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二章~親交会・対立~
※血塗られた掌side黒鎖
しおりを挟むヨーロッパの都市部。ごく平凡な暗殺一家に生まれて、後継として物心つく頃から色んな人の殺め方を教わって来た。
父は、俺をあくまで跡継ぎとして見ていたが、母は愛情溢れて育ててくれた。それでも両親と俺と弟。幸せで平凡な時間が続いて。
でも、そんな時間はある日崩れ去ったのだ。
それは、8歳の冬。
『ああ…あの女はそろそろ用済みだ。』
ふと、父が誰かと電話をする声が耳に入る。また仕事の話しだろうか?静かに廊下で聞き耳を立てる。
『…はあ?妻だと?だからあの女は、ただの子作りの道具だ。ガキ二人を生ませたんだ。もう頃合いだ。』
冗談では無い声だった。父の性質は既に知っていたからだ。
父に誉められていた暗殺者としての能力を使い気配を殺し、懐の拳銃に触れる。なに食わぬ顔で寝室に向かう父は、ベッドから起き上がり弟を抱いたまま父に微笑みかけていた。
ふいに、父の手に磨きあげられたナイフが握られる。そのナイフが母の胸元に刺さると同時に、発砲音が鳴り響いた。血を吐きながら崩れ落ちた父の背中を踏みつけながら、母に駆け寄る。
「ママ!ママ!大丈夫?!」
母の目は虚ろで、倒れる父と拳銃を握る息子を確認して泣き笑いの表情を作った。
「馬鹿な子…。この、世界で、後ろ楯、を…無くして…」
確かに、暗殺という裏社会に生きる者にとって、親の名を継いで生きていくのが普通の事。
「ママ…俺と、逃げよう?何処かで幸せに…。」
母は何も言わなかった。
(暗殺者として育ったこの子は、もう普通に生きられないでしょう。それに、私ももう…)
「いいえ…いいえ。私の愛する人を奪った貴方を、私は許さない…」
ただ冷たい瞳で、僕を見つめる母。あんな男を愛していたというのか?
「…俺は、愛していないの?」
「貴方なんか、ただの跡継ぎとしての存在よ。よくも彼を、殺したわね!」
憎しみに満ちた瞳に、俺の心は震えた。握った拳銃の銃口を、自信の米神にあてる。
「…俺を愛してくれないの?」
物心ついた頃から命を奪ってきた自分にとって、母の愛情は唯一の生きる糧だった。愛される事で、罪を補う様な。それでも、母の冷たい声は変わらなかった。
「誰が貴方なんか!もう顔も見たくないわ!早くあの彼の元に行きたい!死なせて!死なせて!」
狂った様に叫ぶ母の姿に、自分に充てた拳銃を、ゆっくり母へ向ける。泣き叫ぶ母を見るのが辛くて、思うままに引き金を引く。パン、と音と共に泣き出す弟が転がり母の声が止んだ。
母の顔は何故か、優しい笑みを浮かべていた。死の間際どんな事を考えていたなんて、そんな事は知らない。父の所に行けるとでも思ったのか?
(ごめんね…キアラン。わたしのせいで、親を殺させてしまって…どうか憎んで、忘れて欲しい。…ああ神様、せめてこの子を誰か愛してくれますように…)
*
弟の事など忘れ、雪の降る町を歩いた。今までの名前は捨てて、日系人である顔を使い日本風の名を使いながら生きた。
フリーの暗殺者として腕を磨き、依頼は何でも受けていった。いつか、自分も誰かに撃たれる日が来るのだろうか。
ある日、裏路地にある入れ墨専門の店に入った。
「…それで?本当に良いのか?目の下から首までなんて、簡単には取れねーんだぞ?」
彫り師の男はスキンヘッドの頭を撫でながら言うが、俺には決まっていた。
「良いんですよ~。だあって、かっこいいじゃん。」
ヘラりと笑う相手に、彫り師は呆れた視線を向けるが直ぐに頷いた。
「ま、こっちは金を貰えりゃ良いけどよ?んで、何を彫るんだ?」
「えーっと、ジャパンの花の夕顔で!」
へいへい、とパソコンで画像を検索する彫り師は、暫く準備をしてから作業に取り掛かった。痛みもあまり無く、出来上がりは見事で、白い花が右目の下に映える。
「ありがとうございます~。」
金を渡して店を去ると、機嫌良く繁華街を歩く。
「…ねえ、お兄さん?」
スリットの入ったセクシーな衣服の女性に声を掛けられ、簡単に着いていく。
綺麗な女だ。俺は、容姿の良い者が好ましい。家族の顔立ちが整っていたからかな?
