王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

会議と後輩等

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都丸弟とのやり取りを終え…放課後の会議室では、いつもの親交会実行委員が揃い、中等部の代表を迎え入れていた。

「中等部親交会実行委員会委員長、2年Sクラス銀条 彼方です!王子様と呼ばれています、よろしくお願いします。」

勢い良く、大げさな身ぶりで自己紹介する銀条に、周囲は呆気に取られた。
高等部のトップクラスの家柄と能力を有する面々に、多少の顔立ちの良さと理事長の子息という武器程度で、良く大きな態度で出たなと。

次の生徒は、何となく疲れた様な表情で、頭痛を堪える様に眉間を押さえていた。そのせいか、真面目そうな雰囲気で整った容姿も薄れている。

「…2年Aクラス、宇津井誠です。この銀条の態度を大目に見て頂けると、助かります。ただの馬鹿なので。」

「ああ、馬鹿王子か」と明日霞がケタケタと笑う。

酷いな、明日霞。中学生相手に。

頬を膨らませてムムッと眉を寄せる銀条だが、明日霞を咎める者は居ない。タイミングを見計らった最後の生徒が、静かに立ち上がり頭を下げた。
もしかして、と思うが生徒が美景に会釈し確信する。美景は軽く頷き返すのみだが。

「2年Sクラス 園原 大翔です。皆様、以後よろしくお願い致します。」

銀色の短めの髪に、茶色の瞳。美景より背は少し高く、姫よりも美男子といった雰囲気の少年。つまらなそうだった直久が、会議机に肘を付いて眺める。

「…園原の次男か。」

その言葉に、園原は綺麗に微笑み頷いた。

「はい、冬宮先輩。兄には及ばずとも、お力になれれば嬉しいです。」

丁寧過ぎる返答に、直久も珍しく「ああ、頑張れ」と返事を返す。弟だと言うのに興味の無さそうな美景に構わず、千里も声を掛けてみる事にした。

会話をしてみない事には、どういう人物か知れないからね。 

「よろしく。期待しているよ。」

軽く投げ掛けた言葉だが、相手に思いも寄らない効果をもたらした。

「…っああ!」

千里と目を合わせた瞬間、園原は自身の胸を押さえて耳まで赤くし俯く。

うん?
不思議に思う千里の隣で、美景の呆れたため息が聞こえる。

「大翔。返事を返さないのは、失礼でしょう。」
「…っ申し訳ありません、兄様。」

美景がたしなめると、直ぐに深々と謝罪をする園原は、ゆっくりと千里に顔を向ける。

「…失礼致しました。お声を掛けて頂き、光栄です!ええと、春宮様。」

何だろう?

目を輝かせて、両手を胸元で組んで見つめてくる姿は、好意と受け取って良いと思うが。
会った事が無いのに、何故ここまで。 ああ、後…直久は冬宮〈先輩〉なのに、僕は春宮〈様〉だと語弊があるか。

「ああ、普通に先輩と呼んでくれて構わないよ?」
「え?いえいえ、そんな…」

慌てて手を振る後輩に、ぽうっと見つめる眼差しを利用して置く事にした。

「…君は、僕の大切なお姫様の弟でもある。まだまだ成長最中の君は、さぞや大輪の花を咲かせるだろう。…可愛い後輩として僕と仲良くしてくれるかい、無垢な蕾さん?」

流し目を送り艶を含んだ笑みを向ければ「…は、はい」と頷く事しか出来ない園原である。

そんな圧倒的な人身掌握に、銀条と宇津井は呆然と見入っていた。直ぐに宇津井の方は、冷静に思考を切り替え会議に耳を傾けるが、銀条は違う。千里の力に圧倒された自分に苛立っていたのだ。

(違う。僕は、あれを王子様なんて認めないぞ!だって、僕が本当の王子様なんだから!)

勝手に対抗心を強くする銀条の思いなど知らず、千里は会議を上手く進めていく。

後で美景に、何故弟が僕に好意を持っているか聞いてみようか。
そんな事を片手間に思いつつ、とりあえず会議には集中する銀条達と幾つかの案を出しあう。

親交会の案としては、

・遠出をして親交を深める(山、海、テーマパーク等)
・クッキング?料理?
・水泳大会
・肝試し
・動物との触れあい
・家族参観

うん。

案を出しあう中で、桐埼がボードに書いて行った案をチラリと見て目を逸らす。結構、後半からは雑だね。前半は夏に行う親交会には良いかもしれないけれど。

気付くと二時間は経っていた様で、明日霞は既に会議に飽きて机に突っ伏していたりする。

「…そろそろ締めるか?」

直久も終わりの見えない話し合いに疲れたのか、千里に耳打ちしてきた。本来、誰に言われずとも会議や話し合いでは、その場を上手く誘導しだれずに終わらせる千里だったが、簡潔に纏めない理由があったりする。

…疲れていないな?

実は銀条との約束を覚えていたのだ。会議が終わった後、相手をするとは言ったが、此方も忙しい身。会議を延ばして銀条が「今日は止める」と言うのを待とうと思ったが。

園原は兄以上に千里をキラキラとした瞳で見つめ、宇津井は流石に口数が減り、当の銀条は闘志が燃え続けている。

これ以上延ばしても無駄、か。

「…それでは時間も時間なので、それぞれで案を絞り次回で決定が出来る様にしよう。」

簡単に締めると、中等部の面々に挨拶をされ解散となった。解散の波に乗る千里だったが、扉から出て少し先の廊下の壁に凭れて待つ銀条を見つける。

約束は、約束か。
隣を歩く美景が声を掛けようとするのを制し、先に帰る様に促す。

「…しかし、千里君。」
「大丈夫。あの子は、僕と話しをしたいだけみたいだ。」

態度の大きかった銀条に不快感があったのかあまり気の進まない美景だが、最後は千里に抗えずに仕方なく納得する形となった。

「…畏まりました。それでは、引き続き月宮の動きを探ってみます。」
「ありがとう。本当に君は優秀で、僕に幸運を運ぶ可愛い人だね。」

ついでとばかりに瞼に唇を落とすと、サッと顔を赤くして頭を下げて走り去って行く。

勿論頭の半分に、千里への心配を残し影に潜む夏雪に素早く言い置いて。

「…千里君に万にひとつの怪我の無いように、頼みますよ?」
「勿論、心得ております。」

以前よりも、多少の関わりが増えたのはどちらの心境の変化か知らない所だが、千里も気付いていたりする。

険悪にならずに良かったな。
ゆっくりと、じっと此方を見つめるこの学園の初めての後輩。

「先ほどぶりだね。昼の話しの続きかな?」 

優しい口調で問い掛けるが、相手の眉は自然と上がる。

「そうです!王子様をかけての勝負をして貰います!」
「…ふうん。僕は高等部から入学し、君は確か幼稚舎からじゃなかったかな?」
「はい?…それが一体?」

思ってもみない答えに銀条は動揺するが、気にせずに続けた。

「だから、初めから学園に居る君こそが王子様に相応しいと思うよ。」

だから、不毛な争いは止めないかい?とは、言わない。

そう言われて何故か固まった銀条をのんびり眺めていた時、離れて待機していた夏雪が風の様な早さで前に立つ。
まだ固まる銀条の後ろに現れた人物は、見える口元だけで笑う。

「こんばんわ~、残り2日ですねえ?」
「黒鎖…。」 



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