王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

異名は王子様

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明日霞の親衛隊隊長だったが、家が月宮家に支援を受けており、春宮側につけなかった鈴木。

あれ以来、クラスに居ても一人で居る事が増えて、明日霞の方もまるで居ない者のように無視をしている。秋道寺親衛隊は、副隊長が今は纏めている様だが、元々セフレの多いメンバーだからか、Sクラスで名門の鈴木という抑えを失い纏まりが無くなっているらしい。

明日霞は親衛隊を自由にさせているから、少し心配だったんだけど。
目の前で覇気の無い鈴木を見下ろし、なるべく穏やかに話しかける。

「どうしたんだい?何か用でも。」

千里の声に一度びくりと肩を揺らすが、思い詰めた表情で顔を上げた。

「お願いが、あります…。」

お願い?
固い口調の鈴木に、知らず眉が寄る。

内容にも寄るが、出来れば叶えてやりたい。明日霞の事を最も想っているのに、側に居られないこの状況は辛いだろう。

「…お願いとは?」

はい、と答えた鈴木は、明るく可愛らしかった雰囲気は既に無い。

「…どうか、明日霞様を、よろしくうお願い致しまあす!」

…ん?

「明日霞を、かい?君自身は良いの?」
「…僕にいとって、自分よりも明日霞様の幸せがあ大切です。春宮様が明日霞様を気にかけて下されば、明日霞様はあ喜ばれると思うんですう。」

そう言って、微かに微笑んだ表情は、明日霞だけを想う物だ。それを見てしまうと、自分をひたむきに尽くしてくれる美景や、忠義に厚い雪の姿と重なる。

「鈴木、では…僕からも
お願いなんだけど?」
「はい?」

此処で交わされた鈴木と千里のお願いという名の機密依頼は、後々月宮側と春宮側の関係性に転機を訪れさせる事になるだろう。




鈴木が去って数十分後、少々疲労していた千里は自然と現れた夏雪に淹れて貰った紅茶を口にし、軽く伸びをした。

午後の授業ぐらいは出ようかな?

ドンドン
そう思い立ち上がりかけた時、扉が叩かれる。叩き方としては、見に覚えの無い強さである。

今日は忙しいね。
夏雪に視線で促せば、直ぐに扉に近付き優雅に扉を開けてくれた。

「失礼します!」

憶さずに入ってきたのは、中等部の制服を身に付けた一人の生徒で、座ったままの千里にズカズカと歩み寄って来る。

何者だろう?
じっと見つめていれば、少年は何故かムッと眉を吊り上げて、手を腰に当ててふんぞり返った。

「この僕が来てあげたというのに、挨拶も無いんですか?やっぱり王子様ともてはやされて、調子に乗ってるって事ですね。」

敬語だが相手からの蔑みと苛立ちを感じ、流石に黙ってはいられない。

「ええと、君は誰だい?」

至極普通の口調で、淡々と疑問を投げ掛けてみる。
急に入ってきた見知らぬ中等部生徒。調子に乗ってるとか言われても、この状況が理解不能で言い返せず困惑する。

「良いでしょう。説明してあげます。…僕は、中等部2年Sクラス銀条 彼方。この度の親交会実行委員会委員長で理事長の息子、幼稚舎の頃から【王子様】と呼ばれています。」

長々と説明してくれたな…とのんびりと聞き入った千里に、銀条の人差し指が突き付けられた。

「つまり、本当の王子様の異名は僕の物です!会議の前にそれだけ言いたいと思いまして。」
「そう、遠い距離なのに態々ご苦労様。」

宣戦布告とばかりの勢いの銀条に大して、千里の対応はまるで冷静だ。

確かに色素の薄いさらさらの髪に、整った容姿はあと数年で見目麗しい青年となるだろう。だが、13、4才にしか見えない銀条は、声も声変わり中なのか少年特有の声で、可愛いとしか思えないのだ。

全く相手にされていないと分かったのか、銀条の目も苛立ちで吊り上がる。

「…で、ですから、僕が王子様なんです!」
「うん、良いと思うよ?」

相手の怒気を気にせずにっこりと優しい笑みを送れば、ぷうっと銀条が頬を膨らませた。

「僕が中等部だからと、馬鹿にしていますね?…なら、勝負します!」

声を張り上げた銀条には悪いが、千里には本気でどちらでも良い事だったので。

とりあえず…

「じゃあ、放課後の親交会会議の後にでも決めないかい?その個人的な勝負より、学校の行事を優先させた方が良いからね。」

否定せずに曖昧に言って置けば、銀条も少し考え渋々と頷く。

「仕方ありませんね。…では、勝負は逃げないで下さいよ!」

息を巻く相手に「うん」とだけ返せば、勢い良く部屋から出ていってしまったのである。最後に律儀に頭を下げた銀条を見て「案外真面目ですね」と夏雪の呟きが響いた気がした。

すっかり授業を受ける気分では無くなった千里は立ち上がり、カップを片付ける夏雪に声を掛けた。

「智のお見舞いに行ってみるよ。」

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