警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢

文字の大きさ
上 下
67 / 121

フォレスト・コーポ

しおりを挟む
 気持ちばかりが焦っちゃう。

 深雪と別れたその足で、脇道にそれるとさっきのアパートの方面に走りだす。

 そうだ。銀龍会の頭悪男あたまわるお達の潜伏先せんぷくさきが不明のままだって、たつみさんが言ってたっけ。

 キバとアギトが白銀組系列の関係者なのはほぼ間違いないし、傘下の銀龍会の組員をかくまっていたっておかしくないよね。

 オンボロアパート。
「フォレスト・コーポ」

 大きく肩で息をする。
 酸素の足りない脳みそが名前を忘れないように、唇がつむぐ音を耳を通してインプット。

 さてさてと。

 キバとアギト、もしかしたら餓狼がろうだっているかも知れないよね。
 1人では交戦しないってイチとジュニアとも約束したし、ひとまずは……。

 どうしよう。

 むうぅぅ。
 寮まで戻るのは、なんだか時間がもったいないし。
 うん。呼んじゃおう。
 LINEで現在地を送ってから電話しよう。

 スポバの中のスマホを探すあたしの手に当たる固い手応えは、お弁当箱?
 あれ。

「なんで? スマホがない」

 ガナッシュベルを出た時はあったよね。
 んで……あ。LINEした、イチとジュニアに。

 ぽふぽふと叩くポケットに固い手応え。

 もおぉぉっ。
 落ち着けあたし。

 引っ張り出したスマホの影から、インカムが転がり落ちる。

 ふー。

 空をあおいで深呼吸。

 膝を折ってしゃがみ込んだあたしの頭上を、するどい空気の流れが過ぎていく。

 え?

 背中に吹き付ける強烈な殺気!
 体勢そのままに、振り返ったあたしの視界をふさぐ黒い服。

 見上げた先、キバとよく似た面持ちの中に冷たいまなこがあたしを射抜くように突き刺ささった。

「アギトォ⁉︎」

 って言うか、本当にナイフが刺さりかねぇーん!

「だあぁぁっ!」
 手にしたスポバを振り上げる。

 振り下ろされるナイフを巻き込んだスポバが、アギトの顔面ギリギリを行き過ぎていく。

「ガッ」
 小さな手応えとアギトのうめき声。

 スポバの取っ手の片方が、うまい具合にアギトの瞳をはじいたらしい!
 身体を押し出し、引き戻すスポバがアギトの側頭部にぶち当たる。

 乾いた固い音。
 さすがあたしのお弁当箱っ。グッジョブ!

 落ちたインカムを拾い上げて、アギトに背を向けると靴底がアスファルトを蹴る。

 オンボロアパートを過ぎてすぐ、目に留まった細い路地に入り込む。
 けどおおぉぉぉ。

「行き止まりっ」
 見るからにじめじめした地面からは、ひょろひょろ雑草がゴメンね。ってお辞儀じぎをしてる。

 でも、戻れないし。前後左右がダメなら……上下。

 バッと見上げる空は、建物の屋根に囲まれて不格好な四角形。
 オンボロアパートを囲む低めのブロック塀。
 反対側にはり出した一軒家の狭いひさし。

 行ける!

 スポバをデイパックみたいに背負って、どうにかブロック塀に手を掛けると、一気に身体を引き上げる。
 ひさしに飛び移り、その上の電信柱から突き出した鉄の棒に手を掛けた。

 これ、下から見上げられたらスカートの中丸見えだぁ。

 今日の下着は何を付けていたかなんて、ふと頭をよぎっちゃうけど、そんなことを気にしていられるほどの余裕をブチかましてる状況じゃない。

 電信柱をのぼる途中で、せり出したオンボロアパートの2階の屋根に飛び移った。

 ちらりと振り返る路地から、右目を押さえたアギトの姿を見る。
 このまま気付かずに見逃してくれるかも。なんて、やっぱり都合がよすぎるよね。

 本気で視線に射抜かれるんじゃないっかて言うくらい、怒りに満ちたアギトの目があたしの姿をとらえた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

かの子でなくば Nobody's report

梅室しば
キャラ文芸
【温泉郷の優しき神は、冬至の夜、囲碁の対局を通して一年の祝福を与える。】 現役大学生作家を輩出した潟杜大学温泉同好会。同大学に通う旧家の令嬢・平梓葉がそれを知って「ある旅館の滞在記を書いてほしい」と依頼する。梓葉の招待で県北部の温泉郷・樺鉢温泉村を訪れた佐倉川利玖は、村の歴史を知る中で、自分達を招いた旅館側の真の意図に気づく。旅館の屋上に聳えるこの世ならざる大木の根元で行われる儀式に招かれられた利玖は「オカバ様」と呼ばれる老神と出会うが、樺鉢の地にもたらされる恵みを奪取しようと狙う者もまた儀式の場に侵入していた──。 ※本作はホームページ及び「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。 バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・ 「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」 武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。

処理中です...