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二章~親交会・対立~
中等部親交会?
しおりを挟む親睦会の数日後、Sクラス担任田中は、ホームルーム後にある三人へ声を掛けた。
「春宮君、冬宮君、月宮君…昼休みに理事長室へ行って頂けますか?」
「はい。分かりました。」
特に深く内容は聞かず、軽く頷いておく。周囲は、三大家の全員が呼ばれたからか、俄にさざめいている。
さてと、何だろうな?理事長の用事か。
「せーんり?もし理事長が変な事言ったら教えてね。」
元気良くそう言うのは、勿論恵だ。桜川家は莫大な寄付をしているので、理事長に顔が利くのだろう。
*
昼食前に直久と共に理事長室に向かう。月宮も呼ぼうと思ったが、既に姿は無かったのだ。豪奢で頑丈な扉の前に居た秘書らしき人物に声を掛け、促され室内に足を踏み入れる。
「やあ、忙しい中すまないね。来てくれて嬉しいよ。」
40代中頃の男性が、ソファーに座り笑顔を向けてくる。向かいのソファーには、既に月宮が座っていた。千里達と別段親しくないからか、二人に気付いても横目で見ただけである。
「…では、春宮君と冬宮君も座ってくれ。」
理事長の隣のソファーを薦められ、腰を下ろすと直久も千里と同じソファーに座った。
この人が理事長か…。想像していたより、ずっと若いな。
然り気無く理事長を観察していると、秘書が三人へお茶を持ってきた。三人がお茶に口をつけたのを見計らい、理事長が口を開く。
「…さて、君達を呼んだ理由なのだが?」
その言葉に三人の視線が集まる。
「実は君達にやって欲しい事があってね。」
「やって欲しい事、ですか?」
不思議そうな千里に、理事長は機嫌良く「ああ」と頷く。
「夏に行われる、中等部との親交会を主宰して欲しいのだが。」
中等部との親交会?確か、毎年のイベントで高等部1年と中等部2年との関わりを持たせる行事だっけ?
学校のパンフレットを思い返し考えていると、直久が溜め息混じりにある事を指摘する。
「…理事長。俺は中等部から、春宮は高等部から編入しました。中等部との親交会は、初等部から居る者が中心となるのでは?」
へえ?
直久は中等部から入ったらしいが、やはり代々の中等部との親交会は、幼い頃から学校に通う者が主宰する事が多いらしい。
「…いやいや、それがだね…」
理事長は、高等部と中等部との親交についてを最もらしく語り、話しの方向をずらしていく。
つまる所、たぶん言いたい事は単純だろう。理事長には中等部2年に息子がいる。彼が高等部に入るまでに、三大家の若君と親しくさせたい。…という事か。
おおっぴらには言わないが、聞いていた千里にはそう聞こえた。相手の目論みに気付きつつ、そういえばとある事を思い出す。
「そういえば、親交会を主宰した者は…確か?」
含みを持たせて問い掛ければ、理事長も直ぐに察し「ああ」と頷く。
「そう、親交会を主宰して貰う事と、君達に頼みたい事がもう一つ…来年度の生徒会をやって欲しいんだ。」
…やっぱりか。
予想は付いていたので、驚かずに続きを待つ。
「新入生の親睦会も大成功だった様だ。是非とも、春宮君か冬宮君に生徒会長をして貰い、月宮君は支えて貰う形になれば良いと思うが?」
まあ、将来の為にも名門校の生徒会長も良いかもね?
一人頷く千里の傍ら、今まで黙っていた月宮の口が開かれた。
「…理事長。」
「おや?何かね。」
月宮の声を聞くのも珍しいな。普段は、教室の隅で静かに過ごしているのに…。生徒会をしたくないのかもしれないね?大人しそうだし。
そう思っていた千里だが、次の言葉に今までの考えが覆されるのだった。月宮の長い前髪が揺れ、隙間から覗いた眼光が鋭く光る。
「生徒会ですが、冬宮君の下なら100歩譲ってやっても良いでしょう。ですが…春宮君の下につくなど死んでも御免ですね。」
あまりにも淡々と、しかし嘲笑混じりの物言いに室内の空気は一瞬で凍り付く。理事長は困惑し口を閉ざし、直久は意味が分からず眉を寄せている。
……は?
思わず月宮の顔を見るが、千里の方を見ようともしない。
「…ええと、それは一体?」
理事長は混乱しながら聞く。春宮千里については、好感触な噂しか登らない。月宮の態度は、理事長の想像とはかけ離れていた。
「はい?言った通りですが…私は月宮家長子ですが、春宮君は春宮の本妻腹では無いのでしょう?」
嫡男では無い者に従う気は無い、という言い方である。その瞬間、直久の表情が変わる。
「ああ?!くっだらねえ事言ってんじゃねえぞ!」
所謂ぶちギレた状態の直久にも、月宮の端前とした態度は変わらない。
「…それに。」
月宮はまだ続ける。理事長の秘書が直久を慌てて宥めに来た。
「私は既に風紀委員会の委員長を務めておりますので、結構です。」
何だと?1年生が?
ふと、一度風紀室に行った時を思い出す。黒鎖なる怪しい生徒が、委員長は居ないと言っていた事。この月宮が、何処からか委員長になっていたんだ。
それを聞いた理事長は、この事態を収集させようと何とか笑みを取り繕う。
「…そうか、なら仕方ないな?親交会は春宮君と冬宮君にして貰おうか。」
「ええ。そうして下さい。」
そう言い、月宮は立ち上がり理事長に頭を下げると、部屋を出て行った。三大家の均衡が僅かに崩れかけているのは、誰も知らないだろう。
月宮は…何処まで知ってるんだろう?
千里の眠れない日々が始まるのであった。
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