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一章~新入生親睦会~
秘密のD
しおりを挟むうっ…まだ気持ち悪い。
地獄の様な饅頭を食べ、額を強打し意識を失った千里だが、なんとか目を覚まし保健室で休んだ。本当は直ぐに回復したのだが、美景の強い要望で暫く横になっていったのだ。
饅頭って、凶器になるのか。
饅頭を思い出し、思わず口元を押さえる。千里の饅頭の中身は大外れ。イカの塩辛、キムチ、納豆、ドリアンであった。
それより皆の顔が大変な事になってたな…それほど、僕の反応が凄いものだったんだね。実行委員会は直久が続けてくれたようで、直ぐに話しを纏めてくれたらしい。直久ってやれば出来るんだよね?
美景からの報告メールを見終わり、保健室から出て図書館に行こうと足を向ける。
……よし。
普段通らない道に、敢えて足を進めて行く。というのは、然り気無く見てみようと思ったからだ。B~Dの教室の雰囲気を見て見たかったからだ。特に気にせず歩く振りをしていると、所々に見られるDクラスの生徒を使う姿。
「…ほら、早く運べよ?」
「これ買ってきてよ、1秒で。」
無理難題を押し付ける者、無意味に暴言を浴びせる者、性的欲求を押し付ける者…。Dの者は、全く反抗せず唯々諾々と従っている。
酷いな。特にCクラスがDへの命令が多いのか。これは、Cの憂さ晴らしの役割をしているという事か?
そんな疑念が浮かぶ。
暗黙の了解だったら、風紀委員会が動かないのも理解出来る気がする。
廊下を出て、中庭を通りすぎようとした。
もし、風紀委員会が手を出さない場合、どうするか。思考に耽っている時だった。
「こっから落ちてみろよ!」
何か囃し立てる様な声が頭上から聞こえる。千里は、また下らない命令だろうと思った。ふと、意識を真上に向ける。気付くと、三階の窓枠に掛かる足が目に入っていた。
え?まさか?
見ている者から流石に止める声が掛かるが、足を掛けた人物はそのまま窓から落ちていく。みるみる千里に近付いてくる。その刹那、千里の体は無意識に動いた。その高さから受け止められるとは思っていなかった。
しかし、そんな考えは無い。
ドサッ!!
空気圧と体重の衝撃を堪え、見事にその体を受け止めていた。
……わあああああ!
見ていた者から歓声が上がり、拍手が沸き起こる。
はあ、死ぬかと…思った。
なんとか相手を下ろすと、余裕の笑みで顔を見下ろす。
「…災難だったね?大丈夫だったかい。何処か痛い所は?」
相手は、恐ろしい経験をしたばかりの筈が、特に表情を浮かべずに立ち上がり、胸に手を当てて頭を下げた。
「…失礼致しました。いえ、体に不調はございません。流石に命は危ういと思いましたので、感謝致します。」
言葉の割には淡々とした口調に、千里は不思議に思う。
よく分からない人間だな。
それと、相手の制服は少し変わっていた。裾が長く胸ポケットにはハンカチが見える様に入れている。
物腰が、何だか爺やを思い出す。そう、相手は執事の様であるのだ。
「いや、怪我が無くて良かったよ。所で君の制服は素敵だね?何か他生徒と違うのかい?」
Dの生徒の執事君は、華やかでは無いが、涼やかな面立ちに灰色の艶やかな髪、180はある上背をしていた。彼は少し考える仕草を見せるも、直ぐに両手を腹の前で揃え、聞きやすい声で話す。
「…はい。Dクラスの中で、10名は特別な役割を承っております。その区別として、衣服を変えているのです。」
ふーん?
「その役割って?」
「申し訳ございません。いくら春宮様でも、お答えは出来ない決まりでございます。」
淡々と業務的な相手に、口を割らないだろうと察しが付き、小さく微笑む。
「…そう、なら仕方無いね。じゃあ、僕は用事があるから。」
そう言って離れようとすると、執事君はまた口を開く。
「……。春宮様。」
ん?
足を止め、首を傾げる。
「以前、同クラスの矢代を助けて頂き感謝申し上げます。更に、此度の事…是非ともお礼をさせて頂きたいのですが。」
お礼、かあ。
千里にとっては、どちらも偶々居合わせてした事なので、お礼をして欲しいなんて気持ちは無い。
「そうだな…じゃあ、自分を大事にする事、それだけだよ。」
鮮やかに笑い、千里は立ち去って行った。すると、今まで感情の無かった執事君の表情に、僅かな変化が生まれた。
(これは、そろそろ主を定める時がきたようですね)
Dクラス、クラス長もとい執事長…夏雪は目を細めたのだった。
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