王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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一章~新入生親睦会~

親睦会実行委員会

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優雅な昼下がり、ある一室にて親睦会実行委員会の話し合いが行われた。AクラスとBクラスの委員メンバーは、顔合わせのみで直ぐに下がって行く。

その後、美景の部下からの差し入れを受け取り、Sクラスの実行委員で話し合いを始めた。

……泣きそう。

事の発端は、差し入れの件である。綺麗なラッピングをされた箱の中には、甘そうなケーキがずらりと並ぶ。
全く興味ない直久、美景と恵は顔を輝かせる。いそいそとお茶を淹れてくれた美景から、茶を受け取り千里は涙を堪えた。

食べたい食べたい食べたい。

大の甘党の千里だが、この学校に入ってからは王子様のイメージを守り口にしていなかった。王子様は、甘い物を食べる可愛い子ちゃんを眺めはするが、甘い物をパクつきはしない。

あああああああ。美景の部下め…許さない。頭を撫でまくってやろう。

予想通り、千里と直久の前にはクラッカーとミートパイが置かれる。

甘い物の口になってるよ。

秋道寺も甘い物が好きでは無いのか、クッキーを1枚食べて終える。スイーツ系男子の恵と美景は、好きなケーキとマカロンを選び幸せそうに食べている。

どうしよう。二人が小悪魔にしか見えない。内心歯噛みしつつ、更にイラつく原因を見る。

守山 智。無口無表情の中性的美形。長い前髪を片方耳に掛けているのが、印象的な彼は、ケーキを4個皿に乗せている。

「へえ~。守山ちゃんって、甘党なんだねえ?」

秋道寺の意外そうな声が上がる。

「……そう。結構、好き。」

ポツリと返し、黙々と食べる姿は、クールな印象に僅かな可愛さをプラスする。

僕だって…ワンホールぐらい。いける。守山が残りを取ったから、食べるって言えなくなってしまったよ…。どれだけ食べるんだよ、この人。糖分欲しいよ。僕だって!

ケーキを忘れようと、束の書類を捲り話しを始める。

「…じゃあ、食べながら聞いてくれるかな?」

視線を受け、微笑みを浮かべて続ける。
守山、君は食べるのを止めなさい。

「とりあえず、全クラスから集計した結果…案が三つに絞られたんだけど。」

一度区切り、ホワイトボードに書き出す。

・スタンプラリー
・舞踏会
・借り物競争

「…後は、僕たちで決めるんだけど。どれが良いかな?」

うーんと、皆が頭を捻り出す。確かに、どれも楽しそうではあるけど。

話し込む事10分は過ぎただろうか。結局、午前スタンプラリー、午後借り物競争に決めた。

「あ、守山君は意見ある~?」

ケーキを食べ続けた守山に、恵は何となく聞いてみる。

「………。」

そこで何故か黙り込んだ守山に、千里も少し心配になった。

「どうしたの?何か気になる事でも…。」

守山は最後のケーキをじっと見つめ呟く。

「…食べきれない。」 

人を殴りたいと思ったのは始めてだ。どうしよう。
今さらだけど、守山を委員除名したい。
表に出さず苛立つ千里の前で、守山は何か考え顔を上げる。

「…食べる?」

え?僕に?良かった。もしかしたら、分かり合えるんじゃ…。
守山は、ケーキを直久の前に置く。

「はい。あと…意見は、無い。」

…………………………………………………………………サヨウナラ。

書類を見る振りで顔を隠す。今の顔を見られたら、困るからだ。直久は勿論ケーキを嫌がり、秋道寺に押し付けている。

「えー。マジで要らないんだけどお?冬宮からとか、その時点で無理じゃね?」
「その要らない物をやるっつってんだよ。有りがたく受け取れ、色狂い。」

険悪な二人に戸惑う美景と、呆れる恵を視界に入れ、止めようと千里は書類を置く。すると目の前に、フォークに刺さった一口大のモンブラン。

「千里ちゃーん。食べて~?」

はい、あーんと言う秋道寺は、千里にとって神の様に思えた。恵と美景は不機嫌に頬を膨らませ、直久は睨み付けている。

しかし、食べたい。
意を決して食べようとした時、フォークにかぶりつく横顔。

「…食べない、なら…貰う。」

秋道寺からモンブランを取り上げ、食べ始めた守山。残念そうな秋道寺と安心する面々を他所に、千里は涙を堪え既に限界だった。

「…千里?」
「千里ちゃん?」
「どしたの、千里?」
「千里様…?」
「…もぐもぐ。」

黙って立ち上がり、眉を下げた麗人はポツリと一言だけ言う。

「モンブラン…少し食べたかったな。」

その一言は千里にとって無意識に放ったものだが、その数秒後には室内に守山と千里以外の人間が消えていた。その日、都市部名店のモンブランは全て消えたそうである。

残された千里は、動きを止め自分を見つめる守山に気付く。

「どうしたんだい?」
「……ごめ、ん。甘い、もの…嫌い、と思った。」

俯き何処か落ち込む相手に、千里の気分は浮上していく。

そうか。守山は空気が読めないとか思ったけど、人一倍気を遣っていたのか。

「…違うよ。言わなかった僕の責任だしね?それより、気にしてくれてありがとう。…君みたいな、優しい人と一緒に委員になれて嬉しいよ。」

王子様オーラを最大限に活かし、優しく微笑む。無表情の守山の口元が、初めて笑みを作る。

「俺も、嬉しい。」



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