警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢

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情報がだいぶゴタゴタ

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 早朝の、ちょっとひんやりした空気に身が引き締まる。

 早起きが苦手なイチも、さすがに今日はちゃんと戦闘モードに整えてきたみたい。
 装備品をチェックする目も、しっかりとお仕事モード。

 朝から仕事用のお揃いのツナギは目立ちすぎるので、それぞれが動きやすい服装での集合。

 オンボロアパート、フォレスト・コーポ。

 古い住宅街の一角で現場を遠くに確認しつつ、一応の最終確認。
「現場は正面左側、1階の角部屋。
 昨日16時以降に、キバの姿を確認」

 あたしの読み上げるような一連の報告を聞いていたジュニアが、急にストップをかけてきた。
「その部屋の表札を確認した?」

 表札?
「ううん。確認してない。その時は深雪が一緒で早く立ち去りたかったし、何よりびっくりしちゃって。
 戻った後もアギトに見つかるしでバタバタしてたから」

 あたしの報告にイチと視線を合わせたジュニアが言葉を続ける。
「昨日もちょっと話に上がったんだけど、キバが間宮家を襲撃しゅうげきしたときに、アパート脇の細い路地に入ったのを追おうとして、見失ったんだ」
 ジュニアの視線がちらりとアパートをとらえる。

「んっ。行き止まりになってたジメェッとした路地でしょ? あたしも入っちゃった。
 あそこはね、上に逃げられるようになってるんだ。へいとか、お向かいの家のひさしとかをよじ登って」
 思い出しながら話すあたしの言葉に、ジュニアがイヤそうな顔を向けてきた。

「上かぁ。逃げる側の心理と、追う側の心理の違いだよね。
 ちょっと本気で消えたのかと思ったもん」
「ジュニア」
 イチがれてきた話のかくを戻すように注意を飛ばした。

「そうだ、リカコさん。生徒会に背の高い細身の男がいるだろ。名前は確か杉……杉田? 杉本?」
 どれもピンとこないのか、イチが名前を羅列られつする中で、リカコさんが小さく口にする。

「杉山……?」

「そうだ、杉山。カエが今言った角部屋の住人のはずなんだ」
 イチの言葉にリカコさんの顔が明らかに狼狽ろうばいした。

「ちょっと、待ってよ。杉山先輩を見たの? ここで」
 リカコさんの細い指先が唇に触れて、瞳が思考の中に潜っていく。

 杉山。
 杉杉。
 なんだか引っかかる。
 最近も聞いたフレーズなんだ。
 リカコさんの驚いた顔。

 あ。

 カイリだ。
 リカコさんにこくってきたって言う生徒会の3年生が杉何とかって、カイリが話してた。

 もう一度聞きたくてカイリを振り返るあたしを、さえぎるようにリカコさんが言葉を繋ぐ。

「この前、カエちゃんの渋谷の1件で〈おじいさま〉に呼び出されでしょ?
 その時に警視庁の前で会ったのも、杉山先輩だったのよ。お兄さんが組対そたい5課ごかに所属しているって言ってたの」
「組対5課。またか。だいぶ、今回のネックだね」
 ジュニアのつぶやきに、上からカイリの声が降ってくる。

「で、どうするんだ。ここまで来て情報がだいぶゴタゴタしてきたぞ」

 みんなの視線がリカコさんに集中した。

 瞳を閉じ、小さく息を吐いたリカコさんが表をあげる。
 意志の強さを感じさせるくっきりとした黒目があたし達をみまわした。
「時間が押せば人目が出るわ。当初の計画通り行きましょう。
 カイリとイチは正面から。ジュニアとカエちゃんは裏手に回ってちょうだい」

 スっと出したリカコさんの拳にみんなの拳が集まった。

「ここでの目的はキバ、並びに餓狼がろう確保。
 住人がいるようなら名目めいもくはあくまでも保護よ。
 拳銃所持の疑いあり、深追いは禁物。
 各自怪我のないようにね。散開さんかい

 5人の拳がコツンと合わさった。
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