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二章~親交会・対立~
春と山
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扉が勢い良く開いた数秒前、足音に気づいていた星河はその瞬間、窓に足をかけて飛び降りた。千里が扉を開けた時、既に星河の姿は無かった。
あれ?窓から誰か出て行ったか?
そう思うが直ぐに足元の人物に気付き、素早く膝を着く。
「守山っ?」
「…春、みや?」
足元には、両足と両手を縛られ、目元には黒い布で目隠しをされている人物が転がる。体型で守山だと気付くが、見える部分の肌には痛々しい痣や裂傷が浮かぶ。
「夏雪。」
「はい。」
短く冷たい声に、身を隠していた夏雪が姿を現し頭を下げた。
「窓から逃げた奴を捕らえろ。」
「是。」
返事を返した夏雪は、窓から躊躇い無く飛び出して行く。それには気には留めず守山の手足の枷や、目隠しを外してやる。
何か辛い目に会い泣いたのだろうか? 守山の目が赤く染まっている。
「すまない、守山。」
「…?春宮?」
守山の方は、千里が来てくれて胸は喜びに溢れているのだが、目を伏せる恋しい相手に疑問を浮かべる。純粋に自分を見つめる守山に、千里は更に顔をしかめて守山の手首の痣を撫でた。
「僕に近しい人間だから、君は狙われたんだ。僕の情報を得ようとでも思ったのか、ただ僕の精神を攻撃したかったのか分からない。」
守山は、ただ黙っている。だが、怒りや千里を責める様な感情はまるで見えない。
『春宮が、好き』
知らず、彼の自分への気持ちを思い出した。あの時は、状況もあったが相手の気持ちを蔑ろにして流してしまった結果となった。
男でも女でも関係無い。最低だろう。守山は、僕が親睦会実行委員に任命して親しくなり、今回の事に巻き込んでしまった。
「守山。」
「………何?」
自分のハンカチで、酷い腕の傷を巻いてから、瞳を見つめ返す。無感情な印象の守山だが、誰よりも穢れの無い瞳で誠実な雰囲気を持つ。
「…僕を殴って欲しい。これは、僕の責任だ。君の痛みを少しでも知らなければいけない。」
目を隠されて、いたぶられ怖かったろう。犯されてはいない様だが、純粋な暴力は恐怖を禁じ得ない。
「嫌だ…。」
千里の言葉に、守山は首を小さく振る。
「…春、宮を殴る、なら…俺は、死ぬ。」
「守山?何を…。」
けじめとして、千里は打てと言ったのだ。まさか、死ぬという言葉を受けるとは思わなかった。守山の瞳からポロポロと涙が零れ、千里を強く抱き締める。傷の手当てをしないと、と思うが振り払えない守山の意思があった。
「…狙われた、のが…俺で、良かった…。春宮と、親し、くて…狙われた、なら構わない。」
あまりに真っ直ぐな感情に、千里の心の底が揺れる。それは、直久からの恋慕や美景の敬慕に負けない程の想い。
「…守山?でも、僕と少し距離を置いた方が。」
その後は、千里も流石に言えなかった。守山の体が震え、小さく嗚咽も混じる。
「…ごめんね?もう、言わないから。大丈夫。」
千里の中の母性が生まれる。守山が泣くと、弱い者虐めをしているようだ。千里の苛虐的な部分も成りを潜める。
「春宮…。」
「…うん?」
ポツリと名を呼ばれ、よしよしと頭を撫でてみる。同じ位の背丈なのに、可愛いと思ってしまう。
「…春宮が、好き。俺が、産まれて…初めて、好きになったのが…春宮なんだ。…だから」
凄い告白だ。結構グッと来たな。付き合って?だろうか。断るしか無いのが辛いが。この状況で断るなんて、ただの鬼だろう。
守山の静かな声が響く。
「…春宮、友達になってくれる?」
え?
張っていた肩の力が抜けて拍子抜けする。
「…ダメ?」
千里の無言を否定と捉えたのか、守山の不安そうな言葉が重なった。クスッと千里の普段の笑顔が浮かぶ。もう、友人だと思ってたけどな?
一度守山から体を離し、片手を差し出す。
「こちらこそ、友達になってくれるかい?智。」
初めて名を呼ばれ、智の表情が輝き何度も頷く。
「うん。…うん…せん、り。」
握手を交わし、笑顔を浮かべた千里は、今度は背後から聞こえる靴音に気付き瞳を細めたのである。
あれ?窓から誰か出て行ったか?
