王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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季節特別編、番外編

閑話ーお願いのお願いー(前編)

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「ええと…もう一回言ってくれるかい?」

ある日の昼下がり、春宮千里は一人の生徒に呼び止められ相手の話しを聞くが、何故か微妙な表情を浮かべていた。

「はい!ではもう一度…それは、ある日の事です…」

千里の疑問に難なく頷く可愛いらしい少年は、元気に頷く。

………

………

なるほど。
相手の話しを纏めると、彼には来週転校してしまう友人が居る。友人は、お願い券の権利を持っているが、好きな相手に中々お願いが出来ていないそうだ。転校する前に思い出を作ってやりたい彼は考えた。 友人の好きな人が、言うことを聞くだろう人物に頼んで貰う事。
お願いのお願いって訳か。

「それで?そのお願いって、どんな内容かな。」
「えっと、遊園地でデートとかどうでしょう!」

遊園地か…楽しそうだね。そういえば、遊園地なんて行った事が無いな。

相手の提案に、ふむと頷く。観劇や、映画鑑賞等は経験はあるが、一般的な娯楽には明るくない千里である。

ジェットコースターとか、興味があるな。
遊園地を思い浮かべる千里は、そこでやっと一番重要な事を思い出した。

「そうだった、お願いをしたい相手とは?」

相手から名前を聞くと、少し驚くも納得しある作戦を思い付くのだった。







遊園地デートをするにあたり、千里はいくつかのセッティングを行った。当事者2名が来るまで、他のメンバーを遊園地入り口に呼び寄せる。勿論容姿が芸能人以上の者ばかりなので、私服の為更に目立っているのだが。

「でさあ~。作戦ってどんなの?」

私服だとチャラさが格段に上がる明日霞は、炭酸飲料を飲みながら問い掛ける。 

そうだね、と千里は口を開く。

先だって集めたのは、直久、明日霞、智である。恵はどうしても用事が有ったのか、涙ながらに「行きたかったよ~」と言っていたが。夏雪は爺やに呼びつけられたらしく、珍しく眉間に皺を作り行ってしまった。

此処で問題だったのが、護衛の件である。自分の身は自分で守れる面々だが、学校外を出てしまうので最初各家はボディーガードを出す予定だった。しかし別に今回は『お願い券の使用』という学校に関わる内容だ。あまり大事にしたくは無い。

…という事で、直久達には一人で行くので大丈夫だと言えば、当日になって全力で護衛を巻いて出てきたらしい。ボディーガードの皆さん、すみません。まあ、直久と明日霞は良いとして、中性的で細みの智はやはり心配なので、都丸兄弟も一応呼んで置いたが。

そんな影の努力を思い出しつつ、作戦についての話しを始めていく。

「簡単に言えば、少しずつ二人になれる様にセッティングをして、最後は完全な二人きりにする。」

簡潔に説明をすると、何となくは理解してくれたのか頷かれる。

「つまり、あの園原が勘づかない様に自然な行動が必要って事か。」

直久の呟きに「そうだね」と返して置く。問題はそこなのだ。美景の鋭さは、歩の純粋な頭脳の高さとは違う。帝王学を身に付けた者としての資質。気を付けないとね。
軽い流れを確認している内に、今回の当事者が視界に入った。

「…おはようございます、千里君。お待たせ致しました!」
「お、おはようございます。あの、藤沢と言います。き、今日はよろしくお願いします…。」

どうやら途中で会った様だ。藤沢はBクラスで、ごく平凡な容姿の少年である。どう見ても美景に対して恋する瞳を送っているが、美景は全く気にしていない。

まあ、美景には藤沢が『Sクラスの人と思い出を作りたい』というお願いだと言ってあるからだと思うが。つまり、美景にとっては…Sクラスに憧れる生徒に過ぎないのだ。

都丸兄弟にフリーパスを買ってきて貰い、リストバンドの様な物を身に付ける。これで、どのアトラクションも好きに乗れるそうだ。中に入ると平日にも関わらず、それなりに混んでいる。美景にパンフレットを見せて貰い、まず何処に行くかを考えた。

さてと、美景は常に僕の横をキープしているし、藤沢は遠慮して最後尾に甘んじているし。乗り物はと言うと、順番待ちが多くなるだろう。
どうするか考える一行だが、次の場所は直ぐに決まる事となる。

「あれなら待たないみてーだな?」
『恐怖のお化け屋敷』

…なるほど。確かにあまり人は見えない。

「二人ずつお入りくださーい。」

案内役の声が耳に入り、千里の心も決まった。然り気無く歩いて行く間に、直久の背を小突き、明日霞の肩を軽く叩き、智の腕に触れて合図をして置く。

美景と藤沢を二人きりにしよう。

意図が通じた様で、まずは明日霞と智が入っていく。美景と並んでいた千里の腕を引き、直久が引っ張り混む。「あ、千里君?!」との声は敢えて流す。後は、都丸兄弟が上手く美景と藤沢を組ませる事だろう。

…というか暗いな。

「千里、大丈夫か?」
「ん?ああ、特には。」

期待と心配が混じる直久はきっと、僕が怖がるのを想像したのだろうが。

ごめん、全く何とも思わないんだよね。

「…う~ら~め~し~…」

背後から聞こえる声に振り向き、にこりと笑みを向けてみる。

「頑張っているね?無理はしないようにね。」
「………は、い。」

青白い筈の幽霊の顔が赤くなったそうだ。

「…お前、流石だな。つうか、うわっ?」
「え?何か?」

急に立ち止まる直久に首を傾げれば「何でもねえ。何かが触ったみたいだな。」と冷静にそう結論づける。

うん。それなら良いか。………と言うか。

「……あいつか?」
「たぶん…?」

先ほどより、更に屋敷内に響き渡る悲鳴が気になっていた二人。

『うぎゃああああ!死ぬ死ぬ死ぬ!無理無理無理ちょ、ま、ひぎゃあああああ!』

えーっと…たぶん、明日霞だよね?どれだけ叫んでいるんだろう。

直久と何とも言えない視線を交わし、特に何事も無くゴールに着いていた。

「…あああ!マジで無理!今日夢に見るかも…。」
「…明日霞?」

そこには、我関せずクリームソーダを飲む智と地面にしゃがみぐったりと萎れる明日霞が目に入る。声を掛けると少し青い顔をしながら立ち上がり、近付いて来た。

「意外だね?明日霞ってお化け屋敷苦手なのかい?」
「大した事ねえな、お前。」

直久の馬鹿にした物言いは、勿論無視をしている。

「いやいや俺さ、スプラッタとか血しぶきとか平気なんだけど、得体の知れないホラーは無理なんだよね~。」

お前の方が得体が知れないだろ、と直久の無言の視線が千里には見えた気がした。

「…全く、触りやがって気持ち悪いお化けだったな。」
「ああ、そうだったね。」

少し経ってから、美景と藤沢の二人が続く。藤沢には目もくれない美景は、直ぐに千里の隣に陣取った。

うーん。この作戦は駄目だったかな。

「…ん?どうしたんだい、美景。」

ふと美景が直久を横目に見たと思うと、出口にある看板を二度見する。いえ、と美景が一瞬口を閉ざすが、何故か看板をゆっくり読み出す。

『屋敷内のお化けは突然出る事はありますが、お客様に触れる事はありませんので、ご安心下さい』

読み終わると、珍しく明日霞と直久の声が揃ったのである。

「「うわああああああああ!!」」

直久がその場に静かに崩れ落ちたのであった。冬宮 直久脱落、と何処からともなく聞こえた気がした千里だ。

あれ?藤沢のお願いを叶える筈だったのにな。


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