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ザッハトルテの1口目
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今日の剣道教室も無事終了。
子供たちを帰し、道場に箒をかけ、室田さんにお疲れ様の挨拶をして、ジュニアのほっぺたをむにぃぃっと摘む。
「逃げたなぁ」
「痛ひよぉ」
しれっと練習の後半から参加してぇ。
「ごめんってば」
ほっぺたをすりすりするジュニアがにこっと笑う。
「お詫びに僕がもらったノエルのケーキ食べ放題の権利、カエにあげるよ」
「えっ」
ぱっと顔が喜んじゃった。
「お。人が買収される瞬間」
うぐぅぅっ。
薄く笑ったイチの一言に顔を引き締める。
「い、いらないもん」
「えー。いいの?」
にこにこと誘惑してくるジュニアを突っぱねた。
視界の隅で、プルプルと背中を震わせながら笑いをこらえるリカコさんを捉えつつ、怒った顔を持続する。
「いらない!」
「本当にいいの? ふーん。もったいなぁい」
ジュニアがちらりとカイリを見た。
「あ。じゃあ、俺が貰おうかな」
はいっ。
と手をあげるカイリの肩をジュニアが叩く。
「じゃあカイリにあげるね。いいなぁ。カイリはカイリのおごりでノエルかぁ。
じゃあ、着替えたらみんなでおやつ食べに行こう。動いた後はお腹空くもんね」
スタスタと道場を後にするジュニアに続いて移動が始まったんだけど……。
「ん? あれ。なんか、なんか誤魔化されてない? お手伝いサボった件はっ!」
###
甘い香りに、店内の可愛らしい飾り付け。ガラスケースの中のケーキには、つい目移りしちゃう。
幸せ~。
席に通されるリカコさんの後について歩きつつ、にこにこが止まらない。
「単純」
「そこが可愛い」
呆れるイチと微笑むジュニアの横を、カイリが小さく笑いながら通り過ぎていく。
お客さんが点在しているお店の、奥のちょっとだけ広いエル字のスペースに陣取ってメニューとにらめっこ。
んー。
「迷う」
悩みに悩んだ末に、あたしの目の前には苺のショートケーキと、ザッハトルテ。
個人的にチョコレートは外せない。
「2個かよ」
「大丈夫。その分のカロリーは消費済みだから」
隣に座るイチには目もくれず、見比べるケーキさん達。
「んー。どっちから食べよう。迷うぅぅ」
「美味しいおやつを食べながらする話じゃないんだけど、時間短縮させてもらうね」
みんなが運ばれてきたケーキに手をつけ始めたのを確認して、ジュニアが話し始める。
「一昨日確保した銀龍会の2人組なんだけど、イチとカエとの接点がわかったよ」
「んんんっ!」
頬張ったショートケーキが口の中で甘くとろけていく。
「それ、気になる」
もうちょいゆっくり味わいたかったけど、ケーキをこくんと飲み下してジュニアに向かい身を乗り出した。
やっぱりみんなも気になるみたいで、ジュニアに視線が集中する。
「ほんっとバカバカしい偶然だった。Rロイヤルホテル、銃の密売があったあの日に宿泊していたらしいんだ、あのスーツ男」
「それは、個人的に泊まっていたってこと?」
リカコさんが首小さくをかしげる。
「そ。んで、現場から引き上げる途中のカエに遭遇したみたい」
みんなの視線が、今度はあたしに集中する。
「引き上げる時」
何かあったっけ?
