美少女アンドロイドが空から落ちてきたので家族になりました。

きのせ

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静寂

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 長かった俺と翔太の戦いは、ようやく終わりをつげた。茜とアスカを巻き込んだこの出来事は、俺が翔太を殺す事で決着がついた。だが、この出来事の裏で暗躍するアル・デュークの存在を俺は、認識していた。アスカの存在に気づいたアル・デュークは、翔太を利用して彼女を倒そうとしたのだろう。人間を殺せないと言うセムリア製アンドロイドの唯一の弱点をねらって。しかし、アル・デュークの誤算は、俺と言う存在を計算にいれてなかった事ではないだろうか。俺は、アスカと契約し……アスカは、俺の命令より人間を殺せないと言うルールを捻じ曲げる事ができた。そして、セムリアの尖兵となった俺は、セムリアの技術と力によって、サイボーグ化した翔太に打ち勝つことが出来たのだ。少し気になるのは、翔太が俺に残した最後の言葉だ。翔太は、「もう何もかも手遅れだ」と俺に言った。いったい何が手遅れだと言うのだろうか。

「燐……まったく……無茶をする」

アスカが動かなくなった翔太の亡骸を前にしてそう俺に言った。

「無茶をしていたのは、アスカ……お前の方だろ?」

俺は、アスカの横に進み出て再び彼女の頬に触れてみた。

「まだ……熱いな」

俺がそう言うとアスカは、驚いた様子で両目を大きく開く。

「……きっ気づいていたのか?」

「ああ、あの出血は……何かあると思っていた」

「意外と鋭いのだな……燐」

アスカは、俺から目を伏せるよように顔を逸らした。そして、ガクリと崩れるようにアスカの身体は、支えを無くして倒れていく。そんなアスカを俺は、しっかりと抱き止めた。

「すまない……限界がきたようだ……立っていられない」

「いや、そんな事はいい。それよりもお前の身体の事だ。どうすればいい? どうやれば直る?」

「燐……私は、何処も壊れていない。ただ、放熱処理がうまくいかなくて、体内に熱がこもって……その熱によって機能が低下しているだけだ」

「だが、このままじゃ拙いだろ?」

「心配するな……熱があるなら冷やせばいい……幸いここは、港だろう?」

アスカの言う事は、解る。熱により機能障害が出たのなら、冷やせばいい。幸いここは、港だ……冷たい水……海水ならいっぱいある。

「なんなら、海に放り投げてくれ……それで機能回復するはずだ」

「馬鹿……」

「ばっ馬鹿とはなんだ? それが一番効率的なだけだ」

「そんな事、出来るわけないだろう。もっと良い方法がある」

幸いここは港だ。資材運搬用よう港であるがその角に小さいが漁港も存在している。漁港に行けば、魚を冷却するする為の氷や冷蔵庫があるはずだ。そこへ行けばアスカの発熱した身体を効率的に冷やす事ができるだろう。まして、海に放り投げるなんて無茶をしなくて済む。俺は、ふらふらとまともに歩けないアスカの身体を唯一自由の利く左腕で脇の下から持ち上げた。

「何処へ行くのだ?」

「いいから、黙ってろ」

俺は、ぐったりとしたアスカの身体を支える形で漁港へ向かう事にした。

「燐……少しいいか?」

「どうした?」

アスカは、今までに無いしおらしい声としぐさで俺の方へ顔を向けた。アスカの身体を支えている為に向き合った顔は、ほんの数センチしかない。

「一つだけ忠告だ……燐」

「……」

「あの力……あの者を倒したあの力は……あまり使うな」

「どうして……あの力は、アスカが……いや、セムリアが俺に与えた力なのだろ?」

「だからこそだ。セムリアが求める尖兵とは、主の命令に忠実な下僕だ。アンドロイドである私には、感情を与えられているが……尖兵になった人間には、必要ないと思っている」

「そうか、やはりな」

「だから、あの力は、あまり使うな。あれは、お前の心を蝕むものだ」

「使いつづければどうなると言うんだ?」

「感情をなくしていく。……最後には、完全なセムリアの操り人形になってしまう」

アスカは、少し悲しそうな表情を俺に向けた。後悔しているのだろうか。俺を自分のマスターにしてしまった事を悔やんでいるのかもしれない。

「いまさらだな。そんな事は……もう……あの時、アスカと契約した時に覚悟は、済んでいる」

「燐……」

アスカは、もうそれ以上話かける事は、しなかった。ただ、黙って俺に支えられながらユックリと漁港へ向かうのだった。



 翔太との戦いで俺もアスカもボロボロだ。よく生きていたと……不思議な気分だ。だがこの翔太との戦いは、俺にとって人生の転機であったと共に激しく吹き上げる戦いの始まりだった。翔太の呪いの言葉さえも俺を苦しみへ誘う……序曲だったのだ。ふいにポケットに入れていた携帯の呼び出し音が鳴り響いた。

りりりりりり。

それは、着信ではなく一通の電子メールだった。差出人は、井原要。そのメールには、たった一言……「ごめんね」とだけ書かれていた。

「ごめんね」と、たった一言だけの電子メールだった。

その一言で俺は、今回起きた出来事の全容を……想像する事ができた。
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