薄桜記1

綾乃 蕾夢

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彩【いろ】

鞘の役目

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 吹き上がるような瘴気が身体に叩き付けてくる。

 息が出来ないっ。

 開く両の手のひらの間から散る赤い稲妻に、握る柄が刀身を引きずり出した。

 引き抜いた〈紅桜〉が吹き付ける瘴気を切り裂く。

「くはっ」
 肺に、まともな空気を送り込む。

「新しいさやを手に入れたのか。
 今一度、お前と相見あいまみえるとは嬉しいぞ」
 蒼白の整った顔から、血のような紅い口が笑みを浮かべた。

 私など存在しないかのように語りかけてくる。
 いや、〈紅桜〉こそ主体であり、彼女を振るう私はただの鞘であり手足のようなものなのだろう。
 地面に転がる小石と何ら変わらない。

「貴様に受けた傷は中々に痛手であった。
 刀隠れと言ったかな。あの巫女の身体に寄生し徐々に侵食し、自らの力を最大限に引き出す器に作り変えたいのであろう?
 何年かけ、どれだけの巫女を使い捨てた?
 その様子では、未だ完成には至らないようだなぁ。
 うん?
 今は、その巫女か」

 何、を……。
 魄皇鬼が進んだ分、後ずさる。

宿主やどぬしは気付いていなかったのだな。力を与えるふりをして、恐ろしい」
 また一歩。

「五十年前、あの巫女の血をすすって気が付いたよ。
 あの血は人のそれではない。
 後は回復を待ち、大岩から手持ちの駒を使って調べさせた」

 魄皇鬼の視線が私を捉えた。
「可哀想な事だ、内側から知らず知らずのうちにむしばまれていくのだよ。
 人は人、器に収まりきらぬ力は溢れて器を壊すのみ。
 気付け、戦いに身を投じ刀にその身を乗っ取られて、物として生きるのか?
 人として、子をなし穏やかに生きるのか。
 巫女よ、お前はまだ間に合う。
 〈紅桜〉を手放し、人に戻れ」
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