そう思うが直ぐに足元の人物に気付き、素早く膝を着く。
「守山っ?」
「…春、みや?」
足元には、両足と両手を縛られ、目元には黒い布で目隠しをされている人物が転がる。体型で守山だと気付くが、見える部分の肌には痛々しい痣や裂傷が浮かぶ。
「夏雪。」
「はい。」
短く冷たい声に、身を隠していた夏雪が姿を現し頭を下げた。
「窓から逃げた奴を捕らえろ。」
「是。」
返事を返した夏雪は、窓から躊躇い無く飛び出して行く。それには気には留めず守山の手足の枷や、目隠しを外してやる。
何か辛い目に会い泣いたのだろうか? 守山の目が赤く染まっている。
「すまない、守山。」
「…?春宮?」
守山の方は、千里が来てくれて胸は喜びに溢れているのだが、目を伏せる恋しい相手に疑問を浮かべる。純粋に自分を見つめる守山に、千里は更に顔をしかめて守山の手首の痣を撫でた。
「僕に近しい人間だから、君は狙われたんだ。僕の情報を得ようとでも思ったのか、ただ僕の精神を攻撃したかったのか分からない。」
守山は、ただ黙っている。だが、怒りや千里を責める様な感情はまるで見えない。
『春宮が、好き』
知らず、彼の自分への気持ちを思い出した。あの時は、状況もあったが相手の気持ちを蔑ろにして流してしまった結果となった。
男でも女でも関係無い。最低だろう。守山は、僕が親睦会実行委員に任命して親しくなり、今回の事に巻き込んでしまった。
「守山。」
「………何?」
自分のハンカチで、酷い腕の傷を巻いてから、瞳を見つめ返す。無感情な印象の守山だが、誰よりも穢れの無い瞳で誠実な雰囲気を持つ。
「…僕を殴って欲しい。これは、僕の責任だ。君の痛みを少しでも知らなければいけない。」
目を隠されて、いたぶられ怖かったろう。犯されてはいない様だが、純粋な暴力は恐怖を禁じ得ない。
「嫌だ…。」
千里の言葉に、守山は首を小さく振る。
「…春、宮を殴る、なら…俺は、死ぬ。」
「守山?何を…。」
けじめとして、千里は打てと言ったのだ。まさか、死ぬという言葉を受けるとは思わなかった。守山の瞳からポロポロと涙が零れ、千里を強く抱き締める。傷の手当てをしないと、と思うが振り払えない守山の意思があった。
「…狙われた、のが…俺で、良かった…。春宮と、親し、くて…狙われた、なら構わない。」
あまりに真っ直ぐな感情に、千里の心の底が揺れる。それは、直久からの恋慕や美景の敬慕に負けない程の想い。
「…守山?でも、僕と少し距離を置いた方が。」
その後は、千里も流石に言えなかった。守山の体が震え、小さく嗚咽も混じる。
「…ごめんね?もう、言わないから。大丈夫。」
千里の中の母性が生まれる。守山が泣くと、弱い者虐めをしているようだ。千里の苛虐的な部分も成りを潜める。
「春宮…。」
「…うん?」
ポツリと名を呼ばれ、よしよしと頭を撫でてみる。同じ位の背丈なのに、可愛いと思ってしまう。
「…春宮が、好き。俺が、産まれて…初めて、好きになったのが…春宮なんだ。…だから」
凄い告白だ。結構グッと来たな。付き合って?だろうか。断るしか無いのが辛いが。この状況で断るなんて、ただの鬼だろう。
守山の静かな声が響く。
「…春宮、友達になってくれる?」
え?
張っていた肩の力が抜けて拍子抜けする。
「…ダメ?」
千里の無言を否定と捉えたのか、守山の不安そうな言葉が重なった。クスッと千里の普段の笑顔が浮かぶ。もう、友人だと思ってたけどな?
一度守山から体を離し、片手を差し出す。
「こちらこそ、友達になってくれるかい?智。」
初めて名を呼ばれ、智の表情が輝き何度も頷く。
「うん。…うん…せん、り。」
握手を交わし、笑顔を浮かべた千里は、今度は背後から聞こえる靴音に気付き瞳を細めたのである。
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