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あんまり語るとフラグが立つわ

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 とりあえず電話。
 オンボロアパートの屋根を駆け抜けながら、スマホの着歴を開く。
「イチイチ。発信」

 コールを聞いた耳元が、すぐにイチの声を届けてくれた。
『どうした』
 やっぱり何か起きたんだろう?
 そう言いたげな、でもやっぱり心配してくれているイチの声。

「ゴメン。アギトと鉢合わせた」

『アギトォ? よりによって! 今どこだ』
 やっぱりアギトはよくないよね。
 イチの声も一気にあせりを帯びる。

「えと。寮の近くではあるんだけど、どこかのうちの屋根の上。疾走しっそう中」
 アパートの屋根から、隣接する民家の屋根に飛び移る。

 この辺りは比較的古くから住んでいる人の多い地区らしくて、屋根も隙間なくキッチリと詰まっている感じがする。

 走り抜けるのにはちょうどいいけど、近所迷惑極まりないよね。
 振り返る視界に、アギトがアパートの屋根に姿を見せた。

 ああぁ。目が怒ってる。

 電話の奥で、聞きなれたリカコさんの声がする。
「リカコさんいるの?」

『今日は月曜だから定例会だ。インカムの電源入れろ。リカコさんがGPSで追跡する』
 あ。忘れてた定例会。

「インカムに切り替えるから電話切るよ」
『合流するまで無理するなよ』
「うん」

『イチ、カイリとジュニアに連絡とって。
 カエちゃん聞こえる?』
 インカムに入る仕事モードのリカコさんの声。
 心がスッと引き締まって、強い安心感に包まれる。

「聞こえるよ」
『寮から離れて行ってるわ。
 左方向に進路修正。
 建物の隙間すきまのちょっとした空き地があるから、そこに誘導するわね』

「はーい。……ねぇリカコさん」
 屋根の隙間から左に方向転換。ブロック塀を経由して路地に入る。

 夕焼けにはまだ早いけど、柔らかくなった午後の日差しが斜め前からあたしを照らす。
 奥階段でカイリと話をしたあの時も、午後の日差しがカイリの影を伸ばしていたっけ。

「後だと忘れちゃいそうだから今言っちゃう。
 やっぱりリカコさんの声ってすごく安心するって言うか、見えないところで守られているっ。て感じがする。
 あたしも、多分みんなも、リカコさんがそこにいてくれるだけですごく強くなれるんだ。
 外仕事あたしたち中仕事リカコさんも全部で1個だよ。
 んー。上手じょうずに言えないけど、いつか絶対リカコさんとちゃんと並んでお仕事出来るようになるから、あんまり無理しないで」

『カエちゃん』

 リカコさんの優しい声と、アスファルトを掴む靴の音。

 ん。音が近い。
 振り返る視界に、せまるアギトの姿。
 やっぱり速いっ。

『水差すようで悪いけど、あんまり語るとフラグが立つわよ』

「全くです!」
 全力疾走で路地のゴミバケツを飛び越えた。
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