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 何だか言い分もあるみたいだけど、あたしもこっちにばっかり時間をかけてらんない。
 じりじりと距離を詰めて、杉山の目の前に迫る。

 こっちも早いとこ片を付けて、イチのフォローにも回りたいもん。

「く、来るな」
 素人捌しろうとさばきとは言え、殺傷能力の高い道具。
 あたしとしてもタイミングは見極めたい。

「勝手なこと言わないで」

 背後からのリカコさんの抑えた声に耳が反応する。
「ここのみんながどんな思いで死線をくぐって来ているか、知りもしないで!
 運とかお金とか、そんなもののせいだなんてっ。そんなの自分の環境に甘えているだけじゃないっ」

 リカコさん。

 振り返ることは出来ないけど、張り上げたリカコさんの言葉にはみんなのことを思ってくれる気持ちがいっぱいに詰まってるよ。

「うるせぇ」
 何かを吹っ切るように叫んだ杉山が走り出す。
 何だか、渋谷の1件のデジャブ。

 あたしだって怖い。
 何度出くわしても、武器を持っている相手に立ち向かうのは緊張感から神経をすり減らす。

 よく見て、大丈夫。

 いつだって自分に言い聞かせて、ふるい立たせて頑張るしかない。
 ここで抑えられれば、余計な怪我をする人が1人でも少なくなるもん。
 あたしの出来ること。それだけはせめて頑張る最低限のラインだもん!

 正面に走り込んで来た杉山に向かい半身をずらし、ナイフが空を切る。

 その手首を掴み、ヒジに手を当て、捻りあげるのと同時に足払いをかけた。

 流れる動作に杉山の身体が一瞬宙に浮き、地面に投げ出された上からあたしの全身を使って抑え込む。
 ひねり上げた腕から落ちたナイフをイチ達からも遠ざけるように、蹴り飛ばした。

「ちくしょう! 離せ、クソォ」
 関節を決めているとはいえ小柄なあたしとしては、身長の大きな杉山に暴れられるとそれなりに辛い。
「あんまり暴れると、関節が折れちゃうよ」
 声を押し殺しておどしてはみても、正直折れるのが先か力任ちからまかせに持ち上げられちゃうかは微妙なところ。

「カエちゃん、離れて」
 ゆっくりと歩み寄ってきたリカコさんが、き手を腰の後ろに回す。

(重い)
 敵意があるとは言え、取り押さえられ無抵抗の人間に向けるにはテイザーガンとは言え、ずっしりとリカコの腕にのしかかる。

「あ……。大丈夫、リカコさん。援護が来るまで抑え込めるから」
 一瞬だけ、安堵あんどのような不安のような表情がリカコさんを曇らせた。
 迷ってる。
 リカコさんも、今ここで自分に何が出来るのか迷ってるんだ。

 リカコさんの土俵はここじゃないもん。
 リカコさんのは戦うところは。

「それは、リカコが自分の身を守る時に使えばいいんだ」
 落ち着いた声が包み込むように降り、大きな手がリカコさんの腕を優しく抑えた。
 切れた息を整えて、カイリがいつものようにおだやかな顔をリカコさんに向ける。
 よかった、間に合った。

「カエ。交代だ」
 捻り上げていた杉山の腕をカイリが掴み、起き上がるあたしに代わり杉山を立ち上がらせた。
「お疲れさま。頑張ったな」
「むぅ、また子供扱い」
 小柄なあたしと違い、身体の大きなカイリに抑えられた事で、杉山の戦意も喪失したらしく、大人しく首を折る。

 その後ろで、ペタンと地面に座り込むリカコさんが目に入った。
「リカコさん」
 思わず駆け寄り、ギュッと抱きしめる。
「ありがとうリカコさん。守ってくれようとしたことも、杉山にガツンと言ってくれたことも。
 ありがとう」
 あたしの腕の中で、リカコさんが小さく首を振ったのを感じた。
 声にならないリカコさんの思い。
 腕の中で何となく、分かった。

 あたしも、もっともっと強くなりたい。
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