17 / 30
彩【いろ】
暗雲
しおりを挟む
空を覆う黒い雲は徐々にその厚さを増し、おミヨを背負って歩く私を雨の雫が濡らし始めた。
雨に当たらないように、境内の軒下に入っていた村の人が、私に気付き走り出てくる。
「妖魔は、どうなった?」
「おミヨは……」
気付いた男手が、おミヨの亡骸を受け取ってくれる。
「すみません。
私が見つけた時にはすでに……。
あの妖魔の心配はもうありません」
不安げな人々の顔の中におサナばぁちゃんの顔を見つけて、溢れ出そうになる涙をぐっとこらえた。
「村長と話がしたいのですが、まだここにいますか?」
奥の部屋に村長を通し、大まかな経緯を話し終えた。
黒い翼の妖魔の事、大岩の事、そしておミヨの事。
耐えるように瞳を閉じていた村長が、静かに顔を上げ口を開く。
「わかりました。
お一人で妖魔を打ち倒すとは、よくぞ成し遂げて下さいました。
ミヨの事は残念でしたが、当家に連れ帰り、手厚く葬りましょう」
「お願いします」
「時に、大岩の中はもぬけの殻だったと。
元々鬼はいなかったのでは?」
そうであって欲しい。
村長の言葉の一つ一つに、ひしひしと感情が伝わる。
「残念ですが。
確かにあそこには何かがいました」
しっかりと瞳を見据えて言葉を紡ぐ。
「だがもういないっ。
自由の身になり、もっと大きな村に人を求めに行ったのだ」
そうだとも、違うとも言えない。
けれど、黒い翼の妖魔が刀隠れのことを知ってたのが気にかかる。
「緑陰さまが戻られたら、すぐに私の元へと来るように伝えてくだされ。
何時になっていてもだっ」
村長はそれだけ言うと立ち上がり、足早に去っていった。
精神の疲労に肉体の疲労、霊力の放出。
立ち上がれずに瞳を閉じる。
何がどうなっているのか、何が起きているのか。
まぶたの裏に浮かぶ兄様の顔に心細さが募っていく。
「薄紅ちゃん」
ふすまの隙間から、おサナばぁちゃんが顔を覗かせた。
「お湯を沸かしておいたからね。
湯浴みをしておいで」
そうだ、ずぶ濡れだった。
寒さは全く感じない。
いつのまにか、肩の痛みも脇腹の痛みもない。
もう、よくわからない。
「なんて顔をしているんだい。
大丈夫だよ。緑陰さまがじきに戻られるからね」
そっと、身体が包み込まれる。
温かい……。
「ばぁちゃん」
もう、堪えられなかった。
声を上げて泣く私をおサナばぁちゃんはずっと抱きしめていてくれていた。
雨に当たらないように、境内の軒下に入っていた村の人が、私に気付き走り出てくる。
「妖魔は、どうなった?」
「おミヨは……」
気付いた男手が、おミヨの亡骸を受け取ってくれる。
「すみません。
私が見つけた時にはすでに……。
あの妖魔の心配はもうありません」
不安げな人々の顔の中におサナばぁちゃんの顔を見つけて、溢れ出そうになる涙をぐっとこらえた。
「村長と話がしたいのですが、まだここにいますか?」
奥の部屋に村長を通し、大まかな経緯を話し終えた。
黒い翼の妖魔の事、大岩の事、そしておミヨの事。
耐えるように瞳を閉じていた村長が、静かに顔を上げ口を開く。
「わかりました。
お一人で妖魔を打ち倒すとは、よくぞ成し遂げて下さいました。
ミヨの事は残念でしたが、当家に連れ帰り、手厚く葬りましょう」
「お願いします」
「時に、大岩の中はもぬけの殻だったと。
元々鬼はいなかったのでは?」
そうであって欲しい。
村長の言葉の一つ一つに、ひしひしと感情が伝わる。
「残念ですが。
確かにあそこには何かがいました」
しっかりと瞳を見据えて言葉を紡ぐ。
「だがもういないっ。
自由の身になり、もっと大きな村に人を求めに行ったのだ」
そうだとも、違うとも言えない。
けれど、黒い翼の妖魔が刀隠れのことを知ってたのが気にかかる。
「緑陰さまが戻られたら、すぐに私の元へと来るように伝えてくだされ。
何時になっていてもだっ」
村長はそれだけ言うと立ち上がり、足早に去っていった。
精神の疲労に肉体の疲労、霊力の放出。
立ち上がれずに瞳を閉じる。
何がどうなっているのか、何が起きているのか。
まぶたの裏に浮かぶ兄様の顔に心細さが募っていく。
「薄紅ちゃん」
ふすまの隙間から、おサナばぁちゃんが顔を覗かせた。
「お湯を沸かしておいたからね。
湯浴みをしておいで」
そうだ、ずぶ濡れだった。
寒さは全く感じない。
いつのまにか、肩の痛みも脇腹の痛みもない。
もう、よくわからない。
「なんて顔をしているんだい。
大丈夫だよ。緑陰さまがじきに戻られるからね」
そっと、身体が包み込まれる。
温かい……。
「ばぁちゃん」
もう、堪えられなかった。
声を上げて泣く私をおサナばぁちゃんはずっと抱きしめていてくれていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる