王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

月の沈黙

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「…そろそろだな。彼らを呼ぶか。」 

風紀委員会の室内、パソコンの画面に現れた 【風紀委員名簿】と書かれた文字を追う男。

星河 陽菜
黒鎖 暫時 

二つの名前を躊躇い無く、消去する。名簿には、月宮 煌有の名前のみ。無言で画面を見つめると、無感情に新たな名前を打ち込み始めた。

新たな3名、いや4名。
画面を前に、男…月宮は冷たく笑う。

二日後…桜川恵と共に桜川家に顔を売りに行くつもりだ。それが終われば、対外的にも桜川家との繋がりも確実となるだろう。春宮と桜川を全面的に断絶させる。貴様から大切な者を奪う。その為なら、どんな手段も選ばない。





離れた唇の温度が上がる。何も考えられない…正にその状態の千里には、熱を孕んで自分を見下ろす男が映る。

恐怖や疲れを吹き飛ばす体験を上書きしてしまおうと、夏雪は思っていた。と言うよりも、常に冷静で完璧な執事も男だという事だ。

目の前に弱った敬愛する相手、閉じきられた密室。
更に、脳裏には憎く思う黒鎖が千里へ口づけるシーンが浮かぶ。

(よくも我が君の初めてを…)

そう思う夏雪だが、本当の初めては桜川恵などとは知る由も無い。

思考を放棄していた千里は、未だに現状の把握が遅れていた。
え?キスされた?何で?
珍しい千里の気の抜けた表情は、更に夏雪の心に火を点ける。

「我が君…。」

もう一度、唇が重なる。角度を変えて、何度か繰り返される内に次第に深い物となっていく。千里の薄く開いた唇に、相手の赤い舌が侵入する。ゆっくりと舌が絡み合い、お互いの唾液が混ざり会う。

「………ん…っは…。」

一度離れたお互いの唇を銀糸が繋ぐ。

…ヤバイな、悪くない。
恵の時もそうだった。僕はキスが結構好きみたいだな。

ふと夏雪の視線が逸れた。危うい雰囲気に葛藤しているのかもしれない。確かに、これ以上は家にバレたら解雇もあり得る。
まあ、僕が言わなければ良いのだけれど。もう少しだけ…。

体の奥が疼いた。両腕を伸ばし、夏雪の首に回して顔を引き寄せた。戸惑う夏雪と額を合わせ、目を細めて微笑する。女の媚では無く、少しからかいと挑発を含んで。

「…良いよ、青薇。」

この時、男のスイッチが入る様を直に感じる事となった。

「どうか、お許しを。」

その言葉と同時に、食らい付く様な口づけに襲われる。
頭がクラクラする…。執事って、こんな事も完璧なのか?

「…っ雪…ちょ、まて…。」
「…ハア…我が君は、此処も甘いのですね…。」

呼吸も忘れさせる口づけの合間に、耳朶を唇で食まれ舌を這わされる。

ちょっと…待て。
そこまで来て、やっと千里の思考が戻ってくる。夏雪の欲に染まる瞳と、息も尽かせぬ猛攻に疼く体を叱咤する。

待て待て待て?何だこの状況は!いや、自分から『餌』をやって『待て』は言えないのか?
太股に触れる相手の固い物に気付き、冷や汗も浮かぶ。

「…ま、雪…っ僕、初めて……。」

だから止めろと言ったつもりだが、スイッチの入った夏雪は千里の頬に口づけて微笑む。

「…はい。大丈夫です、全てお任せ下さい。」

千里の結んでいた髪が解かれ、ソファーに散らばった。

悪くないかもしれない。
そう思った時、室内の空気がガラリと変わった。

「なあに、やってるんですかあ?」
「…黒鎖。出て行け。」

夏雪の米神にピタリと当たる真っ黒い拳銃の銃口。黒鎖の口調は飄々としている物だが、視線は鋭い殺意が込められていた。ピリッとした空気の中、黒鎖は言葉を続ける。

「執事君に、春宮の執事長さんからお電話ですよー?」

おや?爺やから。
夏雪もそこは流せぬ相手だからか、千里を優しく抱き起こして不本意そうに立ち上がった。

「…城ヶ根家の事かもしれません。少々行って参ります。」
「そうだね。よろしく頼むよ。」

ソファーに座り直し葦を組むと、普段の笑みを向けて頷く。先程までの空気を感じさせずにお辞儀し、部屋を去る空気をぼんやりと見つめる。

結構…危なかったな。

「…駄目ですよ~。」
「…え?」

ソファーに顎を乗せる黒鎖は、拳銃を軽く拭いて懐にしまい入れた。何が駄目かと聞く前に、いつも被るフードを下ろす男は笑みを消していた。

「王子様を待つお姫様が居るんだから、駄目だよ。」

恵。
助けて、と泣く可愛い人を思い出して胸を押さえる。

「…うん。駄目だね。」

助けないと。それまで、隙を作ってはならな
い。
コンコンと扉をノックする音と同時に、黒鎖の声が重なった。

「あ、その表情すっごいそそられますね~。」
「それは、ありがとう。」

特に黒鎖の言葉には深く反応しない事にする。
それよりも…。ノックと共に入室した人物に集中する事が先決だ。

「どうしたんだい、美景。」
「千里君、至急の報告が!」


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