紅桜~縁~【えにし】

綾乃 蕾夢

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 錆びた懐剣を抜き、番頭に応急処置をしてもらった葉桜は、はやる気持ちを抑え山道を急ぐ。

 方向からしても山崩れのあった場所と見て間違いないはず。
 何より、他に行くあてもないだろう。
 太陽もだいぶ真南を過ぎ、山間やまあいの村は徐々に夜に向かう準備をみせはじめる。

「葛の葉」
 どこにいるのか分からないその姿を探して、耳を澄ます葉桜は大きく辺りを見回した。

 耳に届く小さな咆哮ほうこう
「もっと上の方だわ」
 崩れた山の道無き道を、葉桜は進み始めた。




 飛びくる水のかたまりに、美しい白銀の毛並みは重く水分を含み、その動きを封じようとしているかに感じさせた。

 おそいかかる黒い影のいくつかは、葛の葉の鋭い爪と牙に切り裂かれたのか、その数は明らかに減っている。

 葉桜は、遠巻きにその姿をとらえはしたものの、踏み込むことには二の足を踏んでいた。

 今ここで、自分に何が出来るのか。

 辺りを見回す瞳に映るのは、地滑りの起きた斜面。

 なんでここなのかしら。

 地滑りはもっと上から流れて来ていて。

「あっ」
 大きく振り向いた葉桜が見るのは、あの御屋敷。
 と言うことはここは、流された殿舎でんしゃのあった場所。

 破魔札を握る手で印を結ぶ。
 瞳を閉じて集中すると、感じ慣れた葛の葉の霊力。
 その周りを囲む敵意、憎悪。

 他には……。

 ドス黒い残像が葉桜の左後方から漏れ出ている。

 これだ!
 土砂に足を取られながら走る葉桜は、その場所を辿たどると素手で地面を掘り進めた。

 その手が、ズボりと穴を突き止める。
「地下水。
 破邪、急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうっ。
 滅せよ」

 葉桜は念を込めた破魔札を投げ入れた。
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