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二章~親交会・対立~

妖精奪還前に

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黒鎖を引き入れた夜の9時頃、千里は特定のメンバーを集めた。場所は春宮親衛隊の隊員の一室である。
というのも、Sクラスメンバーの部屋では月宮に情報が洩れる恐れがあるからだ。部屋を提供した隊員は、既に友人の部屋に退去してくれていた。

因みに、集まったメンバーは、美景、明日霞、智…であるのだが。

「…さてと、皆遅い時間にありがとう。会議室や教室だと、何処で流れるかもしれないからね。」
「ぜんっぜん構わないよ~!ってか、1つ良い?」

各々がソファーに腰を下ろし、夏雪の淹れたコーヒーや紅茶を啜り、菓子類に手を伸ばす。
少しリラックスしたティータイムといった所か。

明日霞の聞きたい事に心当たりのある千里は、直ぐに「良いよ」と続きを促す。

「うん。あのさ~、そいつが此方側についたのはもう諦めたとして、何で普通に居るの?」

至極嫌そうな明日霞の目線には、窓際で鼻歌を歌いながら武器の手入れをする黒鎖であった。

うん。だろうね。いや、僕もいつ言おうかと思っていたけど。

「…黒鎖、何で居るんだい?」

いや、むしろいつから居たんだろう。きっと、いや絶対に呼んでいないのだけど。

「んん?おいし~いお菓子に釣られまして。」

ニヤッと見える口元だけで笑い、いつの間にやら手に取ったクッキーをかじる。

お菓子、と言いながら千里へ向ける視線は怪しい。
美景は完全無視を決め込み、智は横目に見ただけで直ぐに砂糖を多量に淹れた紅茶を口にした。良い思い出の無い明日霞の表情は、何となく複雑そうである。

「そいつ、裏切らないの?」
「…今現在の雇用主ははるみやになっているから、とりあえずは大丈夫だろうね。」

黒鎖は雇用という形を断ったが、月宮側に居た彼を簡単に側に居させたら、周囲は良くは思わないだろう。それに、僕にも裏の仕事をさせる人材は必要だ。

「ワンちゃんは心配性症ですね~。」
「お前…やっぱり嫌いだわ。」

明日霞の嫌悪感たっぷりの視線にも、むしろ楽しそうな黒鎖は不可思議に思うのである。機嫌良くまたクッキーに手を伸ばす黒鎖から、無表情に夏雪が皿を取り上げた。

「…おやおや?執事くん、意地悪ですか?」
「遠慮という言葉を脳内に書き入れてはいかがでしょうか?」

一息に言い切った夏雪は、普段の涼しい表情に冷たい視線を添えていた。

ああ、やっぱり雪も黒鎖が苦手か。それはそうか…腕を折られた訳だし。
そう思う千里だが、的は外れていたりする。

(雨の中我が君を走らせた事実は、一生忘れない。) 

夏雪の静かな睨みを気にも留めず、立ち上がる黒鎖は相手の腕を掴み、片手で頬に触れた。

「別に食べるのはお菓子じゃなくても、良いんですよ~?」

その瞬間、夏雪の全身に悪寒が走りおもむろに後退り、千里の背中に身を寄せる。無言で、自分の腕を擦る執事を見た全員の心が合わさった瞬間であった。 

(ああ…夏雪ってノーマルか)

バイの多いいこの学園では、ノーマルの方が少なかったりする。やはり幼い頃から同性のみの環境だからか、同性愛者もいるが。

「黒鎖って誰でもいけるんだね。」
「ん~?まあ、顔が良ければ身長も年齢も気にしないですねえ。」
「うっわマジで!?俺は自分より小さくないと無理だわ。」

黒鎖の発言に、明日霞は目を丸くする。
明日霞はそれはいつも言っているな。そんなに身長って大事だろうか?

「…そうなんだ。智と美景はどう?」

そうですね、と美景は少し考えてから愛らしくはにかんだ。

「私は、容姿よりも好きになった人がタイプです。」

(いや、千里ちゃんラブの時点で充分面食いだよ。)

という明日霞の突っ込みなど誰も知らない。智の方は一度頷き「優しい人」と答える。

そんな穏やかなやり取りを見つつ、千里の胸中では直久と恵の不在を物足りなく思う。
やはり、直久と明日霞の口論があって、恵が横で甘えてきて、美景が時折皆を宥めて、智がひたすらマイペースで…そんな日常を取り戻したい。

だからこそ。

「…ではそろそろ、本題に移らせて貰うね。」

その言葉に皆の動きが止まり、千里へ視線が集まる。皆の視線を受けて、大方ついているだろう検討を確認する為に口を開く。

「僕は、現在恵の親衛隊とは距離を取っている。しかし、ある筋の情報では恵の親衛隊は、月宮の差し金でそうさせられていると知ったんだ。 」

なるほど、と相槌が返された。ある筋の正体は言えないが、本当に千里の役に立っている。

「僕は、恵を月宮から取り戻したいと思う。」

やはり検討はついていたのか、驚きは見られない。

「その前に、やって置く事があるんだ。わかるかい?」
「…?情報収集でしょうか?」

美景の答えに、首を横に振る。もっと重要な事がある。

「…冬宮。」

ふと、智の呟きが室内に響く。 

「…うん、当たりだよ智。」
「冬宮君、ですか?」

そう、と千里はニコリと笑い、簡単に今まで考えていた事を話し出す。月宮が動き出してから、冬宮での仕事が急速に増えて、何故か早まった婚約について。

「…それは」
「ああ…。」
「ええ。」
「へえ~。」
「なるほど。」

察しの良い皆は答えに辿り着いた様だ。つまり、月宮側が何らかの行動を起こして冬宮直久を、学園から離れさせているのだろう。
冬宮という一大勢力が春宮と組むだけで、月宮も分が悪くなる。しかし、多忙で学園に居る時間を減らせば減らすだけ、有利に働くのだと。 

「…つまり、今しなければいけないのは、冬宮家の問題を片付ける事。」
「なるほど~。じゃあ、どうするんですか~?」

この状況でも楽しげな黒鎖の問い掛けに出た千里の答えは、夏雪ですら呆気に取られる事となった。

「そうだね。冬宮に乗り込むよ。」

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