王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

月宮とside月宮

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事は、月宮が理事長に呼ばれる前日に遡る。

下らない。

「お、おい?!何故お前が急に!」

自分に追い縋る中年の男を見下ろす。この男が、自分とそっくりなどと言われているのが信じられない。

「…聞いていませんでしたか?」

それでも何かわめきたてる相手を無視し、軽くパチンと指を鳴らす。 

ザッ
瞬間、月宮家の幹部達が膝を折って室内狭しと自分に頭を下げた。

「お、お前達!」

中にはこの男の直属の部下も居たのだが、既に関係は無い。

「…という訳です。前当主殿はどうか、この後はご静養下さい。」

慇懃無礼にそう言うと、視線だけで動く部下が前当主を無理矢理連れて行く。納得出来ない前当主は、最後まで声を荒げ続けていた。

「…お前は…お前は、やはり…あの事を…!」

早く連れていけ、と短く吐き捨てれば直ぐに前当主は居なくなったのである。

「全く、あなたの時代は終わったのですよ…父上。」

あの事…か。確かにあの事は、私の行動のきっかけではある。だが、月宮の古いやり方にはうんざりしていたのは本当だ。私の力を見せ付け、他家に媚びる愚かさを説いた。幹部や部下達の理解を得られるのなど、簡単であった。

後は、目的を果たすだけ…。春宮を潰し、冬宮の力も削ぎ落とす。私を馬鹿にし、下らぬ虚言であしらったあの冷徹な春宮当主を。

冬宮は…長子、次子を育てきれず失敗作を量産し、三番目を後継とする愚かな家だ。怖るるに足らない。

問題はやはり春宮だ。許せるものか。どこぞから連れてきた見ず知らずの落とし胤を、当主として育てるだと?下らない男だ。一人の妻を愛しきれず、見ず知らずの女に男を産ませ利用して。

私は…絶対に貴女を救い出します。チサト様…!

「…居ますか?黒鎖君。」

誰も居なくなった部屋で、窓に寄りかかる月宮は呟く。そんな小さな声にも反応を返す相手は、滑るように部屋に現れた。

「はーい。何ですか?月宮さん。」

顔を晒さずフードで隠す男は、常の様にやる気の見えない口調のままだ。 黒鎖の態度にも慣れたので特に咎めず、そのまま続ける。

「…どうかな?首尾の方は。」

そうですねえ~とニヤニヤと笑いながら、室内をくるくると回り月宮に近付く。

「まあ、風紀委員のメンバーの総取り替えを終え、月宮の全特権を得た月宮さんに言う程の情報は…うーん。」 
「…3倍に増やそう。」

わざとらしく首を傾げる黒鎖に、月宮が素早く答えると直ぐに黒鎖はクックと笑う。

「おやおや、流石月宮さんですねえ。新しい情報でしたっけ?…王子様側の人間を減らすには、まず…守山 智とかどうでしょうか?」

雇ったからには、黒鎖を最大限利用してスッパリと縁を切る必要がある。関係を長引かせるほど危険な相手だ。

…守山か。

「守山。あの、警視総監の息子ですか。」

黒鎖は室内のソファーにごろりと横になると、ぬいぐるみを愛でる様にナイフを優しく撫で擦る。ナイフで指の表面が切れて血が滴るも、黒鎖の笑みは止まない。

本当に、気味の悪い奴だ。しかし、嘘は吐かない人間ではある。

「…具体的には?」

ん?と黒鎖が顔を上げる。

「…えーっと、まだ〈彼ら〉を使わないんですよねえ?」
「ええ。まあ。」

月宮は言葉を濁す。彼らは最終段階で使う予定だ。
黒鎖はガムを口に放り込むと「それじゃあ」と夕飯のメニューを決めるような口振りで話す。

「無口君を、筋肉マッチョさんに襲ってもらいましょー。襲われた後、月宮さんが助けるんですよ~。」

無口君とは、守山だろうか?黒鎖はあまり名前で呼ばないな。しかし。

「そんな事で、守山の心を奪えるのかな?」

大丈夫ですよ~と、その場に似合わぬ緊張感のない返事が返される。

「無口君って、俺の情報だと王子様に恋しちゃってるんですよねえ。」

噛むガムを膨らませ、パチンと割ると欠伸を噛み殺す黒鎖。

「…恋って、かーんたんに壊せますよ。それこそ泡みたいにね。」

黒鎖の歪む口元は、常人なら背筋を凍らせる物だっただろう。メチャクチャに壊された守山を、月宮が優しく甘く助ける、至ってシンプルな筋書きだ。恐ろしい出来事も簡単に思い浮かべられる月宮も、既に歪んでいた。

「…いつ?」

短い問いに、黒鎖は「ふふふ」と嬉しそうに笑う。

「近々に。ですから、月宮さんは頑張って王子様とギスギスしちゃって下さいね?」





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