおりを挟む春宮千里の隣には冬宮直久。斜め後ろに秋道寺明日霞、守山智、後ろには園原美景。目立たず控えるのは夏雪、影として動くのは黒鎖。
対して月宮の隣には桜川恵、控えていた星河は最近何故か姿を消し…月宮派にも歯止めが掛かって来たと思われていた。
月宮が桜川家に行き、顔を売り双方の結束を固めるのだと噂が立ち、その日は明朝である。前日の今日、親交会の準備だとして午後は教室から姿を消していた千里。
「…さてと、盗聴機は無い。明日霞の動きは押さえているから、大丈夫だよ。早速教えてくれるかい?鈴木。」
「…はい。春宮様あ。」
明日霞に捨てられた形となっていた鈴木は、月宮派に加担している。だが、それはあくまで表向きの事だ。現在はこうして、千里と週に一度の密会を行っている。勿論、絶対にバレてならないが。
「…此方の動きですが月宮はあ、明日の11時丁度に桜川邸を訪れ、当主及び子息方と懇談をする予定ですう。滞りなく終えれば、名実と共に桜川様と月宮の結束は固い物となるかと。」
鈴木の固い表情とは異なり、千里はあくまで冷静に「そう」と頷く。
それには、千里に恩を感じる鈴木も疑問であった。
「…どうして、ですかあ?」
「ん?何がかな?」
可愛いらしい鈴木の困惑と疑念の混じる声に、首を傾げる。
僕は、別に変な事を言っていないと思うけれど。
「何で、桜川様を捨て置かれないんですかあ?いくら薬を盛られたからって、あんなの裏切りじゃないですかあ!」
鈴木が許せないのは分かる。家の為に心酔する明日霞を裏切った自分は、スッパリと切り捨てられた。
しかし、自分の不注意で敵に取り込まれた桜川恵は、今でも親交会メンバーから除名すらされない。
その上、千里自らが動いて助けようとしている。
何でかな。
『助けて』と叫んだ恵の悲痛な顔が浮かぶ。
続いて思い出すのは。
「…味方だと言ってくれたんだよ。恵は、何があっても味方だってね。」
僕は、我が儘かもしれない。これだけ思ってくれてる人が居ても、足りない。屈託なく笑う可愛い男の子。
まるで心に隙間が出来たみたいで。…変だな。ただ利用していただけなのに。
そんな千里の横顔に、鈴木は思わず胸中で呟いていた。
(羨ましいなあ…桜川様。)
*
その夜はただベッドに横になるだけとなった。ただ窓から射し込む月の光が眩しく感じる。カサリと、黒鎖から預かった紙を広げると、ソファーに転がり読み進めていく。
それは、桜川家の内情。桜川家には恵の上に三人の兄が居て、当主は恵よりも長男を重用しているらしい。末子相続であり、兄弟仲はとても良好…表向きは。桜川恵は、初等部より兄達との親交が激減している。
更に読み進めると、見逃せない文を見つけた。それは、黒鎖だからこそ見つけた事実だった。
桜川家長男は、自らが当主となる事を望んでおり、恵が当主に疎まれる様に動いている。実際、少しずつ恵の立場が薄くなっており、次男と三男は長男の味方である。
「恵が家に帰っているのって、見た事無かったな…。」
かわいそうに。ずっと、抱えていたんだろう。
だからこそ、助けてあげたいんだ。僕を、無条件で好いてくれる子。
そのままソファーで眠りにつき、気が付くと昇る朝日に瞼を上げる。
「…雪。」
体に掛かっているタオルケットを剥がし、手早く朝食の用意をする執事を横目に仕度に向かう。
ピシッっと皺一つ無いタイトなスーツに、レッドワインのネクタイ、スーツの胸ポケットに白いハンカチをちら見せ。髪は普段の一つ縛りで、横は耳に掛けて大人っぽく。
千里の親衛隊が見たら、それこそ発狂しただろう決まった姿である。
「おはようございます、我が君。良くお似合いでございます。」
「そうかい?ありがとう。」
夏雪は然り気無くささっと千里のスーツの裾を整え、満足そうに微笑し一歩下がった。
「…さてと、黒鎖。」
「はーい。呼びました~?暫ちゃん参上。」
居る筈の無い人物を呼び掛ければ、当たり前の様に一瞬で姿を現す。そんな姿に、千里も夏雪も驚きも見せない。
「…準備は整った。夏雪は桜川邸へ向かう準備を。黒鎖は美景を呼んで来てくれるかい?」
「畏まりました。」
「はい。隊長さんですねー。」
二人は数秒の後に姿を消した。
…既に、月宮も恵の家へ向かっているぐらいかな。恵自身と共に。
今日の目的を脳内でシミュレーションしている内に、直ぐに美景を連れて黒鎖が戻って来た。
「…お待たせしました。おはようございます、千里君!…っ素敵です。」
一段と輝く千里の姿に、美景もほうっと息を洩らし見とれるが、千里はにこりと笑みを浮かべ、相手の髪を掬い軽く口づける。
「どういたしまして、お姫様。君こそ、月に帰ってしまいそうだと僕の心が乱されているよ。」
「…っせ、千里くん…」
耳まで真っ赤に染める美景は、白いスーツに細身のネクタイで、正に御曹子といった所だろう。
可愛いな。ふふ、今回は美景にも手伝って貰わないとだからね。
夏雪の準備が終わり、外からは見えない窓ガラスの車に乗り込む。メンバーは、千里、美景、伊井歩、夏雪、黒鎖である。
道中、本日の動きを確認する事にした。土曜日である本日は、11時丁度に桜川邸に月宮が着く予定だ。
その数分後に、美景と歩が親交会の書類を渡したいと理由を付けて、桜川邸へ訪問する(名門の二人が揃って行けば、追い払われないだろう)。
三大家の直久では難しいのだ。勿論、極道の明日霞、警察関係の智も。
その対応に紛れ、千里が侵入する。黒鎖と夏雪は月宮や桜川家の者と鉢合わせない様に見張りつつ、同行する。
ここからが重要。千里は恵のみと会うのだ。例え、薬の効果を無くせなくとも、先に恵に呼ばれていたという体を作れば、桜川家も混乱する筈。何故ならば、相手は月宮と同列の春宮だから。
「…さぞかし、桜川家も月宮も困るだろうね。」
千里は意図的に意地悪そうに口角を上げる。一般の者なら少し恐怖を感じる様な物だが、同乗する者はそんな人間は居ない。
ときめく小動物2名、主の新たな表情を知り無表情に喜ぶ者1名、「その顔、めっちゃそそられますね~」と呟く者1名だったりした。
0
お気に入りに追加
554
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる