王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

ある昔話side月宮

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プライドが高く、見栄っ張りな父など物心ついた時から尊敬も、親愛も欠片も抱けなかった。

6歳になった年、初めて父の連れで面倒なパーティーに参加した。数多くの名門一族や、政界の者も出席している。僕はと言えば、父の横でただにこにこと笑って挨拶をするだけだ。

「その年で立派だ。」
「月宮さんは、賢そうな跡取りをお持ちだ。」

謙遜するが満更でもなさそうな父に、良い子を演じておく。子どもらしく笑って、なつく振りをすれば大抵はほだされてくれる。6歳にして、既に人生をイメージして諦めた。

しかしこの家に生まれたからには、責任という物があるのだろう。特に嫌では無いし、それが当たり前だから。

飽きたふりでむずがれば、父から少し自由に見てきて良いと言われ、やっと羽を伸ばして会場を歩き出す。ウェイターに飲み物を貰い、端にある長椅子に腰掛ける。

…つまらない。早く終わらないだろうか?

大人達に向けていた笑顔も引っ込め、どうでも良さそうに回りを眺めた。ふいに、自分の隣に誰かの気配を感じて視線を移す。
………………。

「?こんにちは。」

相手を目にした瞬間、自分の全ての時が止まった。
黒い髪をサイドテールにし、花の髪飾りを付けて、赤を基調とした可愛らしいワンピースを着ている。
人目を惹く華やかな顔に、疑問を浮かべて首を傾げる仕草に、初めての感情が生まれた。

っ何か、言わないと!

「…こ、こんにちは!」

…うわ。会話をしたいのに、言葉が出てこない?

普段空気を察し、大人に聞き分けの良い子を演じ続ける6歳にあるまじき思考も、相手の笑顔1つでほとんど働かない。緊張する自分に、相手の少女は屈託無く笑うと自然と話し出した。

「私ね、おじいさまについて来たの。パーティーって楽しいよね!色んなお話しも聞けるし。」

これだけ綺麗な笑顔はあったのか。何となく、相手には嘘はつけない気がした。

「…そうかな。僕は好きじゃない、だって大人にこびを売らないといけないし。」
少女はキョトンとしてから、ふふっと笑う。
「よくむずかしい言葉を知ってるんだね?凄いな。」

…可愛い。
今まで見てきた中で、一番綺麗な、澄んだ目をしている。そう言えば、名前を聞かないと。

「あの…僕は、煌有こう。君は?」

名字は、やたらと言うなと言われているので言えないか。
私?と少女は直ぐに頷く。

「こうだね。私は、はるみや ちさとだよ。よろしくね。」

はるみや?春宮って事か。同じ三大家の。名字、良いのかな。父からは、三大家とはトラブルは起こすな、仲良くして置けと言われてるが…。彼女ならむしろ、とても仲良くなりたい。

「僕こそよろしく、ちさとちゃん。」

ちさとはとても話しやすい少女で、お互い一人っ子だったのも有り、会話は尽きる事は無かった。パーティー会場の庭にあったブランコを漕ぎながら、煌有は考えていた。

「…僕達って一人っ子だから、家を継がないといけないけど。面倒だよね?」

うーん?とちさとは煌有の隣でブランコを漕ぐ手を止める。

「こうは、家を継ぎたくないの?」

思ってもみない質問に少し戸惑う。

「えーっと、別に継ぎたくない訳じゃないんだけど…」

継ぎたくないとかは思わないし、思ってはいけないという考えがあった。月宮を継ぐのは当たり前。

「…うらやましいな。」

ちさとのポツリと呟かれた言葉は、煌有には届かなかった。

「何か言った?」
「…ううん。何でもないよ。」

優しい笑顔に煌有も笑みが止まず、にこにこと笑ってしまう。

「ちさとちゃんは、家を継ぐんだよね?」
「う……ん。」

その時相手の笑みが僅かに影を帯びたのに、まだ幼い煌有は違った捉え方をする。勿論、女性が当主になれない事など知らなかったのだ。

何か嫌な事があるのかな。 

「…あ、あのさ。」
「ん、なに?」

ブランコから立ち上がった煌有を、キョトンと見上げたちさと。

「もし、家を継ぎたくなかったら、僕の家に来ていいよ!」
「……………えーっと。けっこんするって事?」

あれ?

えーっと。うわあああああ!

「…えーっと?!あの、そうじゃなくって、逃げる場所?みたいに…。」

結婚の言葉に妙に慌ててしまう。そっかあ、とちさとは頷いてブランコから軽々と飛び降りた。 

「ありがとう、心配してくれて。こうに会えて良かったよ。」

手を差し伸べてくれた相手に一瞬見惚れ、おずおずと手を重ね合わせる。ちさとが誰かに呼ばれて去って行っても、ずっと後ろ姿を見つめ続けたのである。

次はいつ会えるかと思っていたら、それは案外直ぐに訪れた。8歳の名門家の集まり、青を基調としたワンピースのチサトを見つけたのだ。

「チサトちゃん!」

駆け出して呼び掛ければ、気付いた相手は目を丸くして微笑む。

「…えーっと、こうだよね?」

ウンウンと必死に頷き返し、上着のポケットに入れていたブレスレットをチサトの手に渡す。

「可愛い!これ、もらって良いの?」

少し驚いた様子だが、ブレスレットを手にすると嬉しそうに口元を緩めた。透明な蝶と桃色の花のビーズとパワーストーンを、紐で通した可愛らしい物だ。

良かった。喜んでくれた。

ホッとしているのも束の間、チサトは何か考え込む仕草の後煌有を見つめる。

「せっかく会えたけど、もう行かなくちゃ。」

え?
チサトの言葉に目に見えて落ち込む煌有に、少女はブレスレットを身に付けて「…あのね」と切り出す。

「…私ね、そろそろ色んなお稽古を習うから、もうパーティーには出られないの。だから、もう会えないんだ。」
「…っじゃあ。僕が会いに行くよ!」

どうしても、チサトとまた会いたい。やっと、想像し尽くしたつまらない人生が、楽しくなってきたのに。
チサトは、静かに頭を振る。

「ごめんね。男の子は呼んじゃいけないんだ。」

春宮の大事な一人娘だ。幼い煌有にも、勿論理由は理解出来た。

「…でもっ。」
「……ごめんね、ありがとう煌有。さようなら。」

寂しそうに笑うチサトに、それ以上は言えなかった。黙って去る後ろ姿を、引き止める事は出来なかった。

春宮の家を嫌がっている彼女は、強制されているのでは?最近知ったが、三大家は女性が当主になれない。当主にならないのなら、解放して自由にしてあげれば良いのに。嫌な奴だな、春宮の当主は。
僕が大人だったら、助けてあげられるのに…。


煌有は、チサトの存在を知らぬふりをし続け、思いは消える事は無かった。ますます勉学に励み、真面目で優秀な月宮の子息を続けたのだ。

煌有が中等部に上がる際、思ってもみない嬉しい出来事が起こる。春宮家から、チサトとの婚約の打診である。勿論、二つ返事で引き受けた。

16歳の年に、一度会う時間を設けるとも言われた。その時、一度きりの時、彼女を連れだそう。あの、屈託無い優しい笑顔と、純粋な心を私が守るんだ。
学校では、意識して目立たず静かに過ごす。春宮側に妙な情報が流れないように。





中等部三年の3月。そんな煌有の気持ちは裏切られる事となる。

「…婚約の解消?」

呆然と呟く自分へ、報告をする父の言葉はただ空虚な物だった。
チサトは、重病により話しも出来ない状態で、いつ終えるとも知らぬ入院生活に入ると。また、新たに遠い地で生活していた息子が後継者として立ったのでよろしく頼む、と。

何だと?ふざけるな!
彼女がいらなくなったのならそう言え!
許せない
許せない
許せない
春宮当主…!
彼女の居場所を奪った男…!
待っていて下さい
…必ず貴女を救いだします。

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