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一章~新入生親睦会~

親睦会前日

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うーん。驚いたなあ。

シンデレラの脚本に変更があったとかで渡された物だが、僕の出番が恐ろしい程増えていた。
あと、王子様の出番が凄く減っていた。

…何があった?

親睦会の最終打ち合わせを終えた昼休みが終わり、現在スポーツの時間である。Sクラスの者には個人の更衣室という物が有り、千里は着替えには困らないでいた。

現在はS、A、Bクラスで合同ドッチボール。勿論、Sクラスに対しては遠慮して本気になれない生徒は多い。そんな空気の中、能筋な体育会系教師が声を張り上げる。

「ほらほらー!スポーツにクラスは関係無いぞ~?本気でぶつかっていけー!」

爽やかな笑顔を振り撒く姿に、Bクラスの生徒の顔は酷いものだ。

(空気読めや、クソ教師が!)

そこで、Sクラス対Bクラスの対決となった。Aクラスは、ほとんどSクラスの応援に回っている。まさにアウェーな状況だろう。 

外野は、恵と美景ともう一人の生徒が出ていく。可愛い系で安堵するBクラスには申し訳無いが、美景は武道の達人なのだ。

さてと。
初めはBクラスにボールが回り、死ぬ覚悟でもした様にボールを構える。Sクラスは無言のプレッシャーを与えつつ、少しだけ後ろに下がっておく。

たぶん、当てには来ないとは思うけど。
そう思う千里の前には、直久や明日霞が然り気無く守る様に立っている。

別に良いんだけどね?

ボールが飛んでくると、Sクラスでも運動部に所属する者が率先して相手をする。始まってしまえば、意外と白熱してきてBクラスも、少しずつ当てても良さそうな相手に当てていく。

「…うわ!」
「くっそー。」

ドッチボールって結構盛り上がるよね。

美景がボールを持つと、一気に2、3人抜けると分かり、外野は早々に美景担当と化している。 

やっぱり美景って…怖い子。ポン。おっと、やっと僕にも回って来たか。美景に回せば、楽だけど。

ボールを人差し指でクルクルと回すと、相手方も警戒しギリギリまで下がる。

んーと。

腕力の無い千里にとって、むやみに投げれば良いとは思って居ない。
ボールを真っ正面に放つ動作をし「直久」と小声で言うと、右斜め後ろの直久に下からボールを送る。
無言で受け取られたボールは力強く相手側に投げられ、一気に二人程に当たった。

「…きゃあああ!流石です!」
「春宮様と、冬宮様の連携プレイだー!」

応援の声にほっとしつつ、直久の腕を軽く叩く。

「流石、頼りになるよ。」

直久なら、やってくれるかなって思ったんだよね。
嬉しげに微笑む千里に、直久も片眉を下げて頬を緩めた。

「言っただろ?お前の為なら何でもしてやるって。」

笑みを交わす二人を他所に、応援の中に「桐埼君が倒れたぞー!」という声が響いた事など誰も知らない。

白熱する試合の中、残りはSクラス(千里、直久、鈴木)Bクラス(木村、+3名)となった。

明日霞、守山は途中でボールがかすり外野行きである。

途中で適当に当たっとけば良かったなあ。

余裕そうにコート内に居る千里は、実は最後まで残るつもりは無かったりする。こういう時、自分の負けず嫌いと反射神経の良さに面倒だと思うよ。

後は、直久と鈴木か。
鈴木って…確か明日霞の親衛隊隊長だっけ?
小柄で可愛いタイプだから、僕が先に抜ける訳にはいかないか。

そう思っていると、美景が「千里様の為に!」と叫びながら、一気に二人をアウトにした。
心臓付近というえげつない所を狙うお姫様に、Aクラス生徒の顔色も悪くなっている。

そうは言っても自分の為にしてくれたので、とりあえず笑顔で軽く手を振ると、目を輝かせ両手を振ってくれた。

可愛いなあ。えーっと、敵は残り二人。木村ともう一人か。木村って凄いね。運が良いんだか、悪いんだか。

またボールが千里の元に回って来た時、今まで黙っていた鈴木が近付く。

「…春宮様あ、よかったら~…僕も投げてみてもお、いいですかぁ?」

緩い口調の可愛いらしい相手に、千里はにこやかにボールを渡す。勿論、鈴木の目論み等知らずに。

まあ、当てられなくても外野に美景も居るし。

鈴木 礼次。秋道寺の親衛隊隊長…そして、初等部から野球クラブの投手のみを続けた男である。明日霞に「すずちゃん、頑張れ~。」と言われ、片手を口元で握り愛らしく「はあい」と答えた。 

その次の瞬間、眼光鋭く片足を上げて渾身の力でボールを投げ飛ばす。勢い良く向かった先は、木村 太郎の顔面であった。

ズザザッ、ガゴン!
ボールの衝撃で木村は後ろに倒れ、良い音が響き渡る。後頭部を強打したらしく、木村は頭を抱え身もだえる。

「うわ、大丈夫?」

クラスメイトが慌てて駆け寄り、速やかに体育教師に運ばれていく。

「…鼻血出てたよね。」
「てか、顔に痣出来たんじゃない?」

ざわざわと館内がさざめく中、千里の元に涙目の鈴木が寄ってくる。

「…あのお、春宮様ごめんなさい!」

ん?何故僕に。

「どうしたの?僕にはぶつからなかったけど。」

不思議そうに軽く首を傾げると、鈴木はプルプルと頭を振った。

「違うんですう~。…木村君の顔が腫れちゃったら、明日の劇の王子様が居なくなっちゃうから…どうしよおって…。」

涙目の鈴木の言葉で、千里は一瞬で状況を理解出来た。

…え?まさか、わざと?いやいや、王子様役を消すメリットなんて無いでしょ?偶然だよね。 

スポーツ後、緊急会議が開かれる事になったのだった。



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