王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

※浴場

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…不味い。

一瞬で思考を整理し、素早く背を向けてタオルで体を巻く。湯気も多く、浴槽のお湯も入浴剤で色がついている。上手くやれば、いけるかもしれない。

……よし。
早くなる鼓動を落ち着かせ、こっそりと息を整える。体を反転せずに、自然に感じる様に声だけで返事を返す。

「嬉しいけれど、僕はもう体を洗ったんだよ。…僕が、智の背中を流そうか?」
「………良いの?」

少し驚いた智の口調からは、千里の体を見ては居ないと思える。肩までお湯に浸かったまま、智の服を脱ぐ衣擦れの音を耳にした。

どうにか、やり過ごさなければ…。

浴室に入ってきた智にバスチェアに座らせ、そうっと浴槽から出て彼の後ろに回る。智の性質上、気軽に振り返るとも思わないが、今の千里の姿は一発で女性と分かるものだった。
濡れた髪を後頭部で緩く纏め、タオルで体を巻いたとは言え、胸元ときゅっとしたくびれは曲線を帯びている。

前方にある鏡は曇っていて、それに気付いた智がシャワーを充てようとした時に、つうと指で背中を撫でた。

「…っせん、り?」
「…ふふ。綺麗な肌だね。」

高ぶる緊張を押し殺し、シャンプーを手に取り丁寧に髪を洗ってやる。気持ち良さげに目を閉じた相手に安堵し、一度お湯で洗い流しコンディショナーとリンスを続けて使う。

「痒い所はないかい?」
「…うん、気持ち良い…。」
「そう、良かった。じゃあ、次は…。」

手にボディーソープを取りゆっくりと泡立て、後ろから智の背中を撫で広げていく。

「……っ!」

千里の手が触れる間中ビクリと肩を跳ねさせる相手に、知らず笑みが浮かぶ。
肩、腕、指先へとゆっくり移動していく。その度に相手の体は揺れ、羞恥か違う感情か、両耳が赤い。
滑らかな足元から太股まで手を移動した時「っ…」と小さく息を洩らす智。

本当に綺麗な肌をしている。元々毛質が柔らかいのか、無駄毛も気にならないのだ。…少し、楽しくなってきたかも?

相手の反応を楽しみ、太股と足の付け根辺りを焦らす様に撫でて、耳元に唇を寄せた。

「…智、どうして欲しい?」

はあ、と熱い息を吐き、智の瞳は既に欲を孕んでいた。浴室に、夜の気配が漂う。

守山智は、元来性欲は薄い方である。毎日の様に誰かと繋がる明日霞とも、気が向けば適当な相手選び性欲を発散する直久とも違う。千里への気持ちを恋だとも自覚していない智にとって、今の状況は強すぎる刺激となっていた。

「触って…欲しい…。」

艶のあるその声に誘われる様に、直ぐ後ろから千里の手が智のソレに触れる。

「………あっ」

既に芯を持ち角度を変えるモノを軽く握り、ゆっくり前後に擦っていく。

「…っ千里、だ…め…っや…」

美景の時も思ったが、あまり嫌悪感を感じないのが不思議だ。年頃の女子なら、見ただけでも騒ぐのだろうか?いや、どうでも良いか。

プルプルと肩を震わせる智を可愛く思う。顔は見えないが、きっと善い顔をしているだろう。

「…本当に、駄目?」
「…っう……せ、んり…。」

相手の耳朶を軽く食み、耳の裏に舌を這わせ囁く。
今度は強弱をつけて握り、尿道を軽く引っ掻き指の腹で撫でてみる。限界が近いのか、智の自身は浴室の天井へ向き膨張し張り詰めていた。

「……だ…め、もう…いく、でるっ………」

両手で顔を隠し俯く智の背後で思わず微笑み、それだけで媚薬と思う艶を込めて口を開く。最後に張り詰めた自身を指で弾き。

「良いよ?出して。」

直後に出る白濁は、勢い良く浴室の床に放たれる。
余韻に浸り、力無く浅い呼吸を繰り返す智の頭を優しく撫でておく。

「頑張ったね。後はゆっくりお湯に浸かると良いよ?僕は先に上がっているね。」

コクリと頷いたのを確認し、不自然にならない程度に素早く脱衣場に出る。

…良かった。
なんとかバレずに済んで安堵してから、巻いたタオルを外して携帯の着信音に気づく。

雪…?

見てみるとどこかでボタンを押したのか、相手に発信してしまったらしい。
うわ、何度も着信が来てる…後でかけ直さないと。

ダダダダダ…!
そう思ったと同時に、何か焦った様な足音にふと扉前に顔を上げる。勢い良く放たれる脱衣場の扉。

「我が君!何かございました…か……………………………………………」

冷静沈着で完璧な執事は、人生で初めて思考を停止した。開け放たれた脱衣場には、湯上がりに下ろした長い髪に、一糸纏わぬ千里の姿が。
一瞬の出来事に、勿論初めに口を開いたのは千里であった。

「夏雪、とりあえず閉めろ。」 
「っは、も、申し訳、ござ…いません。」

本当に珍しく言葉を噛み眉を寄せて顔を真っ赤にし、素早く閉められた扉の外では何かにつまづく音すら聞こえる。

「…雪。」
「…っは。」
「見たか?」
「………………………………………………はい。」
「そう…。」

うむ、と妙に落ち着き体を拭いていく。

「雪。」 
「…っは。」
「部屋に戻り、朝になったら僕の部屋で待機してくれるかい?」

一度間が置かれ「畏まりました」と返される。 
夏雪の気配が無くなり、浴室からシャワー音が聞こえて来た。サラシを巻いて、部屋着を身につけて上にパーカーを羽織った頃、眉間を抑えて深々とため息を吐いた。

とうとうバレた…。え?殺した方が良いのか?

学年1の頭脳が盛大に頭をフル稼働した結果が、それであった。


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