王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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二章~親交会・対立~

曇り空

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理事長に、他生徒会メンバーを考えて置いて欲しいと言われ、そこで部屋を後にした。
月宮に敵意か蔑みか持たれているとは感じたが、表立って争いたいと思わない。この日は、機嫌の悪い直久を宥めながら1日を過ごす。

ん?月宮が居ないな。何処に行ったんだろう。

然り気無く美景には、黒鎖と風紀委員会について情報を集める様に言って置いた。月宮の事はまだ良いか。

その夜、生徒会メンバーについて考えてみる。
直久には「お前が会長をやれば良い」と言われたんだけど。

メンバーか…。

会長…僕だとすると、
副会長…直久、恵。
書記…美景。
会計…明日霞。
庶務…守山。

だろうか?
親睦会で良い連携だったから、このメンバーだと楽だよね。 

一つ息を吐いて、ベッドに倒れ込む。

なんとなく…嫌な予感がする。学生といえども、三大家の名を名乗る者だ。あそこまで敵意を剥き出しにするのだろうか?

疑問が浮かぶが、体は疲れていた為か思考が途切れそのまま寝入ってしまう。 





明くる日、いつもの様に廊下を歩き教室に向かう途中だった。ざわざわと騒ぎ立てる1枚の紙を持つ生徒達に気づく。

「…あ、お、おはようございます。」
「…あ、こら…隠しとけ!」

普段ならきゃあきゃあと騒ぐ生徒は、何故か気まずそうに視線を剃らしていく。

一体?
内心の戸惑いを浮かべぬよう表情は変えずに、ある人物を見つける。

「はーい。よってらっしゃい見てらっしゃーい!号外だよ~?なあんとー、あの春宮様が?」

黒鎖…。
視線の先に、会う生徒達に紙を配る顔の上半分をフードで隠す男が。 

「おはよう?何か面白い事をしているみたいだね。」

微笑みを向ければ、周囲の生徒達は慌てて距離を取った。千里の姿を見つけても全く動揺をしない相手は、むしろ嬉しそうに手に持つ紙を渡す。

「おっやあ、王子様!是非とも真相をお聞かせ下さい~?」

何々?
一般的なノートと同じサイズの紙を受け取り、目を落とす。

〈号外
なんとあの春宮様が!
あの完璧王子様が、春宮ご当主のご落胤か?
母親はご当主が見初められた一般庶民だと…〉

あとは読む気にもならない。…ふーん?なるほど。

笑みを崩さず、黒鎖に視線を送る。

タタタタタ
その時、後方から走ってきた人物は無表情に黒鎖の前に立った。 

「…1年Cクラス黒鎖。ただちに配布した物を回収、破棄しなさい。速やかに行わない場合、春宮様親衛隊隊長として貴方を処罰します。」

美景…。

この時の美景の行動力は凄まじい物だった。登校しこの紙を持つ生徒を見つけた瞬間、親衛隊に連絡網を回し処分を告げたのである。
静かな怒りを浮かべる美景に、黒鎖は見える口元にさも愉快だと言わんばかりの笑みをつくる。

「処罰~?怖いですねえ。銀髪の隊長さん。 表現の自由という奴ですよ。あ、それに上からの命令ですし。」
「貴様…。」

美景の瞳が鋭くなり、次第に親衛隊が集まり出す。

「なんだなんだ?」
「あれって、春宮様親衛隊?」

黒鎖を囲む親衛隊という光景に、周囲は固唾を呑む。しかし、その空気を打ち消す様に千里の短い声が響いた。

「親衛隊の皆、退がってくれるかい?」
「…千里様、しかし。」

美景の躊躇う声に、更に冷たくなった千里の言葉が重なる。

「誰が頼んだ?こんな事。下がらせろ。」

圧倒的な支配者の声音に、流石の美景も直ぐに頷き「全員戻りなさい」と帰らせる。

さてと…上から、ね。
黒鎖は楽しそうに、その光景を見ていた。こういう人間は、感情を向けても逆効果だ。

「上からって、僕の想像通りと思って良いのかな?」

にこりと笑みを送れば、黒鎖は「ええ」と笑う。

「たぶん合ってますよー?ま、貧相な想像で答えが出るとは思いませんがね。」

美景の怒りが今にも爆発しそうである。これ以上話しても無駄か。

「そうかい。じゃあ、失礼するよ。」

余裕を保ち、その場を去っていく。今はあまりにも目立つだろう教室に行くのも憚られ、ある空き教室に入って行く。付いてきた美景は、うって代わり沈んだ表情で頭を下げた。

「…申し訳ありませんでした!私は、勝手な事を…。」

美景は、夏雪が現れてから元気が無かったっけ。此処で責任を感じて離れられる訳にはいかない。園原美景の情報収集と手腕は、既に無くてはならないのだ。頭を下げる相手を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。

「ありがとう。僕の事を想ってくれたんだね?」

ひゅっと息を呑む美景は、小さく頭を振る。

「…でも、私お役に立てなくて…。」
「僕は、君が役に立たないと思った事は無いよ。可愛いお姫様。」

でも、と美景の瞳からポロポロと滴がこぼれ落ちた。

「だって美景は、学校で数少ない信頼する人間だから。」

相手の動きが止まり、怖々と千里を見上げて来る。
まだ涙が流れ、目元が赤い。プライドの高い美景が泣き顔を見せるのは、千里だけである。

「…でも、私…お姫様になれません。」
「どうして?」

美景は可愛いし、綺麗な子だと思う。恵とはまた違う魅力がある。

「今まで…私は嫌な人間でした。下の者を見下し、利用して嘲って…私は綺麗でも、千里様に信頼して頂ける人間じゃない。」

1歩下がりかけた美景を、引き戻し床に下ろして顔を見つめる。

「そんな事、どうでも良い。」

千里の唇が、美景の耳元に近付き甘く囁く。

「…僕には、君が必要だ。今の美景が。」

ゆっくりとそのまま押し倒し、全く抵抗しない相手の頬を撫でて瞼に口づける。

「…っあ、千里…様?」

一瞬で頬が薔薇色に染まる美景は、中等部で言われ続けた氷の女王の面影すら無い。従順な可愛い人。自分に心酔する相手を、僕こそ利用している。

唇を移動し、相手の唇と合わせると舌を捩じ込む。
ええと、明日霞って親衛隊の子にどうやっていたっけ?
体を硬直させる美景の手を握り返し、侵入した舌で歯列をなぞり舌を絡めてやる。

「…ん、ふあ…」

甘い吐息が漏れた美景は、瞳を蕩けさせる。

うわ、美景の唇柔らかい…凄く気持ち良いな。癖になりそう。

一度唇を離すと、何度も相手の唇を嘗めたり食んだりと感触を楽しむ。涙目で息を荒げる扇情的な美景は、切なそうに千里を見上げた。

「…千里様…どうか、私にお情けを下さい。」



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