86 / 124
二章~親交会・対立~
妖精奪還前に
しおりを挟む
黒鎖を引き入れた夜の9時頃、千里は特定のメンバーを集めた。場所は春宮親衛隊の隊員の一室である。
というのも、Sクラスメンバーの部屋では月宮に情報が洩れる恐れがあるからだ。部屋を提供した隊員は、既に友人の部屋に退去してくれていた。
因みに、集まったメンバーは、美景、明日霞、智…であるのだが。
「…さてと、皆遅い時間にありがとう。会議室や教室だと、何処で流れるかもしれないからね。」
「ぜんっぜん構わないよ~!ってか、1つ良い?」
各々がソファーに腰を下ろし、夏雪の淹れたコーヒーや紅茶を啜り、菓子類に手を伸ばす。
少しリラックスしたティータイムといった所か。
明日霞の聞きたい事に心当たりのある千里は、直ぐに「良いよ」と続きを促す。
「うん。あのさ~、そいつが此方側についたのはもう諦めたとして、何で普通に居るの?」
至極嫌そうな明日霞の目線には、窓際で鼻歌を歌いながら武器の手入れをする黒鎖であった。
うん。だろうね。いや、僕もいつ言おうかと思っていたけど。
「…黒鎖、何で居るんだい?」
いや、むしろいつから居たんだろう。きっと、いや絶対に呼んでいないのだけど。
「んん?おいし~いお菓子に釣られまして。」
ニヤッと見える口元だけで笑い、いつの間にやら手に取ったクッキーをかじる。
お菓子、と言いながら千里へ向ける視線は怪しい。
美景は完全無視を決め込み、智は横目に見ただけで直ぐに砂糖を多量に淹れた紅茶を口にした。良い思い出の無い明日霞の表情は、何となく複雑そうである。
「そいつ、裏切らないの?」
「…今現在の雇用主は僕になっているから、とりあえずは大丈夫だろうね。」
黒鎖は雇用という形を断ったが、月宮側に居た彼を簡単に側に居させたら、周囲は良くは思わないだろう。それに、僕にも裏の仕事をさせる人材は必要だ。
「ワンちゃんは心配性症ですね~。」
「お前…やっぱり嫌いだわ。」
明日霞の嫌悪感たっぷりの視線にも、むしろ楽しそうな黒鎖は不可思議に思うのである。機嫌良くまたクッキーに手を伸ばす黒鎖から、無表情に夏雪が皿を取り上げた。
「…おやおや?執事くん、意地悪ですか?」
「遠慮という言葉を脳内に書き入れてはいかがでしょうか?」
一息に言い切った夏雪は、普段の涼しい表情に冷たい視線を添えていた。
ああ、やっぱり雪も黒鎖が苦手か。それはそうか…腕を折られた訳だし。
そう思う千里だが、的は外れていたりする。
(雨の中我が君を走らせた事実は、一生忘れない。)
夏雪の静かな睨みを気にも留めず、立ち上がる黒鎖は相手の腕を掴み、片手で頬に触れた。
「別に食べるのはお菓子じゃなくても、良いんですよ~?」
その瞬間、夏雪の全身に悪寒が走りおもむろに後退り、千里の背中に身を寄せる。無言で、自分の腕を擦る執事を見た全員の心が合わさった瞬間であった。
(ああ…夏雪ってノーマルか)
バイの多いいこの学園では、ノーマルの方が少なかったりする。やはり幼い頃から同性のみの環境だからか、同性愛者もいるが。
「黒鎖って誰でもいけるんだね。」
「ん~?まあ、顔が良ければ身長も年齢も気にしないですねえ。」
「うっわマジで!?俺は自分より小さくないと無理だわ。」
黒鎖の発言に、明日霞は目を丸くする。
明日霞はそれはいつも言っているな。そんなに身長って大事だろうか?
