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ジュニアのヤツ、絶対わざとだ

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「じゃあ、送ってくるから」
 キバの襲撃も考えて、カイリとジュニアが帰宅するリカコさんのフォローに入ってる。

 見送るあたしとイチに、ジュニアがちょちょいとイチを手招きすると耳打ちをした。
「だいたい1時間半で帰ってくるからね。
 でも2人きりでお留守番だからって、押し倒しちゃダメだよ」
「だああぁぁ。いいから行ってこい!」

 なにやら楽しそうなジュニアを玄関から押し出したイチが、勢いよく鍵をかけた。
 ブスッと不機嫌そうにリビングに向かうイチの後を追う。

「ね。ジュニア何言ってたの?」
「なんでもない」
 むぅ。教えてくれるくらいいいじゃん。

 ソファに腰を下ろしたあたしに対して、イチはお向かいのソファで直立不動。

「コーヒー。飲もうかな。カエはミルクティーでいいか?」
「うん。ありがとう」
 そのまま戻る形でキッチンに入って行った。

「ねぇ、キバの件だけどさ。今、借りている部屋も襲撃されちゃうのかな」
 キッチンに立つイチの姿を、あたしの位置から見ることは出来ない。
 カップを出す音。茶葉の入った缶を開ける音。

たつみさんにまでケガさせちゃったらとか、部屋で寝てる時に襲撃されるんじゃないかとか……。
 なんだか最近よく眠れない」

 2人きりとか、何も言わずにただ聞いてくれるイチの存在感とか。
 つい気弱な言葉が口をついちゃう。

「ジュニアも、夜遅くまで色々と調べているみたいだ。
 餓狼がろうの動きは見えないけどアギトは落とした。確かに楽観視らっかんしは出来ないけど、カエの近くに出来るだけいてやるから。
 休める時はちゃんと休んでおけよ」

「うん」

 右手で心臓を護るように、胸元に添えた手と共に大きく深呼吸をすると、鼻腔びこうに触れる香りに心が急にしずまってきた。

 あ。イチの服だからか。落ち着く匂い。

 あたしにはぶかぶかのTシャツ。

 みんなでご飯も食べたし。
 痛み止めの薬のせいもあるのかな。
 ソファの柔らかさが、なんだかすごく気持ちいい。


 ###


 温かそうな湯気の昇る両手に持ったマグカップ。この内の片方は、どうやらこのまま冷める運命さだめらしい。

 甘いミルクティーを静かにテーブルに置くと、イチは自分の分のコーヒーに口をつけた。

 こんな狭いスペースで、上手く丸くなるもんだ。

 見下ろすカエは、ソファに座った姿勢のまま上半身だけが座席部分に倒れ込み、うつ伏せとも横向きとも言えない微妙な体勢を保っている。

 夕方に一戦交いっせんまじえたし、傷を負えばそれだけ体力も消耗するしな。

 しかし……。
 と2人きりなのにすんなり爆睡されるなんて、男として見られていないとヘコむべきなのか、心底信用されていると喜ぶべきなのか。

 小さなため息に、コーヒーを口に含む。
 両腕を枕に、昔から変わらない安心しきった無防備な寝顔。

 なんにも考えてねぇな、この顔は。

 あどけないその顔に、つられて笑みがこぼた。
 サイズの大きなTシャツに隠れそうな、制服のプリーツスカートから伸びる健康的な生足につい目が止まる。

 っ。
 ジュニアのヤツ、絶対わざとだよな!

 出掛けの一言が思い出されるが、それが分かっているところでどうにもならない現状。

 これは、いろいろ良くない。
 部屋に薄掛うすかけふとんがあったよな。

 とりあえず足は隠そう。

 壁掛け時計に悪意はなくとも、長い1時間半になりそうだ。
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