薄桜記1

綾乃 蕾夢

文字の大きさ
上 下
7 / 30
彩【いろ】

魄皇鬼 2

しおりを挟む
 茅葺かやぶきの屋根の上で睨み合う。

 人などは取るに足らない。言わば虫ケラと変わりないモノ。
 だが、この人間は……。

 いや。刀だ。
 この刀は、確実に

 我を滅ぼすだけの力を秘めている。

 ゆっくりと、腰の刀を引き抜く。
 大きな刃の三日月刀が、炎を照り返した。

 パチッ。

 小さく茅の爆ぜる音に、ほぼ同時に足元の茅を蹴る。

 鋼の音に、交わる刃が火花を散らす。
 朱色袴の巫女は、その細い腕からは想像も出来ないほどやすやすと三日月刀の一撃をうけた。
 ひるむ事なく打ち据えてくる、その一撃一撃が確実にこの魄皇鬼はくおうきの急所を狙っている。

 ザアァァァ……。

 羽ばたきに似た音と共に、魄皇鬼の足元から数十もの和紙の鳥が意思を持ち襲いかかっていった。

 その影で、音も衝撃も無く、きらめく〈紅桜〉に切断された三日月刀の刀身が弾き飛び、茅葺の屋根に突き刺さった。

 折られた。
 いや、斬られたのか。

「〈紅桜〉忘れはせぬ」

 毒々しく紅い唇が笑み、白い牙を覗かせる。
 巫女のいだ刀、〈紅桜〉は三日月刀と共に魄皇鬼の腹を裂いていた。

 口から溢れ出る、熱い塊が魄皇鬼の口元を紅く濡らす。
 振り返るその瞳が、膝をつく巫女を捉えた。

 すれ違いざまに薙いだ鬼の鋭い爪が、深く巫女の腹をえぐっていた。
 ハラワタまで届いたであろう、爪を濡らす巫女の血を、その舌がなめ取る。

 巫女の生き肝とあらば、こんな傷は直ぐに塞がる。

 霊力の満ちたその血に力がみなぎる。はずだった。

 腹の底から、吹き上がる様な波が打ち上がる。
 今一度魄皇鬼の口からは、血塊が溢れ出た。

 っ!
 なんだ。この血は。

 よろめく魄皇鬼を追うように、無数の矢がその背中を貫いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

神送りの夜

千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。 父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。 町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

処理中です...