王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

お披露目は突然side城ヶ根早苗

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男なんて嫌いだわ。

大事な母に偉そうに主人の様な振る舞いをしたのは、父という名の男。
大事な妹を、あっさりと捨てた婚約者という名の男。
城ヶ根家には、二人の娘しか生まれずに、跡継ぎはどうするのだと騒いだのも男。

そして、4才の頃…専属の運転手に二人きりの時に車を急に止められ…

「早苗お嬢様、お慕いしています…」

そういって、幼い私は震える事しか出来ず、おぞましい経験をした。偶然に忘れ物を持ってきた執事に見付かり、危うい所で助けられたが、私の心に大きな傷をつけたのだった。
暫くは男性が側にいるだけで吐き気が止まらず、過呼吸に陥ってしまっていた。

心配した母に連れられたのは、全寮制の女子だけの学校。幼稚舎の年長から入る事となった私は、他者と距離を取る人間だった。城ヶ根家に生まれた誇りで他者を見下し、男に媚びを売る女という生き物を憎んだ。

そう、この時は男を嫌って、女を恨んでしまっていたのだ。それを変えたのは、たった一人の存在。

「さなえちゃんだっけ?きれいなかみだね。」

庭のうさぎ小屋の前でしゃがんでいた私に話し掛けたのは、生まれて初めて見たキレイな女の子。
『一緒に遊ぼう』とか『友だちになろう』とか、そんなありきたりな言葉じゃなくて、純粋に私を見つめて微笑んだ表情に惹かれた。

優しくて真っ直ぐな千里ちさとと共に居る様になるのは、必然だったのだろう。
いつも自然と中心にいるチサト。自然と、周囲の人間を引っ張っていくチサトが好きだわ。

私の大事な、一番大切な親友。

それなのに、貴女は『男』になってしまった。遠くへ行ってしまった。私の大好きなチサトは、どうなってしまうの?





「早苗様、そろそろでございます。」

城ヶ根 早苗は、思い返す思考を打ち切って「ええ」と短く返した。艶やかな薄茶の髪は腰まで伸び、白百合の様に匂やかな少女は冷たい笑みを浮かべる。

私は今日、婚約のお披露目をする。結局は、泣きついても怒っても、拒んでも、父の説得は出来なかった。

『冬宮家に嫁入りするのに、何の不満がある』

それだけだ。私が冬宮に嫁ぎ、妹は月宮にでも嫁がせられるのか。そして、父は都合の良い男子を養子に取り、城ヶ根家の地盤を固めるのだ。
だから、男は嫌い。ふふ、良い方法を思い付いたわ?…パーティーを台無しにすれば良い。

早苗は一人ほくそ笑む。

冬宮御曹子に、飲み物をかけてしまう?螺旋階段を降りるときに足を掛ける?
込み上げてきた笑いだったが、直ぐにそれは冷めてしまう。

そんな事…出来る訳ないのよね。父はどうでも良いけれど。責められる母を思うと、無理な話し。更に妹にまで余波が広がったらなんて思ったら…。

ぎゅっと両手を握り、震える喉で息を吐く。扉をくぐって顔を上げた瞬間には、口元に柔らかな笑みさえ浮かべて螺旋階段を降りて行く。

今はもう『城ヶ根家の子女』となった。

大広間の中央には先に着いていた冬宮子息が、多くの客に囲まれ挨拶を交わしている。
確かに、外見は悪くないと思う。それでも、私は男性を愛せないのだ。

「ほら、お前も此方に。」
「…ええ、お父様。」

そつなく返事を返し、冬宮子息の隣に並ぶ。皆の目に映るお似合いの若き二人。沸き上がる客人には悪いが、私の気持ちはまるで鉛のよう…。

きっと冬宮子息もそうなのね。視線が合った事は無いし。…どうしましょう。

ふと、父の雰囲気が変わる。何故か大広間の舞台に上げられる早苗と直久。困惑する当事者を無視した進行は続く。次に口を開いたのは冬宮家当主である。

「皆様、お集まり頂きありがとうございます。わざわざ皆様にお集まり頂いたのは他でもございません…。」

一度そこで区切り、あからさまに睨み付ける自分の息子にふっと笑う。
今にも逃げ出そうとする直久だったが、それは出来ない。何故なら父から『パーティーを途中放棄した場合、学園へ退学手続きを取る』と。

直久の学園への執着は、冬宮当主には知られていたのだ。奥歯を噛み締める直久の隣では、早苗の瞳が揺れていた。

私…婚約させられるの?好きでもない人と?いいえ。それ以前に男なんか。
冬宮当主がそば近くのスタンドマイクに、決定的な一言を言い放つ。

(…千里、どうしよう?)
(千里、俺は…)

二人の思考が止んだ。

「此処に、我が息子直久と城ヶ根早苗嬢の婚約を発表し………」

ワッと歓声が沸き上がる筈であった。しかし、その一瞬凛とした声に遮られる。

「その婚約、お待ち下さい!」

静まり返った観衆の視線には、ある三人組が映るのであった。
執事風の眼鏡をかけた人物。正装に身を包んだ上背のある人物、小柄な可愛いらしい人物。執事風の人物は、優雅に礼を取ったのだ。

「少しだけ、お話しよろしいでしょうか?」

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