「…そうなんだ。智と美景はどう?」
そうですね、と美景は少し考えてから愛らしくはにかんだ。
「私は、容姿よりも好きになった人がタイプです。」
(いや、千里ちゃんラブの時点で充分面食いだよ。)
という明日霞の突っ込みなど誰も知らない。智の方は一度頷き「優しい人」と答える。
そんな穏やかなやり取りを見つつ、千里の胸中では直久と恵の不在を物足りなく思う。
やはり、直久と明日霞の口論があって、恵が横で甘えてきて、美景が時折皆を宥めて、智がひたすらマイペースで…そんな日常を取り戻したい。
だからこそ。
「…ではそろそろ、本題に移らせて貰うね。」
その言葉に皆の動きが止まり、千里へ視線が集まる。皆の視線を受けて、大方ついているだろう検討を確認する為に口を開く。
「僕は、現在恵の親衛隊とは距離を取っている。しかし、ある筋の情報では恵の親衛隊は、月宮の差し金でそうさせられていると知ったんだ。 」
なるほど、と相槌が返された。ある筋の正体は言えないが、本当に千里の役に立っている。
「僕は、恵を月宮から取り戻したいと思う。」
やはり検討はついていたのか、驚きは見られない。
「その前に、やって置く事があるんだ。わかるかい?」
「…?情報収集でしょうか?」
美景の答えに、首を横に振る。もっと重要な事がある。
「…冬宮。」
ふと、智の呟きが室内に響く。
「…うん、当たりだよ智。」
「冬宮君、ですか?」
そう、と千里はニコリと笑い、簡単に今まで考えていた事を話し出す。月宮が動き出してから、冬宮での仕事が急速に増えて、何故か早まった婚約について。
「…それは」
「ああ…。」
「ええ。」
「へえ~。」
「なるほど。」
察しの良い皆は答えに辿り着いた様だ。つまり、月宮側が何らかの行動を起こして冬宮直久を、学園から離れさせているのだろう。
冬宮という一大勢力が春宮と組むだけで、月宮も分が悪くなる。しかし、多忙で学園に居る時間を減らせば減らすだけ、有利に働くのだと。
「…つまり、今しなければいけないのは、冬宮家の問題を片付ける事。」
「なるほど~。じゃあ、どうするんですか~?」
この状況でも楽しげな黒鎖の問い掛けに出た千里の答えは、夏雪ですら呆気に取られる事となった。
「そうだね。冬宮に乗り込むよ。」
というのも、Sクラスメンバーの部屋では月宮に情報が洩れる恐れがあるからだ。部屋を提供した隊員は、既に友人の部屋に退去してくれていた。
因みに、集まったメンバーは、美景、明日霞、智…であるのだが。
「…さてと、皆遅い時間にありがとう。会議室や教室だと、何処で流れるかもしれないからね。」
「ぜんっぜん構わないよ~!ってか、1つ良い?」
各々がソファーに腰を下ろし、夏雪の淹れたコーヒーや紅茶を啜り、菓子類に手を伸ばす。
少しリラックスしたティータイムといった所か。
明日霞の聞きたい事に心当たりのある千里は、直ぐに「良いよ」と続きを促す。
「うん。あのさ~、そいつが此方側についたのはもう諦めたとして、何で普通に居るの?」
至極嫌そうな明日霞の目線には、窓際で鼻歌を歌いながら武器の手入れをする黒鎖であった。
うん。だろうね。いや、僕もいつ言おうかと思っていたけど。
「…黒鎖、何で居るんだい?」
いや、むしろいつから居たんだろう。きっと、いや絶対に呼んでいないのだけど。
「んん?おいし~いお菓子に釣られまして。」
ニヤッと見える口元だけで笑い、いつの間にやら手に取ったクッキーをかじる。
お菓子、と言いながら千里へ向ける視線は怪しい。
美景は完全無視を決め込み、智は横目に見ただけで直ぐに砂糖を多量に淹れた紅茶を口にした。良い思い出の無い明日霞の表情は、何となく複雑そうである。
「そいつ、裏切らないの?」
「…今現在の雇用主は僕になっているから、とりあえずは大丈夫だろうね。」
黒鎖は雇用という形を断ったが、月宮側に居た彼を簡単に側に居させたら、周囲は良くは思わないだろう。それに、僕にも裏の仕事をさせる人材は必要だ。
