上 下
76 / 124
二章~親交会・対立~

お部屋訪問

しおりを挟む

午前中は普通に授業を受けて、午後は親交会の簡単な会議を行う。
月宮とは一度も会話をしないが、教室内では僕と月宮のどちらにもつかない者は、様子を伺っている様だ。

少しずつ1学年の校内も、雰囲気が変わってきた様に感じる。
春宮側と月宮側…僕は変わらず接しているが。気のせいとも思えないが、見知らぬ生徒がチラホラと増えて来た様だ。
…月宮が何かをしようとしている? 

不穏な雰囲気もあるからか、夏雪かDクラスの10名の執事の内誰かは常に控え、美景か歩は側に居る事が増えた。

直久は直久で、春宮側を増やしてくれているらしい。本人は、やはり家の事で何かあるのかあまり眠れていない様だ。それでも、疲れた姿は見せない直久は流石だと思う。桐埼は心配しているけれど。

ゆっくりと息を吸うと、寮へと足を進める。今日は智の退院日であるし、都丸弟のお願いの件もある。
智の部屋に泊まる事。簡単な着替え等を持ち、気楽に寮の庭の木々を眺めた。

「千里ちゃん!」
「明日霞?君も帰る所かい?」

ふいに掛けられた声に気付き振り返ると、見知った相手に笑みを向ける。

「うん。良かったら、一緒に帰らない?」

珍しく親衛隊の子とは一緒では無く、嬉しそうに笑う明日霞を拒めないが、この後の事を思い出せば頷くのも難しい。

仕方ないか。

「ああ、途中までで良いならね。今日は智の退院する日で、顔を見に行く予定だから。」
「そっか~……。じゃあ、良いや。」

そう言って僅かに視線を下げて、そのまま一人で帰ろうとする明日霞。

え?いつもなら、着いていくとでも言いそうなのに。
いつも明るい笑顔で誰とでも気安く接している明日霞なのに、背中に寂しげな色を感じた。

やはり、鈴木の事だろうか?僕の為とは言え、影ながら支えてくれていた者を失うのは辛いだろう。まだ、鈴木に頼んだ事は明日霞に伝えていない。いや、教えられないのだ。

「…明日霞。」

後ろから相手の手を取ると、驚いて目を見開き振り向く。

「そういえば、僕との約束は守れているかい?」

千里の質問に一度首を傾げるが「ああ」と気付いたのかパッと笑みを見せる。

「うんうん!聞いてくれる?俺さ、ここ数日間マジで普通のエッチしてるんだよ~。」

凄くない?とへらりと笑う様は、普段の明日霞に戻っていた。

「そう、偉いね?」

優しく微笑む千里に嬉しそうに笑みを返す明日霞だが、直ぐに瞳をつと細める。

「…うん。だから、ご褒美貰えるよね?」

一瞬で夜の空気を出す相手に、千里は考えていた事があった。彼の性癖を変えていくに辺り、やり方を変えていこうかと。

「そうだね、明日霞…おいで?」

にこりと微笑み、両手を広げれば、一瞬固まるが直ぐに飛び込んで来る。明日霞の方が背が高いからか、千里の肩に顎を乗る形となった。

…明日霞って体温低いな。

それでも早まる相手の鼓動は、高まる緊張を感じさせるには充分だ。

「…千里ちゃん?」
「うん?」
「えーっと……嬉しいけど、これがご褒美?」

千里に抱き締められるという役得を得ているが、やはりこれだけだと物足りないらしい。

さてと…。
少し体を離し、相手の両頬を両手で挟み、目を合わせる。

(うわっ…千里ちゃんマジで肌綺麗だな~。唇も綺麗だし)

勿論、邪な視線は気にせずに、額をコツッと触れあわせ瞳を閉じた。

「約束を守ってくれて嬉しい。本当に君は、僕の騎士にふさわしいよ。でも、まだ足りないかな?」
「…へ?えーっと、つまり?」

誉めて誉めて突き落とされた為か、僅かに赤い頬は直ぐに色を無くし狼狽え出す。もう一度「明日霞」と優しく呼んでやる。

「…一月頑張れるかい?もし、出来たら。」
「出来たら…?」

期待と不安に揺れる明日霞の瞳をじっと見上げると、ごくりと生唾を飲み込む音が響く。

「一緒に何処かに遊びに行こうか?」

スッと体を離し、ヒラリと体を反転する。

(それって、デートじゃね?!)

