王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

お泊まりの夜に

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いや、まあ。もしも明日までに黒鎖を落とせないなら、全校生徒にバラされる危険性はあったけれども。まさか、雪に先に知られてしまうとは。

智の部屋のリビングにて、ソファーに凭れて借りたドライヤーで髪を乾かす。先ほどよりは気持ちは落ち着いてきたが、冷静になればなる程思考は悪い方へ転がってしまう。

最悪は、雪を執事から外すか?退学させるか…。いや、黒鎖との取り引きが最悪の事態となったら、結局は同じだしな。
ふう、と息を吐いてソファーの肘掛けに肘を付くと「明日になるまで、考えないでおくか」と呟いた。 

そうこうしている内に智がお風呂から上がり、千里へ冷たい飲み物を渡してくる。先ほどの事を思い出したのか、智の頬が微かに赤い。

「ありがとう」と笑みを向けて受け取り、喉を潤す。千里を見つめる智の青みがかった髪がサラリと揺れる。

癖の無い綺麗な髪だな。
美景などは本当は癖のある髪質という噂だが、それが嘘なのではと思うくらい毎日綺麗に整っているし、明日霞は癖を生かしてセットをしていたっけ。

「…なに?」

ああ、思わず見つめてしまったみたいだね。

「ん?いや、僕も髪を切ろうかなと思ってね。」

現在は肩を超えた長さを保ち、普段はうなじから髪ゴムで縛っている千里である。
もっと思いきって切れば、男性に近付けるだろうか。

「……そのままで、良い。」
「うん?何か?」

智の声が小さくよく聞こえない為、首を傾げてもう一度問い掛ける。 

「千里は、そのままで…良い。」
「そっか。そう言って貰えると嬉しいよ。」

優しい笑顔を送り、自らの髪に触れて一度頷く。
智は口数が少なく苦手だと言う生徒も居るけれど、僕には口ばかりが出過ぎてしまう者より、よほど信用できると思う。

智と食後のクッキーや、ゼリーなどの軽い甘味を頂き、そろそろ就寝の時間となっていた。彼も早めに眠るタイプだった様で、リズムがとても合わせやすい。

「じゃあ僕はソファーで…。」
「…え?」

千里のごく自然に出た言葉に、智の戸惑った様な悲しい様な表情が浮かんだ。

いや、僕も知っているよ?確かほとんど部屋の作りは一緒だと思うので、絶対シングルベッドだろう。
突然のお泊まりだったので、智の様子的に予備の布団一式は無いと踏んだ。 

それにどうなんだろうか。男友達というのは、同じベッドで眠るものなのか?
男同士のお泊まりを知らない千里にとって、夜の時間は未知の領域なのである。

「俺が、ソファーで寝るから…千里が、ベッドで寝て?」

ああ、そうきたか。

「いや、お邪魔しているのはこっちだし。このソファーも柔らかいから大丈夫だよ。」

そう言うものの、智は引く気配は無い。何度かそういったやり取りが繰り返される。

「俺が…」
「いや僕が…」

仕方なく、結局は智のベッドに一緒に眠る事になったのだが。

…大丈夫だろうか?
絶対に眠れない自身がある。智の寝室はあまり物が無く、色合いも落ち着いていて居心地は悪くないが。

「…おやすみ。」
「ああ、おやすみ…智。」

相手もやはり気恥ずかしいのか、背を向けたまま呟く様に言うと寝息が聞こえる。千里というと、智の背を見つめる形だが、共寝する緊張で眠気は襲ってこない。片腕を枕にし、一応目を閉じておく。

明日はどうしようか。雪と話しをして、黒鎖との約束と…恵の事を思うと気が重い。
つらつらと思考に耽る中、ふと静かな声が耳に入る。

「…千里…もう、寝た?」

彼方を向いたままの智の声に気付くが、何となく返事を返さず眠った振りを続けた。

小さく小さく息を吐く智。

「良かった…眠れたんだ。俺は凄く心配だった。桜川は千里を振り回すし、千里は優しいから秋道寺の親衛隊まで気にしていて…。」

智は多少の眠気も有るのか、口調は段々とゆったりとした物となっていく。

「でも…俺はそんな千里が、好きだよ。誰にでも優しくて、自分の事を後回しに…して。…今度はきっと、俺が助ける。」

…どうして?
呼吸が止まるのを堪え、反応を出さない様に気遣う。

「千里は、俺の光なんだよ…。」

そこで、智の言葉が途切れて本格的に眠りに入った事が分かった。
光か…僕はそこまでの存在になれているのかな。智。もし…

「もし、僕が………………………でも、良いのかい?」

囁く様に唇から出た言葉は、目を瞑り寝息を立てる相手には勿論届かない。

全く、何を言ってるんだ僕は。
知らず苦笑を浮かべ、少しずつ暖かな微睡みに誘われる。

今夜は良い夢が見られそうだ。
この6時間後、千里は初めて男性の朝の生理現象を見る事になろうとは…まだ知る由も無い。


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