王子様に拾われたら、貴族に目をつけられました。

きのせ

文字の大きさ
上 下
7 / 12

第7話:治水工事

しおりを挟む
 エリスがツァツォを治水工事から外してから、数ヶ月経った。エリスは、自慢げに工事の進み具合をトラサムントに説明を行って居た。
「治水工事は、順調のようだね」
「でしょ? ここまで来るの苦労したんだから」
少し誇らしげに言うエリスの姿を見て、トラサムントは、安堵の溜息を吐く。貴族達の妨害工作も在ったはずなのに工事進み具合が順調で、トラサムントは、少し安心したのである。正直に言うとトラサムントは、貴族の妨害工作で追い詰められたエリスが直ぐにでも自分に泣きついて来ると思って居た。

 トラサムントは、ふと治水工事の作業をしている人達を見て、何か違う違和感を感じた。
「エリス、工事をしている人達は、ヴァンダル人では、ないのか?」
「あれ? 気がついちゃった? そうだよ。国境付近で集落を作っているゴート族だったかな」
 「……」
エリスから返って来た回答にトラサムントは、これは、拙いんじゃないかとそう思った。国から受け取った事業をその国の国民であるヴァンダル人に回さず、難民であり、不法に国境付近を占拠しているゴート族に仕事を回した事が貴族達や国民に知られたら、大きな問題になる。
「それとね。これを、見てよ」
エリスがそう言って、トラサムントの目の前に取り出したのは、治水工事を行う為の工具の類だった。だが良く見るとそれは、ただの工具などではなく、貴重な鉄を使った鉄製の工具だったのである。
「これは、……」
トラサムントは、驚きを隠せなかった。鉄は、この時代に置いて、とても貴重な物である。たいていの国では、優先して、戦争の為の武器と防具に鉄を使う。決して、治水工事の為の工具に鉄を使う事なんてしない。
「えへへ、良いでしょ? 木の工具じゃ、捗らなかった工事も。鉄製の工具なら、一気に進んだわ」
「いったい、どうしたんだい?」
「ほら、近くに精鉄場が在るでしょ。頼み込んで、作ってもらったのよ。鉄を武器だけに使うなんて勿体無いわ。もっと、生活に活用すべきよ。ねえ、トラサムントもそう思うでしょ?」
エリスは、無邪気にそう答えた。トラサムントは、ただエリスの楽しそうな笑顔が眩しくて、思わず頷いて居た。

 エリスが少し様子を見てくると言って、トラサムントの元から何処かへ走り去ってしまった。トラサムントは、それを見送るように十分離れた事を確認すると口を開いた。
「アリウス!!」
後ろに控えていた従者の名をトラサムントは、叫んだ。
「ハイ、殿下。ここに」
アリウスがトラサムントの前に進み出て、頭を垂れる。
「アリウス、解かっていると思うが……。私の息の掛かった兵士を集めろ。そして、この治水工事現場に作業員以外誰も近づけるな。この地を国民や貴族達に見られるわけにはいかぬ」
「解かりました。そのように手配をいたします」
アリウスは、そう言って頭を上げる。トラサムントは、エリスの守る為に自分の私兵を動かす事にした。この世界の常識、この国の常識と暗黙のルール。エリスの閃きや行動は、予想の遥かかなたへ飛んで行ってしまう。例え、とるに足らない常識やルールと言えども、それを破れば周りから反感を買ってしまうのが世の中だ。トラサムントは、エリスの斜め上の行動を咎めたりしない。むしろそれで良いと思って居た。その上で周りがエリスを攻撃するのであれば、自分が守り通してみせるとそう心の奥底で決意していたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...