「…二人で?」
「そうだね。二人で良いなら。」

勿論だよ!と、それまでと打って変わって年相応の明るい笑みになった明日霞に安堵した。

千里は考えていたのだ。享楽主義的でストレスなど溜まらない様に見えるが、こういったタイプは意外と繊細だ。夜の営みで鬱憤を発散させているのでは?と。

「俺、1ヶ月頑張ってみるよ~!」
「うん。明日霞なら大丈夫だよ。」

彼と普通の楽しみを見つけよう。
ご機嫌で手を振って去っていく背中を見送り、のんびりと智の部屋に向かう。





部屋のインターホンを押すと、扉から都丸兄が急いで顔を出す。

「春宮様!どうぞお入り下さい。お待ちしていました。」
「ああ、ありがとう。失礼するよ?」

リビングに通され、ソファーに座らせられると然り気無く室内を眺める。
智らしくシンプルな部屋の様だね。カーテンやテーブルも、寒色系で統一しているようだし。

都丸弟の持ってきた紅茶を口にした時、都丸兄弟がそわそわと落ち着かない様子で口を開く。

「…あーっと!忘れ物をしたから、取りに行かないと!」
「大変だ~!これは何時間かかるかも分からないな!」

わざとらしいが千里は特に何も突っ込まずに、兄弟は「それでは」と言い残し嵐の様に立ち去る。残された千里は、ソファーの隣に座る智を視界に入れると、直ぐに嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
既に智の瞳には、千里の姿しか映らない。

「退院おめでとう。もう怪我は大丈夫なのかい?」
「…うん。大丈、夫。来てくれて、ありがとう。」

他者に見せないだろうふにゃっとした笑顔に、彼の頬を優しく撫でておく。

退院祝いのお菓子の詰め合わせを渡すと更に喜ばれ、そのままお願い券の事は口にせずに、部屋に泊まりたいと言ってみる。

「…千里が、俺の部屋に?」

目を丸くして固まる智。
まあ、突然言われたらそうだろうね。

「いや、心配だったからね。無理にとは言わないのだけど、嫌だったら…。」
「い、嫌じゃない。」

苦笑を交えてそう言うと、間髪入れずに返された音は小さいがハッキリした物だった。

「心配してくれて…嬉しい。………あの、良かったら…」

はにかみ気持ちを表すと思っていたら、今度は少し戸惑う様におずおずと伺う様に見上げてきた。

「…あの…」
「…うん?」

口数の少ない智の言葉を邪魔せず、柔らかく微笑み待ってみる。すると、一度深呼吸をした智がやっと言葉を絞り出す。

「…俺の、作る料理…食べてくれる?」

思わず相手を凝視してしまった。智は自分と背が変わらなく、クールな雰囲気である。

しかし、こういった時の表情は時々千里の胸にクル物があるのだ。 

「智が作ってくれるのかい?楽しみだな。」

にこりと微笑むと、智の背後にパッと花が咲く様な錯覚に陥る。

「うん。…作る、から…待ってて?」

機嫌良く台所へと向かう智に可愛く思い、出されていたティーカップを手に取る。
以前僕が作ったのを見て、練習でもしてくれたのだろうか?ふと、胸中に暖かな物が溢れる。

学園に入っていつ以来だろう?直接誰かの手料理を味わえるなんて。
ソファーに凭れて、瞬きのつもりが一度目を閉じる。そのまま眠りに誘われるなんて、その時は思っていなかったのだった。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...