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潔白の証明

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 昼休み。
 深雪達のニヤニヤを背中に感じながら教室を後にする。
 分かってる。あたしが過剰反応するからいじられるんだって。

 特別教室の並ぶ階に上がると、生徒会室の前でリカコさんが丁度鍵を開けていた。
「リカコさんっ」
 小走りに近づくと、リカコさんが笑顔を見せてくれた。

「お疲れ様。カイリから聞いたよ。カエちゃん、襲撃されたんだって?」
 ドアを開け、先にあたしを通してくれる。

「ありがとう。ホント危うく大惨事だよ」
 なんとなく決まっている窓際の席にお弁当を置き、パイプ椅子に腰を下ろした。

「今回はイチとジュニアが気づいてくれたから良かったけど、ちょっとどうにかしないとなぁ」
 リカコさんもお弁当と鍵を置き、窓を開けにくる。

「イチと仲直り出来たんだ」
「えっ……」

 一瞬。昨夜の寮での出来事が頭をよぎり、リカコさんと合った目が固まった。
「……。ジュニアが仲直りするように仕向けたみたいだって。聞いたけど。
 今、違うこと考えてたでしょう?」
 あうー。ショッピングモールの事だ。

 明らかに目が泳いじゃったあたしの隣に、にっこり笑ったリカコさんが腰を下ろしてくる。
「カエちゃんはホント素直よねー」
 リカコさんが怖いよぉ。



 廊下から徐々に近づく話し声が生徒会室の扉を開ける。
「何してんの?」

 くすくすと楽しそうな様子のリカコさんと、その隣で長机の上に突っぷすあたし。
「女の子だけの秘密」
 リカコさんが唇に人差し指を立て、疑問を口にしたジュニアに答えると、名残惜しそうに正面の席に戻っていく。

「さてと。みんなそろったわね」
 リカコさんのいつものセリフもなんだか締まらない。
「ああっ。だめだわ」
 楽しさが堪え切れないリカコさんが急にみんなに背を向けた。

「カエちゃんが可愛い過ぎて……。
 ジュニアごめん。データ出しておいて」
 大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着けるようにパタパタと顔をあおぐ。

 もういいもん。なんとでもしてください。
 あたしもムスッと顔を上げる。
 カイリとイチが顔を見合わせて肩をすくめている横で、ジュニアがノートパソコンを取り出した。
「変なのぉ」

 ノートパソコンにUSBメモリーを差し込んでジュニアがマウスを操作する。
「6月4日。
 とりあえず榎本のパソコンに入ってたこの日の資料と、関係ありそうなもはピックアップして来たよ」
 ジュニアがあたしを見る。

「昨日巽さんのお使いで署に顔出したんだけど、たむたむと会ってね。榎本課長の6月4日の行動がちょっと気になったんだ」

 課長クラスが出るには不自然な小さな一件、たむたむと四六時中しろくじちゅう一緒に行動していた事、逮捕時の課長の一言。
 とりあえずあたしの見解を話していく。

「なるほどね」
 リカコさんはうなづいて、頭の中で情報を整理していくみたい。

「もしカエちゃんの考え通りだったとして、代わりに製薬会社に入ったのは誰だったのかしら?
 結局真影さんの潔白の証明にはならないわ」

 まぁね。

「真影さんがその日何をしていたか、どこにいたのか分からないかなぁ」
「6月4日。
 僕達は何してたかなぁ」
 あたしのつぶやきにジュニアが自分のスマホを取り出すと、パソコンとケーブルで繋ぐ。

「内偵の前日だろ? テナントビルに新しく入ったケーキ屋に行ってた」
「ノエルねっ。フルーツタルト美味しかった」
 イチとジュニアと3人で出かけてる。

「ん。私も放課後由美と行ったわ。飾り付けが可愛らしいのよね」
 リカコさんの一言にカイリがうなだれる。

「あれ。行ってないの俺だけ?」
「あはは。今度行こうね。カイリも一緒に」
 パシパシとカイリの背中を叩く。

「見ぃつけたっ」
 パソコンのキーボードを叩いていたジュニアが、クルリと画面をみんなに向けた。

「6月4日の真影さんの行動。
 スマホにアクセスして、ISOの中に残ってたデータを引っ張ってきた」
「ISO?」

 あたしの問いかけにジュニアがにこっと笑う。
「スマホはね、自分が今どこに居るのかって事を覚えているんだ。それがずっと蓄積されてる場所がISO。
 GPSの履歴みたいな感じかな」

 パソコンの画面をめくる。
「この日は朝4時に家を出て、〈おじいさま〉の家に寄ってからゴルフ場に向かってる。
 前日にゴルフ場までのナビが検索されてるし、そこを出たのは午後3時くらい。
 ついでに〈おじいさま〉のショットの動画が撮られてるけど、確認しとく?」

「第3者が真影さんのスマホと一緒に〈おじいさま〉とゴルフって可能性もあるわ。
 確実に真影さんだった証拠が欲しい所ね」
 リカコさんが髪を耳にかける。

「リカコは疑り深いよねー。あんまり友達のスマホの中はいじりたくないんだけどな」
「友達って……。
 でもよく真影さんのスマホに入り込めたね」
 榎本課長は、巽さんからたむたむを通って入り込んだんだろうけど、真影さんや〈おじいさま〉は孤立してるイメージ。

「僕、真影さんとLINE繋がってるもぉん」

『ええっっ!』
 ジュニアのカミングアウトに一同騒然っ!
「そう言えばジュニアって、本庁からの帰りは必ず真影さんに送ってもらってるわよね。
 じゃあ、動画は私とジュニアだけで確認しましょう。
 個人情報ダダ漏れてるけど、せめて。ね」


 廊下に出ていたあたし、カイリ、イチが、リカコさんに呼び戻される。
「動画の中に真影さんの声と、姿を確認したわ。
 真影さんはシロ」

 ほぉっ。
「よかった」
 イチとのケンカの原因にもなっちゃったけど、やっぱり疑い晴れてよかった。

「また1から解析ね」
 面倒な一言だけど、リカコさんの声も安堵の表情を見せてくれた。
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