警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢

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タピオカ

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 テーブル運ぶお料理の数々に、つい顔がにこにこしちゃう。
 せりかさんとリカコさん、あたしもちょこっとお手伝いをしてお帰りなさい会の準備も万端ばんたんじゃない?

「おおっ。豪勢ごうせいだね」
 各部屋に荷物を運びこんだり、お片付けをしてくれていたジュニアが客間に顔を覗かせた。
 バタバタしていた間宮家のお引っ越しもひと段落かな。

「こっちの準備はもう終わりそうだよ。みんなは戻ってこられそう?」
 リビングの食卓テーブルだけじゃみんなが座りきれないからって、客間に出した大きなテーブルには、それでも納まり切らないくらいのお皿が並んでいる。
「こっちもほとんど終了。カエの荷物、廊下に置いておいていい? 僕が部屋に入れておいてあげようか?」
 にぱーっと笑うジュニアが鳥のからあげに手を伸ばしてくる。

「つまみ食い禁止!
 荷物は自分で入れるから大丈夫だよ」
 ジュニアの魔の手からからあげさんを死守しつつ、きりっとにらみつける。

「ふーん」
 つまらなそうにあたしを見た視線が天井を通して2階を見上げた。
「イチー。カエの荷物部屋に入れていいって」

 え。

「おお? 入れておくの?」
「やああぁぁぁ! だめだめ、開けちゃダメェ!」
 2階から降ってきたイチの意外そうな声に、入り口のジュニアを弾き飛ばして廊下に飛び出した。

 部屋、キレイだったっけ?
 ああーん!
 絶対からあげもつまみ食いされたしー。


 ###

 みんなが席に着くのを待って、今日のお夕飯はにぎやかな空気と共に安定の美味しさ。
「さっきリカコがキッチンで叫んでた
『カエちゃん! それお塩っ』がすごく気になるんだけど」
 小皿にお箸を持ったままテーブルを見回すジュニアに、カイリのお箸が煮物の上でピタリと止まる。

 うん。
 お塩まみれだったらスゴい嫌なヤツだねー。

「大丈夫だもん。……間に合ったから」
「ってことは、言われなければ危なかったってことだ」
 つぶやくイチの肩を、ジュニアがポンッと叩いた。
「頑張れ」
「なんで俺が応援されなきゃなんねんだっ」

「大丈夫。味は全部折り紙付きよ」
 ドレッシングをリカコさんに渡しながら、せりかさんが笑ってくれる。
 この感じ、なんか久しぶり。
 心の奥からふわふわとした優しい温かさが溢れてくる。

「あ。そうだ、この前の渋谷の1件で〈おじいさま〉のところから出た金一封きんいっぷう。入金されたんだ。
 前からイチとジュニアと、みんなで出掛けたいねって話してたんだけど、行きたいところどこかある?」
 まだ湯気の出ている茹でたてブロッコリーを小皿に取りながらみんなを見回すと、その視線がカイリで止まる。

「しばらく無理かー」
 あたしの一言にリカコさんが微笑んだ。
「私も今週末は先約があるの。ごめんね」

「どこに行くの?」
「由美たちと映画。日曜日は葵ちゃんとデート」
 あたしの問いかけに答えるリカコさんの楽しそうな顔ってぇぇ。

『葵ちゃんっ?』
趣旨しゅし替え?」
 驚きのイチとあたしに、ジュニアのつぶやきが続く。
餓狼がろうが付けた跳弾ちょうだん跡のヤスリがけの1件で、お礼にご飯奢ってくれるって言うから」

「あれか。最終的に追い詰めることは出来なかったが、うちの鑑識も感謝してたぞ」
 巽さんも箸を休めてリカコさんに視線を送った。

「待て待て! 葵ちゃんってのは、確か本庁の鑑識の男だろ。社会人が女子高生となんて、不純だ!」
 慌てるカイリをジュニアがなだめる。
「なんか、古っ。大丈夫だよ、カイリパパ。
 葵ちゃんの本命はイチだから」

「なんか、そっちの方が変に不純な感じが。
 葵ちゃんとはどこに行くの?」

 イチの微妙な顔と、なだめになってなかった一言に、あたしはリカコさんに顔を向けた。

「原宿の予定」
「いいなタピオカー。いちご飴食べたぁい」
 えスイーツの宝庫に、あたしの心は一気にお出かけ気分だよ。
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