薄桜記1

綾乃 蕾夢

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彩【いろ】

鬼呼神社

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 薄く雲のかかる空に、朝焼けの輝きが彩りを添え始める。
 ひんやりとした空気を吸い込むと、身体の芯がスっと引き締まるような感覚にゆっくりと瞳を開いた。

薄紅うすべに、朝のお勤めに参るぞ」
 あくびを噛み殺し、神主の正装に袖を通した兄様の後ろから、巫女服に袖を通した私は御神酒おみきとおさかきを持って続く。

「兄様、寝癖がひどすぎる。
 昨夜は村長むらおさ達と随分遅くまで酒を交わしていた様だけど」
 後ろから見る姿は鶏のトサカの様に髪が逆立っている。
 全く、もうちょっと外見に気をつけて欲しいものだ。
 あんまり構わずにいると、嫁のきてが無くなるぞ。

「ここ半年以上は妖魔の類もなりを潜めているからな。
 鬼呼おにこ神社のお陰だと勧められれば飲まぬ訳にはいかないよ」
 手櫛で髪をといたくらいではどうにもなりそうにない寝癖具合だが、一応の格好はついただろうか。
 朝のお勤めへと歩き出す背中を追いながら心を落ち着かせる。


 ここ数年、飢饉ききん疫病えきびょうが巷に溢れて人々の心にも闇が濃い。

 京都みやこより勅令ちょくれいを受けてこの地に鬼呼神社建立こんりゅうとなった折、真っ先に兄緑陰りょくいんの名が神主候補に上がった。

 鬼を呼び込み、封印する。
 そんな解釈だっただろうか、まだ若い兄が神社を任されるとは両親も私も誇らしく思ったのをよく覚えている。

 弟もまだ幼く、京都みやこの総本山を離れられない両親に代わり、修行も兼ね身の回りの世話係として私も彼の地に同行して一年が経っただろうか。
 巫女としてお仕えし、兄とともに修行の日々。

 鬼と言ってもこの辺りではせいぜい餓鬼の妖魔が出るくらいで、封印するに手こずることもないが。


「京都にはいつ参られる?」
 朝食後のお茶を出し、柔らかな風を通す縁側から外を眺めていた兄様に声をかける。
 田畑の先、鬱蒼うっそうと茂る林の奥。
「京都へは三日後に立つ」
 背の低いあの山の入り口には昔、鬼を封じたと言われる大岩があったはず……。

「この後は時間を取れるな。
 薄紅、一度大岩に参っておこう」
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