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一章~新入生親睦会~

親睦会Ⅶ

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午後の予鈴が鳴った頃、1学年は既に運動場に集まっていた。多くはジャージや、動き易い服装に着替えている。そう、午後のイベントは借り物競争だ。参加する者皆、今回はただ楽しく競争を楽しむ物だと思っていた。だが、生徒達は分かって居なかった。

〈はーい。そっれではあ、これから借り物競争を始めまーす!んじゃ、第1レースは準備よろしく~〉

テンション高く緩い口調でアナウンスを務めるのは、気分屋で享楽思考の秋道寺明日霞である。明日霞の親衛隊は声が聞けると嬉しそうに騒ぐが、参加者は次の言葉で戦慄した。

〈えーっと~。このレースで最下位は…うーん?1週間一階のトイレ掃除で!〉

気分で決めたな、明日霞。

ジャージに着替え終わった千里は、スタート地点で暗い顔の参加者が目に入った。

…観客と選手の温度差が凄いな。

実行委員はアナウンス席の隣のテントのある席に待機し、出番まではのんびりと見学する。

〈…えー。第1レースは、Bクラス◇◇~。Cクラス◎◎~。Aクラス瀬良~。Aクラス桐埼~。〉

オオーと歓声が上がる。最初のレースで知的な冬宮親衛隊隊長と、冷静な桜川親衛隊隊長が揃いレースは既に盛り上がりを見せる。

へえ。どうなるのかな?
直久と恵も興味を持ち、声を掛けた。

「瀬良、冬宮の親衛隊なんかに負けないでよ!」
「桐埼!トップでゴールしろ。」

敬慕する者から渇を入れられ、二人の瞳に力が宿る。勿論他の選手は空気と化す。

よーい…パンッ!

ピストルの音で、一斉に走り出した。瀬良と桐埼がトップで並走し、直ぐに紙を拾う。紙を素早く開いた瞬間、何故か二人はその場で固まってしまった。
後続の者もお題を見た瞬間、動かなくなって行く。

え?何で?題目は直したから、出来る範囲になっている筈なのに。

そう思っていると、美景の側にこっそりと千里の親衛隊の一人が何かを囁いた。それに美景の顔色が変わり、直ぐに千里に駆け寄る。

「…千里様、実は借り物のお題カードが、修正前のに戻っていたようです。」

え?何で?

戸惑う千里と美景に、更に困惑している鈴木がおずおずと声を掛ける。

「…あのお、えーっと。修正前とか知らなかったんですけどお、戻したのはうちの親衛隊ですが…。」
「…はあ?」

美景の苛立ちに怖がる鈴木は、詳細を簡単に説明した。

「えっとお、明日霞様が…カードを見つけて、内容がつまらないからあ~前のに戻しておいてって、言ってらしたのでえ。」

明日霞か。全く…。

「そう、それは仕方ないね。」
「…ご、ごめんなさあい。明日霞様じゃなくて、僕たちのせいなんですう。」

涙目になる鈴木に今さらまた戻す事も出来ず、アナウンスの明日霞には文句も言えず、千里は諦め微笑んだ。鈴木を元の場所に戻るよう促し、美景を宥めると成り行きを見守ろうと視線を戻す。

さて、どうするんだろう。

初めに、桐埼が駆け出した。向かっているのは、観客の教師席。

〈さあ、Aクラス桐埼~。どんなお題なんだー?!〉

明日霞…とても生き生きしているね。

それと同時に、瀬良は嫌そうに観客席に向かう。桐埼は、禿げ掛けた教師を。瀬良は、制服がはち切れそうな程太った生徒を連れて行った。

同時にゴールはしたが、お題に沿っていないとクリアにはならない。素早く秋道寺親衛隊がお題を明日霞に渡した。 

〈えーっと、桐埼ちゃんのお題は『尊敬する教師』で、瀬良のお題は『絶対に抱きたくない相手』だよ~?うっわああ~ウケル〉

太った生徒は、ショックを受けたのか悲しそうに去っていく。禿げ掛けた教師は、尊敬されているとは思っていなかったのか、凄く不思議そうである。そんな空気を感じ取ったのか、桐埼は眼鏡を軽く押し上げ、さらりと言い退けた。

「先生は、授業が開始された瞬間生徒の半数が眠りに入ってしまうので、以前から凄いなと思っていましたので。」

なるほど…授業がつまらないって事か。

その言葉に涙目になった教師は、無言で立ち去って行く。そうしていると、第1レースの結果が決まっていた。

〈はーい。ビデオの判定の結果あ~。ジャジャーン…1位は桐埼ちゃんでしたー〉

わあっと、特に冬宮親衛隊から拍手が起こる。
直久も嬉しそうだね?あ、恵はちょっと怒ってる。

瀬良の申し訳無さそうな視線に、恵は不機嫌に頬を膨らます。

〈…さあて、つっぎは~第2レースだよ!んーっと、今回の最下位は…運動場50周でよっろしくー〉

どんどん罰が酷い物に…。
思わず直久と目配せしてしまう。

〈はーい。第2レース、Aクラス都丸兄~。Sクラス鈴木~。Bクラス木村~。Sクラス園原~。〉

揃った有名人に、観客の空気も更に熱狂していく。
小悪魔的な秋道寺親衛隊隊長、武闘派の守山親衛隊隊長、春宮親衛隊隊長。

「すげえ~。園原様も出てる!」
「…都丸さんって、足早いよね。」
「鈴木様、可愛い~!」

ワイワイ騒がれる中、影に薄れる木村は勿論スルーされる。

あ、木村だ。顔にシップしてるけど、元気そうだね?良かった。

のんびり眺めながら、目の合った美景に軽くヒラヒラと手を振る。

「楽しんでおいで。」
「っはい、頑張ります!」

パアッと花が咲くような笑顔だが、雰囲気は都丸や鈴木を牽制している。親衛隊隊長と言えど、園原家は三大家に近い名門だ。更に性格上、あまり戦いたく無い相手であろう。 

よーい…パン!

勢いよく走る都丸に、俊足の鈴木、綺麗なフォームの美景は直ぐに紙を拾う。すずちゃん頑張れ~と、間の抜けた明日霞の声援が響く中、三人が素早く駆け出した。

その後を、木村がせっせと続く。テント席に、少し憮然とした美景が駆け寄って来た。

「…桜川君、来て頂けますか?」
「はあ?僕う?えー。」

文句を言いつつ、千里の親衛隊隊長である美景だからか、直ぐに共に走って行く。すると、暫くして今度は木村がテント席にやって来た。

千里の前に来ると、直久や守山をチラリと見てから、震える声でお題を見ながら言う。

「…あ、あ、あのう、春宮さん。」
「ん?僕が行くのかい?」
「…えーっと、じゃなくて…」

ん?何だろう。借り物競争なんだから急げば良いのに。

首を傾げる千里に、木村は勇気を振り絞り言い切った。

「…あ、ふふ服を脱いでくれませんか?!」
(うぎゃああああ?!って言い方間違えた!!)

その一言に、菓子を食べていた守山と、レースを見ていた直久の視線が向く。

「おい。何か言ったか?殺すぞ平凡野郎。」
「…変態。逮捕状を頼むか。」

木村の心臓は、本当に止まり掛けたらしい。



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