1 / 30
彩【いろ】
鬼呼神社
しおりを挟む
薄く雲のかかる空に、朝焼けの輝きが彩りを添え始める。
ひんやりとした空気を吸い込むと、身体の芯がスっと引き締まるような感覚にゆっくりと瞳を開いた。
「薄紅、朝のお勤めに参るぞ」
あくびを噛み殺し、神主の正装に袖を通した兄様の後ろから、巫女服に袖を通した私は御神酒とお榊を持って続く。
「兄様、寝癖がひどすぎる。
昨夜は村長達と随分遅くまで酒を交わしていた様だけど」
後ろから見る姿は鶏のトサカの様に髪が逆立っている。
全く、もうちょっと外見に気をつけて欲しいものだ。
あんまり構わずにいると、嫁のきてが無くなるぞ。
「ここ半年以上は妖魔の類もなりを潜めているからな。
鬼呼神社のお陰だと勧められれば飲まぬ訳にはいかないよ」
手櫛で髪をといたくらいではどうにもなりそうにない寝癖具合だが、一応の格好はついただろうか。
朝のお勤めへと歩き出す背中を追いながら心を落ち着かせる。
ここ数年、飢饉や疫病が巷に溢れて人々の心にも闇が濃い。
京都より勅令を受けてこの地に鬼呼神社建立となった折、真っ先に兄緑陰の名が神主候補に上がった。
鬼を呼び込み、封印する。
そんな解釈だっただろうか、まだ若い兄が神社を任されるとは両親も私も誇らしく思ったのをよく覚えている。
弟もまだ幼く、京都の総本山を離れられない両親に代わり、修行も兼ね身の回りの世話係として私も彼の地に同行して一年が経っただろうか。
巫女としてお仕えし、兄とともに修行の日々。
鬼と言ってもこの辺りではせいぜい餓鬼の妖魔が出るくらいで、封印するに手こずることもないが。
「京都にはいつ参られる?」
朝食後のお茶を出し、柔らかな風を通す縁側から外を眺めていた兄様に声をかける。
田畑の先、鬱蒼と茂る林の奥。
「京都へは三日後に立つ」
背の低いあの山の入り口には昔、鬼を封じたと言われる大岩があったはず……。
「この後は時間を取れるな。
薄紅、一度大岩に参っておこう」
ひんやりとした空気を吸い込むと、身体の芯がスっと引き締まるような感覚にゆっくりと瞳を開いた。
「薄紅、朝のお勤めに参るぞ」
あくびを噛み殺し、神主の正装に袖を通した兄様の後ろから、巫女服に袖を通した私は御神酒とお榊を持って続く。
「兄様、寝癖がひどすぎる。
昨夜は村長達と随分遅くまで酒を交わしていた様だけど」
後ろから見る姿は鶏のトサカの様に髪が逆立っている。
全く、もうちょっと外見に気をつけて欲しいものだ。
あんまり構わずにいると、嫁のきてが無くなるぞ。
「ここ半年以上は妖魔の類もなりを潜めているからな。
鬼呼神社のお陰だと勧められれば飲まぬ訳にはいかないよ」
手櫛で髪をといたくらいではどうにもなりそうにない寝癖具合だが、一応の格好はついただろうか。
朝のお勤めへと歩き出す背中を追いながら心を落ち着かせる。
ここ数年、飢饉や疫病が巷に溢れて人々の心にも闇が濃い。
京都より勅令を受けてこの地に鬼呼神社建立となった折、真っ先に兄緑陰の名が神主候補に上がった。
鬼を呼び込み、封印する。
そんな解釈だっただろうか、まだ若い兄が神社を任されるとは両親も私も誇らしく思ったのをよく覚えている。
弟もまだ幼く、京都の総本山を離れられない両親に代わり、修行も兼ね身の回りの世話係として私も彼の地に同行して一年が経っただろうか。
巫女としてお仕えし、兄とともに修行の日々。
鬼と言ってもこの辺りではせいぜい餓鬼の妖魔が出るくらいで、封印するに手こずることもないが。
「京都にはいつ参られる?」
朝食後のお茶を出し、柔らかな風を通す縁側から外を眺めていた兄様に声をかける。
田畑の先、鬱蒼と茂る林の奥。
「京都へは三日後に立つ」
背の低いあの山の入り口には昔、鬼を封じたと言われる大岩があったはず……。
「この後は時間を取れるな。
薄紅、一度大岩に参っておこう」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる