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シュユン・ア王国

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固いパンと水を配られて全員が食べ終えたのを見計らい、止まっていた荷台の錠が開いた。道中に逃げようとしていた者も居たが、弱った足腰は直ぐに捕まり酷い折檻を受ける事になる為、逃げ出す気力は今や1人も無かった。

「…おい、どれにする?」
「獣人は小さいのを喜ぶぞ。」
「今回は8人で良いな。」

荷台の中を厭らしく睨め付ける男達は、狙いを定めると次々に荷台から女性を外に出して行く。ふらつく足元を気にかける事も無く、粗い縄で腕を括られた女性達は疲労で立っている事すら苦労していた。
1人、2人と減っていく荷台の中を不安に襲われ、ライラに言われていた言葉が脳裏に過ぎる。身体の弱っている者から連れ出されるのなら…俯きがちの顔を上げて、背筋を伸ばす。

「…あと1人か。」

男が一人ごちる。目に映るのは、幼い姉妹の小さな方だった。腕を掴まれ悲鳴を上げる妹の服を掴む自らも幼い姉。
自分でも馬鹿だったと思うが、思わず身体が動いてしまっていた。隣から聞こえるライラの制止も聞こえていた筈なのに。

「…ゲホゲホ!あ、胸が…苦しい…!」

咳き込む真似をして、大袈裟に蹲る。
それに気付いた男は途端に掴んでいた少女の腕を離して、此方に近付いて来た。

「やっぱりこっちの女だな。ッチ、他の奴は病気感染ってねえだろうな。」

乱暴に両腕を腹の前で纏められ、無理に身体を起こされよろめき掛ける。男にとって、女性達はあくまで商品としての価値しか無い。高く売れるならともかく、長く扱う用途でない獣人に売るのだから状態に頓着しないのだろう。

顔を上げた先でライラと目が合う。「アンタ何でそんな事したんだい!」と言いたげに顔を歪めていた。
自分でも分からないよ。私だって死にたく無いし。…でも、あの子達が離れてしまうのは、何だか嫌だったんだ。

降ろされたの8人は心身が衰弱している。皆さぞ自らの今後の運命を呪っている事だろう。
手を振る事すら出来ず、此方を見つめるライラに一度頭を下げて列に加わった。ほんの僅かの間だったが、彼女との会話で慰められた時間は多かったから。





「早くしろ…!」
「っきゃあ!」

乱暴に縄を引かれる女性の悲鳴が響いた。
着いた場所は見知らぬ森の中…。獣人の住む場所は、大国では無かったのか?もしや、想像とはかけ離れた野生的な場所だったとか…。
一縷の希望だった獣人王との邂逅だったが、夢の中では豪奢な王宮だった為早々に諦める事にする。

「良いか、よく聞け女共。運良く騎士団の駐屯地との交渉が出来る!良かったなあ、お貴族様の玩具になるより長生き出来そうだぜ?だから、しっかり愛想振りまいて買って頂くんだぞ。」

奴隷商からの明るい声音に、女性達の表情は変わらない。先程泣き崩れた女性が鞭打たれ、悲しみすら表に出せないのだ。
獣人に人間を売る場合、男の言う様に愛玩用やペットとしての扱いが主らしい。だが、決して人間の想像する扱いでは無く、あくまで暇つぶしの玩具。生きながら引き裂かれ、喰われる事すらあるらしい。

今向かっているのは王宮に勤める騎士団の駐屯地。男所帯で女日照りが続き、手頃に抱ける女を求めている…と奴隷商は笑う。

縄に繋がれ、俯く女性の列がのろのろと進んで行く。やがて、眼前に広がる張られた数多くのテントに気付いた。訓練なのだろうか、打ち合う剣戟の音や野太い怒声がそこかしこから耳に入る。

「ああ、商人よ此方だ!」

一人の騎士服を身に付けた獣人が手を小招く。近付いて行くと、その人物の精悍な面立ちに目を惹かれる。耳や尻尾の様子から、獣人王のクロードとは違う種族だと察した。犬?狼?灰色の獣耳と尻尾はよく似合っている。

獣人に怯える女性達とは違い、静かに見つめるユウカが不思議だったのか…知らず獣人と目が合い、慌てて視線を逸らした。

「ふむ、全部で8人か?…性病持ちも居ないと言っていたな。なら良い、全部買い取ろう。」
「…へへえ!ありがとうございます!」
「金は奥で用意させた、彼方から受け取るが良い。雌達は預かる…お前達、此方に来なさい。」

奴隷商との会話を終えた獣人は、ユウカ達へ声を掛け何処かへと案内を始めた。
奥へと進むごとに、各所から向けられる視線に嫌でも気付かされる。女日照りだと言っていたが、その通りなのだろう。




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