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第3話:貴族達の思惑

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 研究施設の一室でエリスは、グンデリクと翻訳作業に没頭していた。そして、集中力が切れたのかエリスは、ふと天井を見上げる。それに気づいたグンデリクが声を掛けた。
「どうした? また、悩み事かね?」
グンデリクの問いにエリスは、鬱そうな表情を向ける。
「別にそう言うのじゃないんだけどね。今の自分の立場とか将来とか、不安になってきたと言うか、このままで良いのかなとか……」
そんなエリスの言葉にグンデリクは、少し驚いた顔をした。
「うむ。エリスもそんな事を考える歳になったか。成長したのう」
グンデリクは、ウンウンと頷きながら、両目に涙を滲ませた。
「ちょっと!! それじゃ、私が普段何も考えてないみたいじゃない!!」
「いやいや、そこまで言っておらんじゃろ」
エリスの抗議にグンデリクは、慌てて宥めるようにそういった。エリスは、少し不満そうにしてるとグンデリクは、何かを閃いた様子で話を始めた。
「少し気分転換になるじゃろう。興味深い話を聞いたのでな。それを話してやろう」
「それ、面白い話しなの?」
「そうじゃな。お前に関係ある話かもしれん」
グンデリクは、そう言って思い出すように両目を瞑った。
「ユーラシア大陸の東。そうじゃのう。宋国よりも更に東に小さな国があるそうじゃ」
「宋国の東って、海しかないって聞いたけど」
「そこは、噂だからのう。本当にあるかもしれぬし、無いのかもしれぬ」
「うーん」
エリスは、少し考え込んだが解からないと言った感じでグンデリクの言葉を待った。
「その小国の王は、アマテラスとか、卑弥呼とか呼ばれておってな。本人は、太陽神ラーの末裔だと言ってるらしいのう」
「へぇ~っ。自身を神格化して、国を治めてるのね」
「うむ。少々古臭い統治方法じゃが、効率がよいかもしれぬ」
「それで、その王がどうしたの?」
「まあ、噂話には、尾ひれが付くものじゃがな。その王は、数千年も生きている古代人なのじゃそうじゃ」
そのグンデリクの言葉にエリスは、驚きの声を上げた。
「ナイナイ。人間が数千年も生きれるわけないじゃん」
「まあ、噂だからのう。しかし、面白いのはここからじゃ。その王のとても強いらしい。その魔力は、天を裂き。その剣技は、一撃で大地を割るとある」
「それこそアリエナイじゃない」
「それは、そうじゃが。その王がかなりの博識である事を加えれば、誰かに似てるとは、思わんか?」
グンデリクにそう言われて、エリスは、驚いた様子で自分自身を指差した。
「うむ。これは、わしの仮説なんじゃがな。お前もその王も人として完璧すぎるんじゃよ。知識に優れ、その身体能力すら、他人を凌駕する。わしはな、もしかすると。その王もお前もシュメール人の末裔ではないかと考えておるのじゃ」
「えーっ、いきなりそんな事言われたって……わかんない」
エリスは、少し不満そうにして、机にうなだれた。それを見たグンデリクは、ヤレヤレとばかりに言葉を続ける。
「なあ、エリスよ。お前さんは、一人じゃない。似たような生い立ちの人物が居るかもしれぬ。世界は、広いからのう。それにお前には、わしや王子が居る。困った事があったら、頼ればいいのじゃよ」
「どうして、そんな事言うのよ?」
エリスは、グンデリクの言葉に不思議そうにそう聞いた。
「お前は、なまじ頭が良いからのう。なんでも一人で抱え込んで、一人で解決してしまう。世の中には、一人では、どうにも出来ない事の方が多いのじゃよ。もう少し、他人に頼る事を覚えてもいいじゃろう」
グンデリクがそう答えると、エリスは、口を尖らせて、しばらく何もない天井を眺めていた。






   
 城の中にある一室で、エリスは、不満そうにして佇んで居た。エリスが不満なのは、目の前居る人物の事が嫌いだからである。エリスの目の前に居る人物。名前をホアメルと言った。歳は、50才になる頭が薄くなり始めた初老の男だ。ホアメルは、フネリック国王の右腕とも呼べる人物で、主に内政に手腕を振るっている。そんな人物であるホアメルに部屋に呼び出されて、エリスは、不機嫌そうに口を開いた。
「用事があるなら、早くしてよね。これでも、忙しいんだから」
エリスのその無礼な言葉にホアメルは、キレそうになったが、深呼吸をして心を落ち着かせる。ホアメルは、元々トラサムント王子がエリスを城へ連れて来た時から、その事が気にくわなかった。そして、エリスの敬意を払わない態度に何時も憤慨していたのである。
「お前を呼び出したのは、ほかでもない。城の中でただ食べて寝るだけの生活では、刺激が足らないだろうと思ってな。仕事を与えてやろう」
ホアメルは、皮肉を込めてそう言うとエリスは、露骨に嫌そうな顔をした。
「えーっ、いやよ。仕事なんて、どうせろくなもんじゃないんでしょ?」
「話だけでも聞きなさい。グラト山の麓に治水工事の計画が持ち上がってる。そこで、お前に工事の指揮を頼みたいのだ」
「あーっ、無理無理。出来ないって。やったことないし」
エリスは、めんどくさそうに左目を瞑って、右手をヒラヒラさせた。ホアメルは、エリスの態度にピクリと眉を引き攣らせたが、直ぐに作り笑顔を向けて言葉を続ける。
「これは、お前にとっても、チャンスだと思わないのか? 城の中で肩身の狭い思いをするのも嫌ではないか?」
「無理だって言ってんだろ!! この禿!!」
エリスが怒鳴りつける様に言うとホアメルは、顔を真っ赤にして憤慨した。
「……はっ、禿だと」
ホアメルは、エリスの暴言に堪忍袋の緒が切れてしまい、永遠と小一時間も説教を始めるのだった。怒り心頭のホアメルを落ち着かせる為にエリスは、渋々仕事の依頼を引き受ける事になってしまった。


 部屋から、エリスが出て行き、一人になったホアメルは、深いため息を吐いた。これでやっと、ホアメル自身の望みが叶うのだと、そう言う意味あいの安堵のため息である。ホアメルは、エリスの存在が気にいらなかった。王子トラサムント様が何処からともなく連れて来た素性の知れぬ少女を城の中で住まわす事に最初から反対の立場をとって居た。これまで、王子トラサムントの影響力もあり、エリスを城から追い出す事に躊躇いがあったが、最近になって、大貴族であるベルサリウス家の後ろ盾もあり、多少無茶な事をしてもエリスを追い出す事にしたのである。そう、かねてから目障りだったエリスを城から追い出せると思うと、ホアメルは、嬉しくて仕方がなかった。
「ふっ……フフフっ。ハハハハハ!!」
つい思わず口に出して笑ってしまった事にホアメル自身も驚いていた。




「うっ、わーっ。笑ってるよ」
ホアメルの部屋を出て直ぐにエリスは、閉じられた扉に聞き耳をたてて居た。そうしたら、聞こえてきたホアメルの笑い声にエリスは、げんなりとした表情を浮かべて、うな垂れた。
「どうしようかな。仕事……まじめにやるかな」
エリスは、扉の前で様子を伺っていたが、これ以上情報が収穫できないと判断して、自室の戻る為にダルそうに歩きだした。
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