警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢

文字の大きさ
上 下
120 / 121

だいたいこんな感じ

しおりを挟む
 お昼休みの終了を知らせるチャイムに教室に滑り込んだあたしは、肩で大きく息をしながら席の椅子を引き出した。

「ギリギリセーフだね」
 席に戻る深雪がポスっとあたしの肩を叩いていく。
「ヤバかったぁ。ぁぁあああ!
 ランチバッグ。生徒会室に忘れてきた」

 机の脇に掛けようとしたランチバッグを持ってなぁい。
 手ぶらの自分にびっくりだよ。

 むぅ。リカコさんにLINEしておこう。


 ♯♯♯

 放課後の中央階段を上るあたしの後ろには、深雪と夏美と愛梨の姿。
 わざわざ一緒に来ることないのに生徒会室が見たいとか言って、この行列。

「今日は外の部活で推しメン巡りする予定なんだけど、深雪も行く?」
「んー。どうしようかな」
 夏美のお誘いにうわの空の深雪は、やっぱりカイリとリカコさんのことが気になっているのかな。
 一つ上の学年のことだし、あたしたちの日常に食い込んでくることじゃないんだけど、カイリとリカコさんのことは公認っていうか暗黙の了解っていうか。
 とにかく「そういうこと」で落ち着いたらしい。

 まあ、リカコさんには言いたいことがいろいろあるみたいだけど、周囲が収束するまではあまりことを荒げない方向で行くことに決定したみたい。

 特別教室が並ぶこの階に踏み出そうとしたあたしの足は、耳に届いた優しい笑い声に歩みを止めた。

 聞き覚えのあるこの声は、リカコさん?

 なんとなく、こっそりと覗き込んだ廊下の奥には、松葉杖を立てかけて壁に背中を預けるカイリと生徒会室の鍵を開けるリカコさん。
 他愛ない話をしながらお互いにこぼれる笑みは、誰から見ても打ち解けて付き合いの長い間柄を感じさせちゃう。

「わ。なんかいい雰囲ふんい……
 あたしの後ろから顔を覗きこませて来た夏美の、ポロリとこぼれた一声にその場が凍った。

 ああぁ。深雪ちゃぁん。なんてタイミングの悪い……。
 フォローのフの字も出てこないよ。

「いいの。もういいの」
 今度はうわ言のようにつぶやき始めた深雪に、ちょっと大袈裟おおげさに声を張るカイリの一言が届いた。

「オーマイガー。リカコの今日はグッデイだったか?」

『……………………』

 どんな状況で出た?
 そのセリフ。

 慣れた感じでサラリと流したリカコさんの大人の対応で、あたし達には気が付かなかった2人は、会話を続けながら生徒会室に入って行った。
 けど。

 恐る恐る振り返ったあたしの目前には、カイリのいたセリフに完全に凍りついた深雪以下3名。
「あー。こんな……感じ?」
「うーん。だいたいこんな感じ」
 あたしの答えを聞いた深雪が、廊下の窓から見える青い空を遠く眺めた。

「夏美」
「あ。はい」
 急に呼ばれた夏美がビシッと直立。
「一緒に行くわ。推しメン巡り」

 うん。それがいいと思う。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

かの子でなくば Nobody's report

梅室しば
キャラ文芸
【温泉郷の優しき神は、冬至の夜、囲碁の対局を通して一年の祝福を与える。】 現役大学生作家を輩出した潟杜大学温泉同好会。同大学に通う旧家の令嬢・平梓葉がそれを知って「ある旅館の滞在記を書いてほしい」と依頼する。梓葉の招待で県北部の温泉郷・樺鉢温泉村を訪れた佐倉川利玖は、村の歴史を知る中で、自分達を招いた旅館側の真の意図に気づく。旅館の屋上に聳えるこの世ならざる大木の根元で行われる儀式に招かれられた利玖は「オカバ様」と呼ばれる老神と出会うが、樺鉢の地にもたらされる恵みを奪取しようと狙う者もまた儀式の場に侵入していた──。 ※本作はホームページ及び「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。 バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・ 「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」 武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...