「ワンちゃんは心配性症ですね~。」
「お前…やっぱり嫌いだわ。」
明日霞の嫌悪感たっぷりの視線にも、むしろ楽しそうな黒鎖は不可思議に思うのである。機嫌良くまたクッキーに手を伸ばす黒鎖から、無表情に夏雪が皿を取り上げた。
「…おやおや?執事くん、意地悪ですか?」
「遠慮という言葉を脳内に書き入れてはいかがでしょうか?」
一息に言い切った夏雪は、普段の涼しい表情に冷たい視線を添えていた。
ああ、やっぱり雪も黒鎖が苦手か。それはそうか…腕を折られた訳だし。
そう思う千里だが、的は外れていたりする。
(雨の中我が君を走らせた事実は、一生忘れない。)
夏雪の静かな睨みを気にも留めず、立ち上がる黒鎖は相手の腕を掴み、片手で頬に触れた。
「別に食べるのはお菓子じゃなくても、良いんですよ~?」
その瞬間、夏雪の全身に悪寒が走りおもむろに後退り、千里の背中に身を寄せる。無言で、自分の腕を擦る執事を見た全員の心が合わさった瞬間であった。
(ああ…夏雪ってノーマルか)
バイの多いいこの学園では、ノーマルの方が少なかったりする。やはり幼い頃から同性のみの環境だからか、同性愛者もいるが。
「黒鎖って誰でもいけるんだね。」
「ん~?まあ、顔が良ければ身長も年齢も気にしないですねえ。」
「うっわマジで!?俺は自分より小さくないと無理だわ。」
黒鎖の発言に、明日霞は目を丸くする。
明日霞はそれはいつも言っているな。そんなに身長って大事だろうか?
「…そうなんだ。智と美景はどう?」
そうですね、と美景は少し考えてから愛らしくはにかんだ。
「私は、容姿よりも好きになった人がタイプです。」
(いや、千里ちゃんラブの時点で充分面食いだよ。)
という明日霞の突っ込みなど誰も知らない。智の方は一度頷き「優しい人」と答える。
そんな穏やかなやり取りを見つつ、千里の胸中では直久と恵の不在を物足りなく思う。
やはり、直久と明日霞の口論があって、恵が横で甘えてきて、美景が時折皆を宥めて、智がひたすらマイペースで…そんな日常を取り戻したい。
だからこそ。
「…ではそろそろ、本題に移らせて貰うね。」
その言葉に皆の動きが止まり、千里へ視線が集まる。皆の視線を受けて、大方ついているだろう検討を確認する為に口を開く。
「僕は、現在恵の親衛隊とは距離を取っている。しかし、ある筋の情報では恵の親衛隊は、月宮の差し金でそうさせられていると知ったんだ。 」
なるほど、と相槌が返された。ある筋の正体は言えないが、本当に千里の役に立っている。
「僕は、恵を月宮から取り戻したいと思う。」
やはり検討はついていたのか、驚きは見られない。
「その前に、やって置く事があるんだ。わかるかい?」
「…?情報収集でしょうか?」
美景の答えに、首を横に振る。もっと重要な事がある。
「…冬宮。」
ふと、智の呟きが室内に響く。
「…うん、当たりだよ智。」
「冬宮君、ですか?」
そう、と千里はニコリと笑い、簡単に今まで考えていた事を話し出す。月宮が動き出してから、冬宮での仕事が急速に増えて、何故か早まった婚約について。
「…それは」
「ああ…。」
「ええ。」
「へえ~。」
「なるほど。」
察しの良い皆は答えに辿り着いた様だ。つまり、月宮側が何らかの行動を起こして冬宮直久を、学園から離れさせているのだろう。
冬宮という一大勢力が春宮と組むだけで、月宮も分が悪くなる。しかし、多忙で学園に居る時間を減らせば減らすだけ、有利に働くのだと。
「…つまり、今しなければいけないのは、冬宮家の問題を片付ける事。」
「なるほど~。じゃあ、どうするんですか~?」
この状況でも楽しげな黒鎖の問い掛けに出た千里の答えは、夏雪ですら呆気に取られる事となった。
「そうだね。冬宮に乗り込むよ。」
0
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる