王子様が居ないので、私が王子様になりました。

由紀

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三章~新風紀委員会・親交会~

会議と勝負と

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夕方になり、二回目の親交会会議が行われた。今回は、それぞれが纏めた案を出しあうので長くはならない予定だが…。
どうだろうな。あの銀条が、また勝負だ何だと言って来ないと良いけれど。あの後は棟も違うので会う事は無かったが、時間を置いて諦めてくれていれば良いが。

「色々心配かけてごめんなさい。」

高等部のメンバーが揃った頃、恵が立ち上がり深々と頭を下げた。

既に恵が自分の意思で月宮に付いた訳では無いと知る面々だが、恵としては何もなく戻ってくるのは気が引けたのだろう。
千里は敢えて何も言わずに周囲の様子を伺う。

「…今回の事は、此処に居る奴らはもう知っている。だからそれで良いんじゃねえか。」

意外な事に口火を切ったのは直久だった。直久も城ヶ根の一件以来、何か一皮剥けた様に堂々としている。恵から謝罪した。…それでケジメはついたのだから良いという事か。
親衛隊の隊長達は、直久の発言に追従し頷いて肯定を返す。美景は異論無く無言で頷き、智はマイペースに書類を捲り、明日霞は気にしていないらしい。

…やはり瀬良の姿は無いな。後は恵との問題か。
そんな事を思いつつ、紅茶を一口啜った。そういえば、今日は雪の姿を見ないな?

普段は然り気無く一定の距離を保ち控えている夏雪が居らず、代わりなのかDクラスの執事数名の姿が映る。夏雪と同じ形状の制服なので、いつか聞いた上位の執事だろう。

「失礼します!委員長銀条です。」
「…失礼致します。今日もよろしくお願いします。」
「失礼致します。本日はよろしくお願い致します。」

室内が落ち着いた頃、中等部の委員も到着した。
入って来たのは、前回同様銀条、宇津井、園原であった。

「…ああ、君達は初めてかな?此方が、桜川恵と守山智だよ。」
「よろしくー。」
「…よろ、しく。」

彼らの初顔合わせだろう恵と智の紹介を行い、早速本題に入ろうと資料を美景が配り終えた時だった。
ガタンと音を立てて、銀条が立ち上がったのだ。何となく挙動不審だと思っていた千里である。

少々嫌な予感がするな…。

「…春宮さん!前は変な人に邪魔されましたが、今度こそ勝負をして貰いますよ!」

おい、と慌てて止める宇津井の反応は正しい。個人的に言うなら良いが、高等部の有力者が集まった場での僕を敵に回す発言は、かなり危うい。
変な人…うん、変な人だね。フードを被る拳銃を持った人間を思い浮かべて内心納得する。

「勝負?勝負って何?」
「…てか、千里ちゃんに偉そうなんだけど。」

事情を知らない面々が疑問を口にする。美景の弟の大翔も銀条を座らせようと、隣で腕を引いていた。
それでも座らずに、自分を真っ直ぐに見据えてくる銀条に感心すらしてしまう。

この中で怯まずに対峙するのは凄いな。…確かに勝負すると言った手前、無かった事には出来ないか。

「…分かった。延ばしたのは僕の事情だし、今すぐに勝負をしようか?」
「っ本当ですか?今すぐ?」

千里の返事にパッと顔を明るくする銀条に、頷き微笑む。という訳で、申し訳無いけれど…。

「だから、会議を僕と銀条抜きで進めて貰おうかな?」

そう言ってみるが、勿論大反発が沸き起こる。主に銀条に向けて。

ある者は、委員長二人の不在は難しいと。
ある者は、千里が銀条と二人きりは危険だと。
ある者は、会議の場で勝負だ何だと言う銀条が問題だと。

まあ、そうだね。
目が覚めたのか、非難を浴びて言い返せず俯く銀条を横目に見る。

「僕は構わないよ。」

非難する言葉の波の合間を狙い、ハッキリとそう言い切った。千里の大きくは無いが耳にするりと入る声で、その場に一旦の静寂が訪れた。

「銀条は僕に興味を持っての事だと思う。全く興味も無いよりも、親交会を行うにあたって良い傾向じゃないかな?これで僕も彼の事を知れる事だし。」

柔らかい微笑で締め括ると、先程の怒りや不満も落ち着いたらしい。

「…ありがとうございます。」

庇われて唇を噛み締める銀条に代わり、宇津井が申し訳無さそうに頭を下げる。園原の呆れて銀条を見る様子も見られた。

「いや。それよりも、勝負の内容とかは決まっていたのかい?」

そこまでやる気は無かったが、此処まで来たら流す事はせずに一応聞いておく事にした。俯いていた銀条もその質問でまた瞳に力が入り、制服のポケットから一枚の紙を取り出す。

「勝負の内容は…これです!勝負名は【本物の王子様はどちらだ!?】対決です!」

一度ターンをして、人差し指を頭上に掲げ、決めポーズが見事に決まった。隣では、死んだ様な顔で宇津井が拍手をする。
なんと言うか、シュールだね。ええと、勝負の内容は…。
美景が然り気無く紙を千里の側に寄せると、高等部メンバーも紙を覗き込んだ。

・魅力対決
・忠誠心対決
・優しさ対決
・カリスマ性対決

やはり断ろうかと、決心が揺らぐ千里であった。


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