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間違えてお風呂のドアとか開けちゃいそう
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あたしの前で視線を止めた巽さんがゆっくりと口を開く。
「せりかさんは退院し次第実家の総監宅へ戻ってもらう。香絵、お前も同行しろ」
え。
「ちょっと待って、〈おじいさま〉のところは都心もいいとこだよ? 学校に通える距離じゃない」
つい身を乗り出す。
「出席日数は気を付けろ、だがなぁ、今更何週間か休んだところで気になるような成績じゃないだろう。その分は後で剣士に叩き込んでもらえ。
俺は署の仮眠室でも、カプセルホテルでもいいが、香絵は他に行くところがないだろう」
酷い言われようですな。
「でも、でも」
助けを求めるようにみんなを見回すけど、襲撃の危険性はみんなの口を硬くする。
「総監のところなら警備もしっかりしているし」
ヤバい話がまとまっちゃう。
「えと、ほら、ここ! ここなら大丈夫じゃない? 警備、護衛も3人もいるし」
あたしの会心の一撃に、あからさまにうーんと唸るような空気になる。
「カエ。ここ一応男子寮だよ」
「大丈夫、あたし気にしないから」
ジュニアの一言に対し、びしっと言い切るあたしにイチが頭を抱える。
「気にしてくれ」
「大体個室も空いてないしな」
「カイリも反対意見なの?」
むぅっと口を尖らせると申し訳なさそうに視線を逸らされる。
「そうだね。着替えとか困るんじゃないの? 僕も間違えてお風呂のドアとか開けちゃいそうだし」
「う。それは困る」
「それは間違えて、じゃなくて故意ね」
遠くからリカコさんが突っ込んでくる。
「ええっ。みんな反対なの?」
いいよって言ってもらえると思ったのに。
「そもそもどこで寝るつもりだよ」
イチの声にちょっと考える。
「このソファ」
ぽすぽすと叩くと、
「ダメだ、男どもがベッドでスヤスヤ寝てるのに、レディをソファなんかで雑魚寝させられるか」
カイリがいち早くストップをかけてくる。
「そうだよー。そういう時は、『イチのお部屋にお泊りするぅ』くらい言ってあげないと」
ガチャン。
ジュニアの一言に、巽さんがお茶をテーブルにひっくり返した音、何事かを叫んだカイリの声が重なる。
「きゃあっ。お茶お茶」
リカコさんが立ち上がろうとしたところですかさずあたしが席を立つ。
「台布巾持ってくる」
「あ。逃げた」
に、逃げたんじゃないもん。
ジュニアへのツッコミも我慢してキッチンに逃げ……駆け込んだ。
「今のはどういうことかな」
「あれか、今日太一は俺と2人で間宮家にお泊まりか」
カイリと巽さんがイチに詰め寄ってる声がキッチンまで聞こえてくる。
いや、別に何もやましいことなんてないんだけどね。
「だっ。な、何もやましいことなんかねぇって」
ほら。
「えー、まだ手出ししてないの?」
「ジュニアァァァ!」
なぜか焦ったようなイチの叫び声。
えーっと、火に油を注ぐって知ってる?
こそーっとソファを回り込み、ソファの背に身体がめり込んじゃうんじゃないかってくらい押し付けてる、いや、押し付けざるをえないイチと、カイリと巽さんの背中を見る。
リカコさんの隣でこぼれたお茶に布巾をかけると、しゅわーっと水分が吸収されていった。
「話が進まない」
ローテーブルに片肘をつき、頬を乗せるリカコさんがポツリと漏らす。
「そうだ、LINE見たわ。心配させちゃってごめんね。
なんだか、カエちゃんが幸せそうだと不思議とみんなが幸せな気分になれるのよね」
優しい微笑みを向けてくれるリカコさんの瞳がいたずらっぽく光った。
「まぁ、今度お茶でもしながらゆっくり話しましょう」
「せりかさんは退院し次第実家の総監宅へ戻ってもらう。香絵、お前も同行しろ」
え。
「ちょっと待って、〈おじいさま〉のところは都心もいいとこだよ? 学校に通える距離じゃない」
つい身を乗り出す。
「出席日数は気を付けろ、だがなぁ、今更何週間か休んだところで気になるような成績じゃないだろう。その分は後で剣士に叩き込んでもらえ。
俺は署の仮眠室でも、カプセルホテルでもいいが、香絵は他に行くところがないだろう」
酷い言われようですな。
「でも、でも」
助けを求めるようにみんなを見回すけど、襲撃の危険性はみんなの口を硬くする。
「総監のところなら警備もしっかりしているし」
ヤバい話がまとまっちゃう。
「えと、ほら、ここ! ここなら大丈夫じゃない? 警備、護衛も3人もいるし」
あたしの会心の一撃に、あからさまにうーんと唸るような空気になる。
「カエ。ここ一応男子寮だよ」
「大丈夫、あたし気にしないから」
ジュニアの一言に対し、びしっと言い切るあたしにイチが頭を抱える。
「気にしてくれ」
「大体個室も空いてないしな」
「カイリも反対意見なの?」
むぅっと口を尖らせると申し訳なさそうに視線を逸らされる。
「そうだね。着替えとか困るんじゃないの? 僕も間違えてお風呂のドアとか開けちゃいそうだし」
「う。それは困る」
「それは間違えて、じゃなくて故意ね」
遠くからリカコさんが突っ込んでくる。
「ええっ。みんな反対なの?」
いいよって言ってもらえると思ったのに。
「そもそもどこで寝るつもりだよ」
イチの声にちょっと考える。
「このソファ」
ぽすぽすと叩くと、
「ダメだ、男どもがベッドでスヤスヤ寝てるのに、レディをソファなんかで雑魚寝させられるか」
カイリがいち早くストップをかけてくる。
「そうだよー。そういう時は、『イチのお部屋にお泊りするぅ』くらい言ってあげないと」
ガチャン。
ジュニアの一言に、巽さんがお茶をテーブルにひっくり返した音、何事かを叫んだカイリの声が重なる。
「きゃあっ。お茶お茶」
リカコさんが立ち上がろうとしたところですかさずあたしが席を立つ。
「台布巾持ってくる」
「あ。逃げた」
に、逃げたんじゃないもん。
ジュニアへのツッコミも我慢してキッチンに逃げ……駆け込んだ。
「今のはどういうことかな」
「あれか、今日太一は俺と2人で間宮家にお泊まりか」
カイリと巽さんがイチに詰め寄ってる声がキッチンまで聞こえてくる。
いや、別に何もやましいことなんてないんだけどね。
「だっ。な、何もやましいことなんかねぇって」
ほら。
「えー、まだ手出ししてないの?」
「ジュニアァァァ!」
なぜか焦ったようなイチの叫び声。
えーっと、火に油を注ぐって知ってる?
こそーっとソファを回り込み、ソファの背に身体がめり込んじゃうんじゃないかってくらい押し付けてる、いや、押し付けざるをえないイチと、カイリと巽さんの背中を見る。
リカコさんの隣でこぼれたお茶に布巾をかけると、しゅわーっと水分が吸収されていった。
「話が進まない」
ローテーブルに片肘をつき、頬を乗せるリカコさんがポツリと漏らす。
「そうだ、LINE見たわ。心配させちゃってごめんね。
なんだか、カエちゃんが幸せそうだと不思議とみんなが幸せな気分になれるのよね」
優しい微笑みを向けてくれるリカコさんの瞳がいたずらっぽく光った。
「まぁ、今度お茶でもしながらゆっくり話しましょう」
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