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三章~新風紀委員会・親交会~
微睡み軋みside敵側
しおりを挟む『…冬宮様が見つかったそうです。お怪我も無く、お元気で…』
「そう、ありがとう。ご苦労様だったね。」
冬宮親衛隊からの連絡を受けた歩からの電話を切り、ホッと安堵する。
直久は学校敷地内の裏庭に居たそうで、疲れたのか今は寝ているらしい。明日の朝、様子を聞いてみるか。一応今夜は、Dクラスの護衛を付ける様に指示をしてから部屋へと戻る。一人部屋へと戻り、考えるのは朱峰の事。
「…僕が、千。彼が歳だとしたら、父上は彼を知っているのか。」
あの笑顔は、春宮の者だ。警戒しなければならないが…。ベッドに横たわり、そのまま深い眠りへと落ちていく…。
*
「月宮君、春宮千里に会ってきましたよ。」
夕暮れ時、風紀室に居るのは黒鎖と相対した人物達と、風紀委員長である月宮だった。麗しい微笑を浮かべる朱峰へ、月宮はあくまで冷静だが少々不穏な空気を醸し出す。
「…少し早いが、まあ良い。それで、どう感じたのかな?これから敵となる男を見て。」
月宮のありありと浮かぶ嫌悪に、朱峰は僅かに「おや?」と眉を上げるが、月宮には見えていなかった。そう、朱峰は知っていたのだ。月宮が知り得ない情報を。知っていて、月宮側についたのだから。
「…さあ、あまり会話をしなかったので?月宮君とは、また異なる美形でしたね。」
「そうか。…しかし、まさか春宮分家の筆頭 朱峰家の嫡男が、宗家を裏切るとはね。」
非難は無く、むしろ楽しげに口角を上げる月宮。朱峰の『当主になる為に千里を蹴落とす』という目的は、都合の良い物だった。
しかし、朱峰は分かっているのだろうか?それが春宮家に知れた時、自分の立場はおろか…朱峰家の存続も危うくなるのに。
月宮が持つ王者の浮かべる雰囲気に内心驚きはあったが、朱峰は覚悟を決めていた。
(必ず、春宮の次期当主となる。これまで生きてきた全ての努力を実らせる為にも!…僕の存在すら知らなかった事を後悔させよう)
内に秘める物を隠して、美しき笑みを交わし合う。それを見つめる他の風紀委員の面々は、二人の会話には加わらず囁き合う。
「いや~。月宮様と、朱峰君めっちゃ怖いねー。そう思わない?氷室君。」
「俺に聞くな、音無。」
ゆったりとした話し方の音無は、椅子に座りペロペロキャンディーをくわえたまま、本を捲る蒼白髪の氷室へと声を潜める。すげない氷室の返事を特に気にせず、マイペースに椅子に凭れへらへらと笑う。
「…氷室君、ちょークールだよね~。あーあ、早く明日霞に会いたいなー。」
「音無様、お飲み物のおかわりは?」
「…あー。ありがとう、多白君。」
丁度空になったティーカップに、タイミング良く注がれる紅茶。音無は機嫌良く紅茶を口にするが、執事という生き物を知る氷室は違う。
「…多白、此方は良いから月宮様の傍に居た方が良いのではないか?」
「…いえ、月宮様には自由に振る舞う様に命を受けておりますので。皆様のお手伝いをさせて頂きたく思います。」
「…そうか。」
「多白君、すっごく働き者~!」
双方の反応に「執事でございますので」と見事にお辞儀する、1本の後れ毛すら無いオールバックの執事多白。
「そーいえば、多白君ってこの学校で何するの~?月宮様のお世話?」
世間話として問い掛ける疑問は、多白の完璧な姿勢を僅かに乱していた。自分から「執事でございますので」という執事は、実は居ないのである。
「月宮様のお側に居る事、そしてDクラスの執事長の業務を完璧に出来れば…と。」
ふーん?と音無が頷く横に、月宮との話が終わったらしい朱峰が腰かける。
「あ、朱峰君~。お菓子食べる?」
「ああ、ありがとう雨夜。…それにしても、迅来は夏雪が気になる様だね?」
朱峰の家格的には、他者を呼び捨てにするのには違和感が無い。だが、月宮を〈様付〉しないのも少々奢っている様にも見えるかもしれないが。
完璧な執事は、夏雪の名に「滅相もありません」と頭を横に振る。
「執事として生まれ育った私が、俄執事の夏雪を気にするなどとんでもございません。ただ、本当の執事の姿をDクラスに示せればと存じます。」
つまり、夏雪は執事ではない。Dクラスの者が聞けば、青醒めそうな事を言っている訳だ。あまり風紀委員のメンバーに関わろうとしない氷室ですら、多白の物言いは不思議ではある。
執事として生まれ育った多白?春宮家の執事長に師事した夏雪と何が違うというのか。頭の半分でそう考えていた氷室の前で、マイペースな音無は呑気に朱峰との談笑を続けている。
「…ねえ、星河君はー?今日居ないの?」
「陽菜は彼方の目を欺くために、暫く裏方に徹するんだよ。知らなかったのかい?」
へえーと、朱峰の説明を聞いているのだか居ないのだかハッキリしない相槌にも、丁寧に答えて微笑む。人当たりの良く見える音無だが、自分の世界が確立しており存外関わるのが難しい。
しかし、今は全員月宮の元で目的が一致している中、態々関係を乱す者も居ないだろう。表面上は、至極穏やかな雰囲気なのだ。
「…あー。忘れてたけど、黒岩さんは?」
「ああ、職員室に行ったよ。明日からは黒岩さんじゃなくて、黒岩先生だからね?」
「うん、わかったよー。」
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