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彩【いろ】
封印の大岩
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風が強くなったか。
朱色の袴の裾を風が通り、一つにまとめた長い髪をさらっていこうとする。
あぜ道を行きながら、畑仕事をする村の人たちに挨拶を交わし、土手の桜並木に開き始めた蕾が春を感じさせる。
林が近くなるにつれ、人の気配も田畑も無くなってきた。
「兄様……」
なんだろう。
空気が、おかしい。
林に足を踏み入れた瞬間、明らかな雰囲気の変化に体が反応する。
何というか、神経に触れるイヤな感じを、どんよりと薄く引き伸ばした様な……。
ともかく生き物のいて良い空気ではない。
「うん。瘴気だな」
白い袴の袂を探り、兄様の瞳も油断なく辺りを警戒し始める。
「参るぞ、薄紅」
兄様は、あの縁側からこれを感じていたのか?
握った左の手を、右の手の平で覆う様に握りしめる。
前を行く背中を追い、村の鬼門へと歩み出した。
「見えた」
獣道を行き、急に開けた大地のその先に見える大岩に目を向ける 。
高さにして五メートルはあろうか、いびつな楕円の大岩は、いつ見ても圧倒される何かがある。
一年前、初めて彼の地を訪れた際にも一度見上げた大岩。
剥がれ落ちそうになっていた封印の札も、その時に兄様が貼り替えている。
「うん。
やはりここからか」
疑惑が確信に変わったと言うか、林の入り口とは比べ物にならないくらいの瘴気の濃さに息がしづらい気さえしてくる。
「兄様これは一体……」
その問いには答える事なく、一度合わせた視線が同時に大岩の上を振り仰ぐ。
「法師に巫女か……。
ここで、我が糧となれ」
爬虫類を思わせる鱗に覆われた異形の者が、紅く裂けた口から長い舌を伸ばし、こちらを見下ろしていた。
朱色の袴の裾を風が通り、一つにまとめた長い髪をさらっていこうとする。
あぜ道を行きながら、畑仕事をする村の人たちに挨拶を交わし、土手の桜並木に開き始めた蕾が春を感じさせる。
林が近くなるにつれ、人の気配も田畑も無くなってきた。
「兄様……」
なんだろう。
空気が、おかしい。
林に足を踏み入れた瞬間、明らかな雰囲気の変化に体が反応する。
何というか、神経に触れるイヤな感じを、どんよりと薄く引き伸ばした様な……。
ともかく生き物のいて良い空気ではない。
「うん。瘴気だな」
白い袴の袂を探り、兄様の瞳も油断なく辺りを警戒し始める。
「参るぞ、薄紅」
兄様は、あの縁側からこれを感じていたのか?
握った左の手を、右の手の平で覆う様に握りしめる。
前を行く背中を追い、村の鬼門へと歩み出した。
「見えた」
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高さにして五メートルはあろうか、いびつな楕円の大岩は、いつ見ても圧倒される何かがある。
一年前、初めて彼の地を訪れた際にも一度見上げた大岩。
剥がれ落ちそうになっていた封印の札も、その時に兄様が貼り替えている。
「うん。
やはりここからか」
疑惑が確信に変わったと言うか、林の入り口とは比べ物にならないくらいの瘴気の濃さに息がしづらい気さえしてくる。
「兄様これは一体……」
その問いには答える事なく、一度合わせた視線が同時に大岩の上を振り仰ぐ。
「法師に巫女か……。
ここで、我が糧となれ」
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