警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢

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お弁当の中身

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 アギトの確保から10日目。
 今日の夕方には勾留期限が切れちゃう。

「あれから何の音沙汰おとさたもないよね」
 生徒会室でお昼ご飯を広げるあたしたちには現状を見守ることしかできないのがもどかしい。

 〈おじいさま〉から進捗しんちょく情報が入って来るなんてことは、まず無い。
 ジュニアがちょくちょく捜査1課のパソコンに(こっそり)お邪魔しているみたいだけど、中々話は進展してないみたいだし。

「一応イチとカエちゃんが襲撃された件は被害届を提出したし、〈おじいさま〉が圧力をかければ受理はされるとは思うけど」
 リカコさんがお弁当の卵焼きをお箸でつまんで口に運ぶ。

「あ。カエの煮物美味しそう」
「えへへー。昨日リカコさんと一緒に作ったお夕飯の煮物。美味しく出来たもん」
 購買のおにぎり片手にお弁当を覗き込む、ジュニアにドヤ顔しちゃう。

「ちゃんと料理の腕上がってる?」
「頑張ってるわよ」
 疑い顔のジュニアに、リカコさんもフォローしてくれて煮物の人参をパクリ。

「そう言えばカイリって、ご飯は作るけどお弁当は作らないよね」
 いつも買い弁の3人に、ふとした疑問。
「俺は作ってもいいんだけど、ちょっとクレームが多くて」

 なんでだろ。
 あたしの視線にイチがムスッと口を開く。

「カイリは学年違うからまだいいよ。
 作ってくれんのはもちろんありがたいんだけど、俺とジュニアはクラスも一緒だし、男2人が顔付き合わせて食ってる弁当の中身が毎日全く同じって、はたから見たら怪しいことこの上ないだろ」

「あははっ。た、確かにそれは、ぶぶっ怪し過ぎる」
 想像しただけで笑いが止まらない。
 リカコさんも口元をおさえて声を殺してるけど、切れ長の目尻から涙出てるし。

「ほらほら、誰か着信鳴ってるぞ」
「ふふ。私だわ」
 笑い声に紛れる音にカイリが反応して、リカコさんがランチバッグを引き寄せた。

 ちらりと画面の着信相手を確認して、リカコさんが息を整える。

「はい。ええ、大丈夫よ」
 軽い受け答えで話していたリカコさんが急に眉を寄せた。

 どうしたんだろう。

「どこで? うん。ありがとう」

 更に2、3言。通話を切ったリカコさんに視線が集まる。
「葵ちゃんからの情報提供だったんだけど。さっきもと組対5課の杉山刑事が、本庁の前で確保されたわ。
 罪状は、反社会的勢力への情報提供及び加担。で、確保には失敗したけど、どうやらキバが一緒にいたみたいなの」

 キバが、いた。
 杉山兄の確保もびっくりだけど、キバの出現に部屋の空気が一気に引き締まって感じた。

「アギト。確かまだ本庁の留置場りゅうちじょうに入っているはず。
 まさか、キバは奪還だっかんを狙ったのかな」
 ジュニアがむむむって顔でうなってる。
「え。東京拘置所とうきょうこうちしょにいるんじゃないの?」
 てっきりあの大きな拘置所に入っているものだとばっかり思ってた。

「まだ起訴きそされた訳じゃないからね。取り調べもあるし、勾留先こうりゅうさきは留置場だよ」

「…………うん」

 にこにこ笑うジュニアの言ってることの半分……5分の1位は分かったと思う。
 多分。

「まぁ、難しい話は置いておいて。本庁の留置場から連れ出すなんてこと、本気でやったって出来るわけないわ」
 リカコさんの細い指先が、唇に触れる。

「何か、目的は別にあったんだと思う」
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