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自我と錯乱の一線
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狙っていたのはリカコさんだったってこと?
確かに駅で待ち伏せされてた報告はあったけど、あれはもうアギトの所在確認の為だと思い込んでた。
杉山に抑え込まれ、恐怖を顔に貼り付かせたリカコさんが、あたしたちをジュニア側から周り込んでキバに近づいていく。
どうしよう、キバに抑えられたら取り返せない。だからって、この状態で杉山に立ち向かってもリカコさんの身を危険にさらすだけ。
カイリは?
視界の隅に映るその姿は、足を押さえて地面に転がってはいるものの、意識のしっかりとした瞳がリカコさんの姿を追っている。
もおぉぉ。どうしよう、どうしたらいい?
イチもジュニアも、ただ見守るしかなくて。
「なんでそんなに辛そうな顔をしてるんだ」
静かに、ゆっくりと声がかかる。
「嫌でしょうがないって顔だ」
イチ。
イチの見つめる先。
杉山の顔は今にも泣き出しそうな小さな男の子のような顔。
張り詰めた緊張の糸が、どうにか自我と錯乱の一線を保っているように見える。
「必要とされていない人間が、捨てられた子供が、どんな生き方をしていくと思う。地べたを這いずり回ったことのないヤツには分かんねぇことが、世の中には沢山あるんだ」
荒い息の中で、言い訳みたいに呟く。
「俺たちだって……!」
「おい」
上から抑え込むようなキバの声に、ビクッと大きく震えた杉山が視線を向けた。
その隙間にジュニアが大きく1歩、足を踏み出す。
みんなの目を引く、あからさまな大きな1歩。
「ぅわぁっ」
忙しなく、杉山が届きもしないナイフをリカコさんの頬からジュニアに向けた。
ん。ジュニアの背中。
キバや杉山には見えないように背中に隠す指の数は4。親指が背中越しに杉山を指して、1、そして2、親指がキバに向く。
合図は?
「ナイフを戻せ!」
叱りつけるように叫ぶキバが走り始める。
その動きに反応したイチが地面を蹴った。
あたしが見たのはリカコさんが腰の後ろに手を回すところまで。大丈夫、後はジュニアが何とかしてくれる。
イチの後を追ってあたしもキバの正面に回り込んだ。
舌打ちをしたキバが、チラリと腕時計に視線を走らせる。
時間を気にしてる?
遠くから物々しいサイレンの音が耳をついた。
この音は……消防車。
「時間だ。残念だけど、ここまでだな。
また来るぜ」
あきらかに近づいてくる消防車のサイレン音に、ざわざわと不安そうな人の気配が漂い始めた。
「待ってくれ」
その声に視線を移すと、ジュニアに押さえ付けられて地面に倒れ伏す杉山。
「てめぇはもう用済みだ。たいして役にも立たなかったな。自分でもわかってんだろ?
使いもんにならねえゴミは、どこまで行ってもゴミなんだよ」
蔑む視線が杉山を切り離した。
救出して行く気はないみたい。じりじりと下がり始めるキバが、消防車のサイレンを聞いた野次馬たちの背中を見つけて身をひるがえした。
紛れ込まれたら探せない。
「ストップ! 深追い厳禁よ」
追跡しようとしたあたしとイチに、地面に座り込んだリカコさんから声がかかる。
「イチ、カイリの止血にまわって。カエちゃんは私に手を貸してくれる?
キバは消防車が来ることを知っていたわ。この状態で第3者に見られるわけにはいかない。とりあえずここから離脱するわよ」
増え続ける人の気配に、あたしとイチは顔を見合わせると指示に従って動き出した。
確かに駅で待ち伏せされてた報告はあったけど、あれはもうアギトの所在確認の為だと思い込んでた。
杉山に抑え込まれ、恐怖を顔に貼り付かせたリカコさんが、あたしたちをジュニア側から周り込んでキバに近づいていく。
どうしよう、キバに抑えられたら取り返せない。だからって、この状態で杉山に立ち向かってもリカコさんの身を危険にさらすだけ。
カイリは?
視界の隅に映るその姿は、足を押さえて地面に転がってはいるものの、意識のしっかりとした瞳がリカコさんの姿を追っている。
もおぉぉ。どうしよう、どうしたらいい?
イチもジュニアも、ただ見守るしかなくて。
「なんでそんなに辛そうな顔をしてるんだ」
静かに、ゆっくりと声がかかる。
「嫌でしょうがないって顔だ」
イチ。
イチの見つめる先。
杉山の顔は今にも泣き出しそうな小さな男の子のような顔。
張り詰めた緊張の糸が、どうにか自我と錯乱の一線を保っているように見える。
「必要とされていない人間が、捨てられた子供が、どんな生き方をしていくと思う。地べたを這いずり回ったことのないヤツには分かんねぇことが、世の中には沢山あるんだ」
荒い息の中で、言い訳みたいに呟く。
「俺たちだって……!」
「おい」
上から抑え込むようなキバの声に、ビクッと大きく震えた杉山が視線を向けた。
その隙間にジュニアが大きく1歩、足を踏み出す。
みんなの目を引く、あからさまな大きな1歩。
「ぅわぁっ」
忙しなく、杉山が届きもしないナイフをリカコさんの頬からジュニアに向けた。
ん。ジュニアの背中。
キバや杉山には見えないように背中に隠す指の数は4。親指が背中越しに杉山を指して、1、そして2、親指がキバに向く。
合図は?
「ナイフを戻せ!」
叱りつけるように叫ぶキバが走り始める。
その動きに反応したイチが地面を蹴った。
あたしが見たのはリカコさんが腰の後ろに手を回すところまで。大丈夫、後はジュニアが何とかしてくれる。
イチの後を追ってあたしもキバの正面に回り込んだ。
舌打ちをしたキバが、チラリと腕時計に視線を走らせる。
時間を気にしてる?
遠くから物々しいサイレンの音が耳をついた。
この音は……消防車。
「時間だ。残念だけど、ここまでだな。
また来るぜ」
あきらかに近づいてくる消防車のサイレン音に、ざわざわと不安そうな人の気配が漂い始めた。
「待ってくれ」
その声に視線を移すと、ジュニアに押さえ付けられて地面に倒れ伏す杉山。
「てめぇはもう用済みだ。たいして役にも立たなかったな。自分でもわかってんだろ?
使いもんにならねえゴミは、どこまで行ってもゴミなんだよ」
蔑む視線が杉山を切り離した。
救出して行く気はないみたい。じりじりと下がり始めるキバが、消防車のサイレンを聞いた野次馬たちの背中を見つけて身をひるがえした。
紛れ込まれたら探せない。
「ストップ! 深追い厳禁よ」
追跡しようとしたあたしとイチに、地面に座り込んだリカコさんから声がかかる。
「イチ、カイリの止血にまわって。カエちゃんは私に手を貸してくれる?
キバは消防車が来ることを知っていたわ。この状態で第3者に見られるわけにはいかない。とりあえずここから離脱するわよ」
増え続ける人の気配に、あたしとイチは顔を見合わせると指示に従って動き出した。
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