王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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季節特別編、番外編

聖夜特別編(後編)

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「次は、くじ引きをして出た衣装に着替えて貰います。」

仮装?みたいな物だろうか。
順番にくじを引き、別室に着替えに向かう。個室に別れているので、誰かと鉢合う事は無いようだ。

さてと。
くじを開いて、文字を目で追う。

「忍者…」

妙にリアルな真っ黒い装束を身につけ、手甲を付ける。覆面では無く、長いスカーフを首に巻くと完成だ。 

凄いな。忍者っぽい。

鏡を見ながら1回転し確認が出来ると、元の部屋に戻る。扉を開けると既に皆戻っていたようで、まるでハロウィンの様な光景に少し驚くが直ぐに椅子に腰掛ける。

「…わ、千里格好いいよ!」
「ありがとう。恵は海賊かな?良く似合ってるね。」

キラキラと見上げてくる恵は、海賊の船長の様な真っ赤な上着とズボン、大きな帽子と眼帯である。

所で…。

「…また、次のゲームかな?」

テーブルの中央には、ドクロマークの黒い箱が置かれており、そ知らぬ顔の夏雪が周りに料理や飲み物を並べていた。

執事服では無くSPの様に黒いスーツは、彼の体格に良く似合っている。後ろでもじもじと給事をする矢代は、きわどい短さのメイド服だ。

「とても似合ってるよ、夏雪、矢代。」 
「お褒めに預かり光栄でございます。」
「…あ、ありがとうございます。」
(うう、こんな短いスカートなんて恥ずかしい…)

微笑みを向ける千里に、夏雪は深々と頭を下げて矢代は目を泳がせ顔を真っ赤にした。
白衣に眼鏡という医者の仮装をした美景が、やっと落ち着いた面々にボードを読み始める。

「それでは、次のゲームの説明を。今から30分、時計回りにそこの箱からくじを引いて頂き、内容を実行して頂きます。」

そして、と勿体振って一度咳払いをした。

「実行出来ない場合、1枚衣服を脱いで頂きます。」

ええ~!?と特に親衛隊から声が上がる。

((□□様のあられもない姿が!!))

そんな空気を尻目に、1番手の茶道家の仮装をした直久は躊躇無くくじを引く。

『この中で1番好きな人に性的接触をする』

(つまりはセクハラか?)

文字を読み終わると、無言で紙をビリビリに破るとさっさと羽織を脱いでしまう。苛立つ直久の様子に、何となく内容を聞きづらい。 

直久があの態度は、どれだけ嫌な内容なんだろう。

「じゃあ、次は僕だね!えーっと、何々?」

少し怖々と箱を見つめていた恵だが、ゆっくりとくじを引いた。

『語尾に、にゃ~と付けて話す』

「は?…………。」 
(これぐらいなら、いや、でも…千里だけならともかく、他の親衛隊もいるし、冬宮もいる!?)

一瞬何か言おうとする恵だが、やはり口を閉ざして紙を丸めてゴミ箱へ投げ入れる。 

「っ最悪だ~。」

涙目で帽子を取る恵の頭を撫でながら、嫌な予感に鼓動が僅かに速まっていく。

この二人がクリア出来ないって、一体どんな?
千里は自然な動作でくじを引いて、素早く開く。 

『何か全員が驚く事をぶっちゃけて下さい』

お?いけるかも。性別はぶっちゃけられないけど。

「…千里君?」

不安そうに此方を見つめる美景に、普段の笑みを送り安心させ「驚く事を言わないといけないみたいだね」と前置きする。
ふと、ウエハースを食べていたパイロットの仮装の智が手を休め、整備士らしいオレンジのつなぎを着た明日霞が顔を上げた。

ぶっちゃける、か。

「…そうだね。大した事は無いけれど、この中だったら一番瀬良の顔が好みかな。」

瀬良の落ち着いた雰囲気や、癖の無いアッサリとした和風の顔立ちは、千里の好みには近かった。勿論、好きになった相手が好みなので、あくまで外見の話しだが。淡々と聞いていた瀬良は、思いきり噎せて都丸弟に背中を擦られている。

「ふーん。千里、瀬良みたいな顔が好みなんだ。」
「…そっか~。千里ちゃんのタイプが分かって嬉しいな~。」
「そうか、なるほどな。」
「………そう。」

目の笑っていない笑顔を張り付ける面々に、普段クールで表情を買えない瀬良は、恵の視線に意識を途切れかけていたりする。
美景の表情など、怖くて見られない。

モヤモヤとした空気の中、ゲームはそれでも進んで行く。残り5分の時点で、服を1枚も脱いでいないのは千里だけとなった。鈴木と桐埼は既に下着のみである。

「…じゃあ、引く。」

何周目かになった智が、静かにくじを引く。

『誰かに命令をして炭酸ジュースを一気飲みして貰う』

少し考えた智だが、特に戸惑いも無く都丸兄弟に目を向ける。

「都丸、そこのコーラ…一気飲みして。」

呼び掛けられた都丸兄は「はい!」と全く反論せず、500ミリリットルのペットボトルを掴む。この後の惨状を思い浮かべ、親衛隊隊長達は少しずつ後ろに下がって行く。

「行きます!」音を立てて飲み干すが、やはり盛大に吹き出し床に崩れ落ちた。

いや、凄い惨状だな。
10秒立たず夏雪が、使用前の様に片付けたのが妙に怖いが。

ソファーに踞る都丸兄を放って続けていると、明日霞の横で飲み物を注いでいた鈴木が「あ~」と窓を指差す。

「見てくださいい。雪ですよお!」

窓近くの恵が開け放つと、雪化粧をした町並みが目に入る。
ゲームに夢中で気づかなかったな。

「ホワイトクリスマスだね。」
「はい、千里君。」

丁度ゲーム終了の時刻となり、雪を見に行こうと部屋から続々と出て行くのである。





そんな千里達の様子を知らず、ある二人が廊下を歩いていた。

「ですからあ、我々も参加してみましょうよ~。」
「面倒だな。いや、だから君もそんな格好なのかな?」

嫌そうに見つめられる相手は、むしろ嬉しそうにセクシーなポーズを取った。

「ふふふ~。いやあ、見とれちゃいました?どーです、この完璧のボディーは~。」

悪夢だと、月宮は思った。パーティーに参加しようと、無理矢理連れて来た黒鎖の服装は酷かった。

月宮はとりあえず、怪盗の仮装はしてある。黒鎖はきわどい短さのミニスカポリスである。帽子でいつも通り顔を隠しているのが鬱陶しい。

「因みに下着は?」

更に視線の先の黒いものが気になって、ついつい聞いてしまった。

「はい?ただのトランクスですよ~。」
「そうか。」
「…って言えば良いですか?」

無言を貫く月宮は、珍しく動きが止まってしまった。それぞれの夜を過ごす時、千里達の元に月宮と黒鎖が突入するのはまた後の話しである。

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