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その貸し
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あたしたちの見つめる先で、画面の中の防犯カメラはキバの行動をつぶさに映しだしている。
「キバが暴れたって言ってたけど本庁の中で?」
杉山弟と通路を行くキバは、帰り際に留置施設の警備に声を掛けられたのを機に彼を回し蹴りの一撃に処すと、壁にぶち当たり動かなくなるのを見届けもせずに杉山と共に走り出した。
「わぉ」
走り出したキバに向かいスーツを着た数名の警察官が立ち塞がるけれど、ことごとく排除されていく。
「あっ。たむたむ」
画面の中に知った顔。
「ちょっと巻き戻して」
あたしの声に、ジュニアが画面を操作してくれた。
捜査1課から出てきた数名の中の1人。
中肉中背でこれといった特徴のない彼は、キバに投げ飛ばされると、後方にいた同僚を巻き込んで狭い廊下を転がって行った。
「ねえ、この件ってニュースとかになったの?」
リカコさんを振り返ると、小さく首を振られた。
「報道規制が敷かれたみたいよ。本庁の中で人が暴れた上に、取り逃がしたなんて。気位の高い〈おじいさま〉が許すわけないじゃない。
記者会見を開いても、杉山兄が反社会的勢力と繋がっていたことと、彼を確保したことに重点を置いて、謝罪と逮捕責任を果たしたことをアピールして、とりあえず幕引きじゃないかしらね」
リカコさんも考えながら一言一言を紡いでいく。
「ふーん。じゃ、たむたむに情報提供してもらおうかな」
「職務規定で事件に関することは話せないだろう」
スマホを手繰り寄せ、LINEを開くあたしにカイリが声をかけてきた。
「にひ。前回の件で貸し、あるもぉん」
にまぁっと笑うあたしに、パソコンデスクからジュニアがキュッと振り返る。
「その貸し、捜1の課長のパソコンの件でしょ。データ引き出したの僕だもん。僕から、カエに貸し」
「ええー。じゃあさ、ジュニアからたむたむに聞いてみない?
気になるよー。ほら。聞きたくなーる、聞きたくなーる」
「たむたむって誰なんだ?」
「3月まで森稜署の、巽さんの下についていた田村さんって人。
4月から本庁に異動したらしい」
あたしが指をクルクルしながらジュニアに魔法をかけている横で、カイリがイチに説明を求めてる。
「しょうがないなぁ」
クスリと小さく笑ったジュニアが、未だに廊下で爆進を続けるキバを写し続けるパソコン画面に視線を戻した。
「その貸し、カエが使っていいよ」
「やったっ」
「初めから貸しを取り上げる気なんてなかったくせに」
「カエの反応を見るのが僕の楽しみなーの」
リビングのローテーブルに戻ってLINEを開く、あたしの耳には届かない場所でイタズラを咎めるように、リカコさんがジュニアに何かを小さく呟いていた。
「キバが暴れたって言ってたけど本庁の中で?」
杉山弟と通路を行くキバは、帰り際に留置施設の警備に声を掛けられたのを機に彼を回し蹴りの一撃に処すと、壁にぶち当たり動かなくなるのを見届けもせずに杉山と共に走り出した。
「わぉ」
走り出したキバに向かいスーツを着た数名の警察官が立ち塞がるけれど、ことごとく排除されていく。
「あっ。たむたむ」
画面の中に知った顔。
「ちょっと巻き戻して」
あたしの声に、ジュニアが画面を操作してくれた。
捜査1課から出てきた数名の中の1人。
中肉中背でこれといった特徴のない彼は、キバに投げ飛ばされると、後方にいた同僚を巻き込んで狭い廊下を転がって行った。
「ねえ、この件ってニュースとかになったの?」
リカコさんを振り返ると、小さく首を振られた。
「報道規制が敷かれたみたいよ。本庁の中で人が暴れた上に、取り逃がしたなんて。気位の高い〈おじいさま〉が許すわけないじゃない。
記者会見を開いても、杉山兄が反社会的勢力と繋がっていたことと、彼を確保したことに重点を置いて、謝罪と逮捕責任を果たしたことをアピールして、とりあえず幕引きじゃないかしらね」
リカコさんも考えながら一言一言を紡いでいく。
「ふーん。じゃ、たむたむに情報提供してもらおうかな」
「職務規定で事件に関することは話せないだろう」
スマホを手繰り寄せ、LINEを開くあたしにカイリが声をかけてきた。
「にひ。前回の件で貸し、あるもぉん」
にまぁっと笑うあたしに、パソコンデスクからジュニアがキュッと振り返る。
「その貸し、捜1の課長のパソコンの件でしょ。データ引き出したの僕だもん。僕から、カエに貸し」
「ええー。じゃあさ、ジュニアからたむたむに聞いてみない?
気になるよー。ほら。聞きたくなーる、聞きたくなーる」
「たむたむって誰なんだ?」
「3月まで森稜署の、巽さんの下についていた田村さんって人。
4月から本庁に異動したらしい」
あたしが指をクルクルしながらジュニアに魔法をかけている横で、カイリがイチに説明を求めてる。
「しょうがないなぁ」
クスリと小さく笑ったジュニアが、未だに廊下で爆進を続けるキバを写し続けるパソコン画面に視線を戻した。
「その貸し、カエが使っていいよ」
「やったっ」
「初めから貸しを取り上げる気なんてなかったくせに」
「カエの反応を見るのが僕の楽しみなーの」
リビングのローテーブルに戻ってLINEを開く、あたしの耳には届かない場所でイタズラを咎めるように、リカコさんがジュニアに何かを小さく呟いていた。
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