フォークの先を咥えたまま、視線が上を向く。
「屋根裏から客室の廊下に脱出した時に、ちょうど部屋から廊下に出てきたスーツ男の上に落ちたみたいだよ」
落ち……。
『あっ』
イチと声が重なり、写真を見るように映像がフラッシュバックする。
「落ちたな」
「落ちた。しかも、あのおっさんパンツ一丁だったんだよ!」
ああ~。思い出しちゃった。気持ち悪ぅ。
「屋根裏から脱出したら、タイミング悪く出てきたおっさんの上に落ちて。そしたらおっさんパンイチで、びっくりしてみぞおちに一発叩き込んだ後、回し蹴りで吹き飛ばした」
「一般客」
カイリにとがめるように睨まれた。
「みぞおちに3発は入ってた」
思い出しついでにイチが暴露。
そう言う情報はいらないから。
「純情な乙女の目の前に、パンイチで現れる方が悪い!」
「本人は夕刊を取ろうとしただけらしい。
なのに吹き飛ばされて、パンイチで廊下で気絶。
目が覚めたらパンイチで晒し者。
しかもオートロックで部屋にも入れない」
「そりゃ、恨まれるわ」
同情するようなカイリの声。
パンイチパンイチ言い過ぎだから。
「そっかあ。でもま、結果ヤクザだったんだし、一般客じゃなかったんだから吹っ飛ばしてても良し。って事で」
あたしはザッハトルテの1口目を頰ばった。
子供たちを帰し、道場に箒をかけ、室田さんにお疲れ様の挨拶をして、ジュニアのほっぺたをむにぃぃっと摘む。
「逃げたなぁ」
「痛ひよぉ」
しれっと練習の後半から参加してぇ。
「ごめんってば」
ほっぺたをすりすりするジュニアがにこっと笑う。
「お詫びに僕がもらったノエルのケーキ食べ放題の権利、カエにあげるよ」
「えっ」
ぱっと顔が喜んじゃった。
「お。人が買収される瞬間」
うぐぅぅっ。
薄く笑ったイチの一言に顔を引き締める。
「い、いらないもん」
「えー。いいの?」
にこにこと誘惑してくるジュニアを突っぱねた。
視界の隅で、プルプルと背中を震わせながら笑いをこらえるリカコさんを捉えつつ、怒った顔を持続する。
「いらない!」
「本当にいいの? ふーん。もったいなぁい」
ジュニアがちらりとカイリを見た。
「あ。じゃあ、俺が貰おうかな」
はいっ。
と手をあげるカイリの肩をジュニアが叩く。
「じゃあカイリにあげるね。いいなぁ。カイリはカイリのおごりでノエルかぁ。
じゃあ、着替えたらみんなでおやつ食べに行こう。動いた後はお腹空くもんね」
スタスタと道場を後にするジュニアに続いて移動が始まったんだけど……。
「ん? あれ。なんか、なんか誤魔化されてない? お手伝いサボった件はっ!」
###
甘い香りに、店内の可愛らしい飾り付け。ガラスケースの中のケーキには、つい目移りしちゃう。
幸せ~。
席に通されるリカコさんの後について歩きつつ、にこにこが止まらない。
「単純」
「そこが可愛い」
呆れるイチと微笑むジュニアの横を、カイリが小さく笑いながら通り過ぎていく。
お客さんが点在しているお店の、奥のちょっとだけ広いエル字のスペースに陣取ってメニューとにらめっこ。
んー。
「迷う」
悩みに悩んだ末に、あたしの目の前には苺のショートケーキと、ザッハトルテ。
個人的にチョコレートは外せない。
「2個かよ」
「大丈夫。その分のカロリーは消費済みだから」
隣に座るイチには目もくれず、見比べるケーキさん達。
「んー。どっちから食べよう。迷うぅぅ」
「美味しいおやつを食べながらする話じゃないんだけど、時間短縮させてもらうね」
みんなが運ばれてきたケーキに手をつけ始めたのを確認して、ジュニアが話し始める。
「一昨日確保した銀龍会の2人組なんだけど、イチとカエとの接点がわかったよ」
「んんんっ!」
頬張ったショートケーキが口の中で甘くとろけていく。
「それ、気になる」
もうちょいゆっくり味わいたかったけど、ケーキをこくんと飲み下してジュニアに向かい身を乗り出した。
やっぱりみんなも気になるみたいで、ジュニアに視線が集中する。
「ほんっとバカバカしい偶然だった。Rロイヤルホテル、銃の密売があったあの日に宿泊していたらしいんだ、あのスーツ男」
「それは、個人的に泊まっていたってこと?」
リカコさんが首小さくをかしげる。
「そ。んで、現場から引き上げる途中のカエに遭遇したみたい」
みんなの視線が、今度はあたしに集中する。
「引き上げる時」
何かあったっけ?
フォークの先を咥えたまま、視線が上を向く。
「屋根裏から客室の廊下に脱出した時に、ちょうど部屋から廊下に出てきたスーツ男の上に落ちたみたいだよ」
落ち……。
『あっ』
イチと声が重なり、写真を見るように映像がフラッシュバックする。
「落ちたな」
「落ちた。しかも、あのおっさんパンツ一丁だったんだよ!」
ああ~。思い出しちゃった。気持ち悪ぅ。
「屋根裏から脱出したら、タイミング悪く出てきたおっさんの上に落ちて。そしたらおっさんパンイチで、びっくりしてみぞおちに一発叩き込んだ後、回し蹴りで吹き飛ばした」
「一般客」
カイリにとがめるように睨まれた。
「みぞおちに3発は入ってた」
思い出しついでにイチが暴露。
そう言う情報はいらないから。
「純情な乙女の目の前に、パンイチで現れる方が悪い!」
「本人は夕刊を取ろうとしただけらしい。
なのに吹き飛ばされて、パンイチで廊下で気絶。
目が覚めたらパンイチで晒し者。
しかもオートロックで部屋にも入れない」
「そりゃ、恨まれるわ」
同情するようなカイリの声。
パンイチパンイチ言い過ぎだから。
「そっかあ。でもま、結果ヤクザだったんだし、一般客じゃなかったんだから吹っ飛ばしてても良し。って事で」
あたしはザッハトルテの1口目を頰ばった。
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