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シュユン・ア王国II
しおりを挟む「流石に汚い雌を抱く趣味は無いので、お前達にはこれから身なりを整えて貰う。それを終えたら、また今後の話をしに来る。何か聞きたい事があれば、そこの世話役に聞くが良い。」
獣人から簡潔な説明後、全員森の中にある湖へと向かう。身体を隠す大きなタオル等無く、皆汚れきった衣服を全て脱ぎ冷たい水に浸かる。
世話役と言っていた若い獣人に見張られ、満身創痍の女性達が逃げられる筈も無い。例え逃げても、何処に行けば良いのか。
冷た!…いけど、臭かったから洗えて良かったなー。…とりあえず、直ぐには殺されないよね?…うん。騎士達の夜の相手をする、か。どうなるんだろう。…分からない、何処かに売られるにしても、もしかしたら夫の誰かに運良く会えるかなって期待してた。そんな夢みたいな事、あり得ないし。というか、今が夢だったら良かったな。
思わず頬に伝う物を両手で掬った水で洗い流す。
この世界に来て11日目になった。いつもなら、変わらない仕事を終えて夢の中で甘い夜を過ごした居ただろう。
死にたくない…。夫以外に触れられたく無い。怖いよ…。
震える息を吐いて、湖から上がる他の女性に続く。肌触りの悪い布で身体を拭い、近くに置かれた貫頭衣の様な物に袖を通す。堪えきれずしゃくり上げる女性も居たが、見張りに騎士から特に反応は無かった。
着替え終わった後、今度は一つのテントの中に連れられる。世話役の騎士が中央に置かれた鍋に近づき、お玉でお椀に注ぎ入れる。煮込まれた肉や魚の匂いは、過酷な旅後の身体は素直に反応した。
「…おい、取りに来い。」
お椀を此方に向ける騎士に、戸惑う女性達の中でユウカは足を踏み出す。
「ありがとうございます。」
にっこりと笑みを浮かべ、驚いて動きを止める騎士から受け取る。空いているスペースに腰を落とし、同じく渡されたスプーンで口に運ぶ。
うん、久しぶりのあったかいご飯おいしー。
食べ進めるユウカの姿に、女性達も恐る恐る食事を受け取り始める。
色々と考えてみても良い案は浮かばない、なら考えない。泣いても落ち込んでも現状は変わらないので、とにかく生き残る事に集中しよう。自分の中で、仕事モードへと移行する事にした。外向けの自分、心を見せてやらない。
全員の食事が終わる頃、最初に会った騎士がテント内へと姿を現した。
「…よし、身支度は終わったようだな。さて、今後のお前達の役割を話す。私は、シュユン・ア王国陛下直属親衛隊の副隊長を任されている者だ。
兵達の状態を鑑みて、本来ならば今宵から『仕事』を始めさせる予定だった。…だが、お前達の肉付きの悪さを考慮し三日間休息を言い渡す事にした。その間、よく体を休めるように。」
そう簡潔に告げた内容は、あまりに残酷な物だった。過酷な行程で窶れた女性達へ気休めの休息。ほんの数日与えられた安らぎから、必ず訪れる日々を思えば何の意味があろうか。
肩を落とす女達と共に、視線を落とし唇を噛み締めると落ちる影に気付く。恐る恐る顔を上げ、此方を見下ろす副隊長だと名乗った獣人としっかりと目が合う。
何なの一体…?
口からこぼれ落ちそうな言葉を呑み込み、相手の動向を伺う。大した時間も経たず開かれた口は、思いの外静かな声音であった。
「お前は私に着いて来い。」
拒否権などある筈も無く、黙って頷き着いて行く。獣人が向かうのは、目に入る中で最も大きく映るテント。中に入ると仕切りで、三カ所にスペースが分けられていた。
何となく、簡易的なテーブルが置かれた仕事用と寝室用は理解出来た。もう一カ所の豪奢な椅子が置かれた場所の意味は分からなかったが。
テーブルの置かれたスペースに入り、椅子に腰掛けた副隊長は所在無さげに待機する此方をじっと見つめる。
「…お前の名前は?」
え?…名前?っとと、駄目駄目、とにかく従わないと。
「…ッ~カです。」
緊張から来る喉の渇きで喉がガサつく。言い直そうとするが、直ぐに相手が相槌を打った事で口を閉ざすしか無かった。
「なるほど、ウーカ。……ふむ、ならば人違いだったな。」
人違い…?
1人ごちる獣人の様子に対し、浮かぶ疑問を投げ掛ける術は無い。困惑するユウカに、獣人は何か思案している様な表情のままだ。
「…しかし、確証が無いまま結論も出せないか。…では、こうしよう。お前は10日間、私の側で雑用をさせる。」
???
「…えっと?つまり、貴方の相手をするのでしょうか。」
浮かぶ疑問を口にするが、副隊長は被りを振る。
「違う。確認せねばならぬ事が有り、お前に手を付けるのは憚られる。10日後の御前訓練までは、夜の相手は免除しよう。」
「…はあ。」
意味の分からない言葉を並べ立てられるが、口を挟める立場では無いと頷くのみに止める。
ごぜん訓練って何だろう?
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続きが読んでみたいのでよろしくお願いします
すごいこの小説読んで面白かったです
出来れば続きをお恵みください!
とても読みやすくて、面白かったです!
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