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攫って来いって言われてた
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首の後ろがピリピリする。
寮から住宅街を抜けて間宮家へと歩き始めて30分近く。
実は、これ見よがしな2往復目。
こんな時に尾行されてるってことは、絶対トラブル以外考えられないよね。
隣を並んで歩くリカコさんにチラッと合図を送って、あたし達は少し細めの路地に入っていく。
リカコさんの横顔が、緊張感と共に細く息を吐いた。
「大丈夫?」
こんなリカコさんの顔って、なかなか見る機会がないな。
「うん。やっぱり慣れないわね。この空気には」
小さくほほ笑んでくれるけど、いつもの余裕は感じられない。
やっぱりリカコさんまで囮にすることはなかったかも。
餓狼は帰国、アギトが退去強制になったことで、国内に残っているのはキバだけのはず。
杉山弟のことも気にかかるけど、イヤな奴ランキングをしたら比べ物にならないくらいキバは飛び抜けてる。
このまま放っておけば帰国してくれるかもしれないけど、このまま近所をうろうろされるのなんて本当にご遠慮願いたい。
なのでおびき出しちゃおうってことで決定。
そもそも取り逃がしたままで終われないしね。
午後のおやつを食べてから、以前も襲撃のあったこの場所をあたしとリカコさんはこうしてうろうろすることになったんだけど。
###
「俺達を誘っているんだと思ったんけど?」
行き先は人目につかない住宅街の隙間。
そんな一角で、振り返ったあたしとリカコさんに、キバはあの腹の立つ笑い顔を見せてきた。
隣に並ぶのは杉山。
こっちはキバと比べなくても、緊張の面持ちっていうか場慣れしていないのがよくわかる。
「そうだよ。聞きたいこともたくさんあるし、いつまでも周りをうろうろされたらたまんないよ」
リカコさんと少し距離をとって、あたしはキバと杉山に向かい合う。
午後の日差しは、これからここで起こることなんてまるで気にしないかのように、暖かくてやわらかい。
「俺としてもちょうどよかったよ。攫って来いって、言われてたんだ」
え?
「誰を?」
聞きなれた男の子の声は、あたしの左側から。
ゆっくりとイチが姿を見せてくれた。
「またお前かっ。俺が女の子と遊ぶのが、よっぽど許せないらしいな」
睨みつけるキバの視線が鋭さを増す。
杉山が顔を出すかどうかは微妙な所だったけど、もちろんリカコさんと2人きりでキバの相手をしようだなんで思うわけない。
こことは別にあと2箇所、カイリとジュニアも待機してくれていた場所がある。
つけられてるとわかった時点で、一番近くの待ち合わせ場所に入っただけのこと。
「すぐに援護が入る。ここで争うだけ無駄だ」
イチの手の中で、伸縮性の警棒が日の光を受けた。
長く使い込まれて、手に馴染む。
一振し空気を斬る音と共に、イチはキバに向かい走り出した。
寮から住宅街を抜けて間宮家へと歩き始めて30分近く。
実は、これ見よがしな2往復目。
こんな時に尾行されてるってことは、絶対トラブル以外考えられないよね。
隣を並んで歩くリカコさんにチラッと合図を送って、あたし達は少し細めの路地に入っていく。
リカコさんの横顔が、緊張感と共に細く息を吐いた。
「大丈夫?」
こんなリカコさんの顔って、なかなか見る機会がないな。
「うん。やっぱり慣れないわね。この空気には」
小さくほほ笑んでくれるけど、いつもの余裕は感じられない。
やっぱりリカコさんまで囮にすることはなかったかも。
餓狼は帰国、アギトが退去強制になったことで、国内に残っているのはキバだけのはず。
杉山弟のことも気にかかるけど、イヤな奴ランキングをしたら比べ物にならないくらいキバは飛び抜けてる。
このまま放っておけば帰国してくれるかもしれないけど、このまま近所をうろうろされるのなんて本当にご遠慮願いたい。
なのでおびき出しちゃおうってことで決定。
そもそも取り逃がしたままで終われないしね。
午後のおやつを食べてから、以前も襲撃のあったこの場所をあたしとリカコさんはこうしてうろうろすることになったんだけど。
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「俺達を誘っているんだと思ったんけど?」
行き先は人目につかない住宅街の隙間。
そんな一角で、振り返ったあたしとリカコさんに、キバはあの腹の立つ笑い顔を見せてきた。
隣に並ぶのは杉山。
こっちはキバと比べなくても、緊張の面持ちっていうか場慣れしていないのがよくわかる。
「そうだよ。聞きたいこともたくさんあるし、いつまでも周りをうろうろされたらたまんないよ」
リカコさんと少し距離をとって、あたしはキバと杉山に向かい合う。
午後の日差しは、これからここで起こることなんてまるで気にしないかのように、暖かくてやわらかい。
「俺としてもちょうどよかったよ。攫って来いって、言われてたんだ」
え?
「誰を?」
聞きなれた男の子の声は、あたしの左側から。
ゆっくりとイチが姿を見せてくれた。
「またお前かっ。俺が女の子と遊ぶのが、よっぽど許せないらしいな」
睨みつけるキバの視線が鋭さを増す。
杉山が顔を出すかどうかは微妙な所だったけど、もちろんリカコさんと2人きりでキバの相手をしようだなんで思うわけない。
こことは別にあと2箇所、カイリとジュニアも待機してくれていた場所がある。
つけられてるとわかった時点で、一番近くの待ち合わせ場所に入っただけのこと。
「すぐに援護が入る。ここで争うだけ無駄だ」
イチの手の中で、伸縮性の警棒が日の光を受けた。
長く使い込まれて、手に馴染む。
一振し空気を斬る音と共に、イチはキバに向かい走り出した。
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