王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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季節特別編、番外編

聖夜特別編(前編)

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そこは、聖夜だけの特別な会場…。

・進行はくじ引きです。
・無礼講でお願いします。
・全てのゲームに強制参加です。

「…という訳みたいだね。とりあえず進行のくじ引きをしようか?」

この際千里が進行をすれば良いのでは、という雰囲気は無視をする。20人定員のカラオケボックスの様な室内で、呼び出された面々は戸惑い座った。

いや、僕だって嫌だよ。こんなよくわからない状況の進行役なんて。

中央のテーブルに置かれたくじ引きを、桜川親衛隊隊長の瀬良が持つと気を利かせ引かせに回る。

現在のメンバーは、
千里、直久、恵、美景、明日霞、智
鈴木、桐埼、瀬良、都丸兄弟、
が参加している。
篠村も居たのだが、夏雪によっていつのまにか締め出されていた。
くじ引きの結果、美景が当たりを引いたらしく手を上げる。

「…それでは、僭越ながら私が進行させて頂きます。まず初めに、王様ゲームをして貰います。ええと、王様ゲームの進行は秋道寺君がお願いします。」

司会用のボードにある紙を読み上げ、ゲームの進行役を指名された明日霞は飲み物を飲んでいた手を止める。因みに、飲み物は夏雪と矢代が運んでくれていた。

「え?俺がやるの?」
「そうに書かれていますので。」
「りょーかい~。んじゃ、ちゃっちゃとやりますか。」

少し面倒臭がるものの、元々楽観的なのでゲーム用の木棒を全員に引かせた。

王様ゲーム…って何だろう。
今いちピンと来ない者と、知識は有るのか楽しそうな面々もいる。

「んじゃ、始めるよ~。王様だーれだ?」
「俺です!」
(あんま変な命令は出来ないよなあ)

都丸兄が元気よく手をあげた。

なるほど。赤い印の木棒を引いた者が、命令をするのか。どんな命令をするのだろうか?

都丸兄に全員の視線が集まる。

「では、5番が2番の頭を撫でる、で。」
「最初の命令にしては、良いんじゃないの?」

命令の内容に恵がウンウンと頷く。
5番…桐埼
2番…鈴木

「じゃあ、行くよ?」
「ど~ぞお。」

知的眼鏡が、小悪魔の頭をよしよしと撫でる。まあ、悪くない絵面だ。

むしろ、此処に集まったのは学校内でも屈指のトップ集団なので、皆容姿は良いのだが。そこで明日霞の眉が寄り、目が半目となった。

「…どうしたんだい?」
「いや、あのさー。皆、特に親衛隊隊長に言うけど~。王様ゲームってエロさが楽しい訳でしょ。俺らに気を使わずにバンバンやってよ?OK?」

鈴木の「はあい、明日霞様あ」の声が響き、他の親衛隊隊長は遠慮がちだ。

「ふーん。王様ゲームってエロくするんだ。」
「…いや、んな事ねえだろ。」

千里がそう呟くと、素早く直久の突っ込みが入る。

「はい、じゃあ次~。王様だーれだ?」
「……俺。」

ポッキーを食べながら、智が小さく手を上げた。都丸兄弟の目が輝く。

「…じゃあ、7番が、1番を…お姫様抱っこする。」

おお、と室内でどよめきが起こった。

「いいね~。守山ちゃん、分かってる!」

7番…直久
1番…恵

「「…………」」

外見だけならお似合いの二人だが、顔を見合わせると親の敵でも見る様な表情となる。

本当に相性悪いよね。
瀬良と桐埼はハラハラと見守り、他は「シンデレラと王様だ」と内心楽しんでいた。

「…さっさとやってくれない?」
「あ?言われなくてもやってやるよ。」

不機嫌そうな二人だが、外見のせいか耽美的である。直久は軽々と抱き上げると、何だかんだ瀬良と桐埼はうっとりと見入っていた。

確かに、絵になるよね。
のんびりと飲み物を飲んでいると、次のくじ引きとなった。

「はいはーい。王様だーれだ?」
「私ですね。」

千里の隣で、お菓子やらおつまみを取っていた美景が顔を上げた。

「そうですね…4番が9番を1分間本気で口説いて下さい。」

へえ。面白い命令だね。…自分じゃなかったらだけど。
4番…千里
9番…桐埼

相手が分かると、桐埼の顔が真っ青になったり真っ赤になったりと忙しくなった。命令をした美景の方は、やってしまったとばかりに床を殴っている。

(何故、王様にしなかったんだ私は!)

ゲームなので仕方ないとは理解出来ても、直久と恵の視線は怖い。明日霞は桐埼の身長が自分より低いからか、二人より普通に見ている。智は無表情だが、動かずにじっと見つめていた。千里はゆっくりと桐埼の隣に移動して座る。

「…では1分間、始め。」

落ち込みながらも美景は、腕時計を見ながらスタートの合図を出す。

さてと、口説くのだっけ?
緊張する桐埼の髪から頬を撫で、ふっと微笑みを向ける。

「本当に綺麗な髪だね?まるで極上の絹の様だよ。…どうしたの?緊張しているのかい?大丈夫、僕は怖い狼じゃなくて、優しい狩人のつもりだよ。」

眼鏡の奥の瞳から目を逸らさずに、優しく甘く語りかければ、桐埼の頬が朱に染まっていく。

「…え、ええと。」

直久の視線も忘れ、あり得ない近さの麗人に動揺を隠せない。

「ああ、でも…僕が狩人だったら、お姫様を連れて逃げてしまうだろうけど。」

視線を逸らそうとする桐埼の顎を指で掬い、くいっとまた戻す。

「まだ分からない?僕の気持ち。」

千里が軽く首を傾げた時、美景の「終了です。」の声が上がった。

もう終わりか。意外と早かったな。

顔を真っ赤にしてぷるぷると震える桐埼に手を振り、元の席へと戻る。千里が去ると、桐埼は涙目で都丸弟と何か囁きあっていた。小さな声だったので周りには聞こえなかったが。

(最悪だ…落ちそうだった!ああ、冬宮様の親衛隊隊長失格だ!)
(いやいや頑張ったよ。俺だったら確実に無理だったし、な?)

直ぐに明日霞によって木棒が配られる。

「そんじゃあ、そろそろ最後だよ~。王様だーれだ?」
「俺か。」

直久が木棒を置き、少し考えて口を開く。

「それじゃあ、王様と6番がポッキーゲームをする。」
(確か、千里の木棒が6に見えた筈だ)

勿論、ズルはうまくいかないのが世の中だ。
王様…直久
6番…明日霞

うん。だろうとは思ったよ。

直久と明日霞の顔が凍り付く。どちらも男側タチであり、好意を抱いている相手が一緒だ。相容れない関係だろう。固まる二人を千里が促すと、やっとポッキーを手に取り端をくわえる。

(本気で気分が悪い) 
(やべ、鳥肌が止まらないんだけど!)

千里が「スタート」と言った瞬間に、勝負は終わっていた。

くわえた場所で折れた物は、悲しく床に転がって行く。そんな殺伐とした空気の中、腕時計を確認した美景がボードを読み始める。

「それでは、時間となりましたので王様ゲームは終わりとなります。秋道寺君、ありがとうございました。」

そして、次のゲームへ移るのだった。


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