簡易ベッドに女を押し倒し、衣服を剥いでいく。簡単な避妊具を使い、相手の中に何発か出せばスッキリとする。少し激しくした為か、力無く女は横になっている。
「…ねえ、俺の事…愛してくれる?」
体の相性も悪くないし、顔も良いしこの女なら…。
黒い拳銃を自身の米神に宛て、ニッコリと笑う。俺の歪んだ笑みに、女は「ひい」と悲鳴を洩らす。
「い、いや!何でもするから、殺さないで!」
ガタガタと震える女は、大袈裟な位声を荒げ、大して掛からずに数人の屈強な男が現れた。
「…早く、助けて!」
元々こいつらが出てきて金を奪うつもりだったのだろう。特に驚かず、襲いかかってきた男全員の
眉間を淡々と撃ち抜いて命を奪う。女はその光景に震え、失禁すらして半狂乱となっていた。
「ねえ、俺を愛してくれる?」
変わらずわらう俺に、女は鼻水と涙でぐしゃぐしゃの顔を向ける。
「あ、愛するわ、愛するから!」
「…そっか~。嬉しいな~。」
にこにこと笑い、俺が荷物を取ろうと振り向いた瞬間、窓に映る刃の光り。
「死ねえ!っこの人殺しい!」
あーあ。
包丁を振るう女に向き冷静に引き金を引く。
「…嘘つき。」
男と女の死体を裏業者に処分を頼み、依頼に足を進める。
今回は、金持ちの男の暗殺。5人の同業者と連携して行うのである。無駄にデカイ屋敷に忍び込む。でっぷり太った男を同業者が捕らえた隙に、喉を潰して心臓を撃ち抜きおしまいっと。
後は、直ぐに屋敷を出て依頼は完了だったんだけど?
「おとうさあん!わあ~ん、わあ~ん!」
男の側で泣き喚く五歳程の子ども。
あーあ、うるさいんだけど?
同業者が黙って去ろうと踵を返した時、ふいに子どもと目があった。
パンッ
その直後には、子どもの脳天に穴が空いていた。
「…お前、何で?」
同業者の呆然とした声が、かなり鬱陶しい。
「はい?だあって、顔を見られたんですよ~。危ないじゃないですか~。」
当然の様に言ったが、同業者は渋い顔を崩さない。
「だが、依頼に無い相手を無意味に殺したんだ!依頼人に報告をさせて貰おう!」
この男は確か、妻と子どもがいるのだったか?仕事に余計な感傷を持つなんて。
数秒後、その男と、それに賛同した二人は既に事切れていた。拳銃を使わない殺しかたも勿論心得ている。黙っていた残りの同業者は、恐怖か黙って死体を処理するのみ。
つまらない。空虚な人生だ。母を手に掛けた直後から、人生は終わっていたのだが。
*
15歳のある日、極秘に依頼が舞い込んだ。
「…ツキミヤ?」
日本のかなりの名家のお坊っちゃんかららしい。
依頼は、情報収集がメイン。報酬額に引かれ、日本へと行くことに決めたのである。
「よろしく、黒鎖君。」
出会った月宮は、今まで見てきた人間の中では最上級の輝きを放っていた。新たな偽名は嫌いじゃない響きで、すんなりと自分に溶け込む。
けれど、そろそろ生きるのには疲れていた。
深い意味は無かったが、彼ならもしかしたらと思った。拳銃を手にして、自分の米神に押し宛てた。
「月宮さん。貴方を愛するので、俺を愛してくれませんか?」
滑稽な自分、人を殺めても何も感じない自分、救いを求めていた訳じゃないが。
月宮の口元に、嘲る様な嘲笑が浮かぶ。
「何かの言葉遊びかな?生憎暇じゃなくてね。」
至る所にひびの入っていた黒鎖の心が、がらがらと崩れていく瞬間だった。
「あはは~。そうですか~。それは 、残念?」
あーあ。この人も外れか。
黒鎖はもう疲れてしまった。
もしも、春宮千里が自分を落とせないなら……。
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